現世乱武小説
surprize morning(小十佐)
日曜日、午前7時。
佐助ははっとして時計を見上げ、今しがた焼き上がて盛りつけていたウインナーをぽとりとフライパンに落とした。
「起こすの忘れてたっ…」
がんっと耳障りな音を立ててフライパンをガス台に戻し、音速を超える素早さで台所を飛び出す。
ろくに長くもない階段を二段飛ばしで駆け上がり、乱暴に幸村の部屋のドアを開け放った。
「旦那っ!!」
「む、どうした佐助、鬼のような顔をして…」
いつもは膨らんだタオルケットに包まって健やかな寝息を立てている幸村が、一言も声をかけていないのに。
階段から投げ落とさない限り浮上してこない意識をしっかり持って。
起きていた。
「……あ、れ…?」
「佐助?朝飯の用意が出来たのか?」
「え……今…まだ、だけど…」
有り得ない。
旦那が俺が起こす前から起きているなんて。
しかもかなり目も冴えているようで、さっぱりとした爽やか笑顔を振り撒いているではないか。
予想していたものとまるで違う光景に頭が混乱する。
佐助は、何か気味の悪いものを見るような目で幸村を見つつ恐る恐る問い掛けた。
「…旦那、自分で起きたの…?」
「無論!…と言いたいところだが、実は昨夜から30分ごとに目が覚めてしまってな。ならばと思いずっと起きていたのだ」
「えっ、じゃああんまり寝てないの?」
似合わない苦笑をして、照れ隠しからか頭を掻く幸村。
佐助のやや心配の色が滲む声に、これまた不似合いにも小さく控えめに頷いた。
「だが眠くはないぞ。早起きとは得した気分になるものでござるな!」
「そ、うなんだ…
でも旦那、慣れないことはしないほうがいいよ?ただでさえ今日は大切な日なんだから」
「わ、判っておる!」
大切な日。
そう、今日この日こそ、先週から幸村が待ち望んでいた政宗との初デートの日。
眠れなかったという理由も自ずと知れてくる。
幸村の初々しさに温かい気持ちになりつつ、佐助は踵を返した。
「じゃあ着替えてから来なよ。ご飯番終わらせとくからさ」
「ま、待て佐助っ」
慌てたような幸村の声に、ん?と振り返る。
思い詰めたように軽く唇を噛んで床を睨むこと数秒、ベッドの下に入れていた紙袋を取り出した。
「?……見ていいの?」
こちらに押し付けるように突き出したその紙袋をつい受け取ってしまいつつ訊ねると、幸村は顔を伏せたまま小刻みに首肯してくる。
どうもおかしい様子に訝しみながら紙袋の中身を覗き込むと、何やらピンク色のものが無造作に突っ込んである。
「…服?」
小首を傾げそれを取り出して広げると、ピンクの春もののTシャツだった。
七分袖で細身のデザインはどう見ても女性向けにあつらえたもので、幸村が持つには少々ちぐはぐして見える。
これが何、と視線で問い掛けると、蚊の鳴くような声でぽそぽそと返してきた。
「……ま、政宗殿が…今日は桃色の服で、と…」
「…これ着てこいってこと?」
「いや、買ったのは俺なのだが…」
「あー…。間違えたんだ」
「う、うむ」
つまり。
政宗に今日のデートにはピンクのシャツを着てこいと指示された幸村が意気込んで購入したものが、女性ものの可愛らしいTシャツだった、と。そういうことらしい。
「買う前に気付こうか旦那…」
「……すまぬ。かような色を探していたら…つい」
なるほど。確かにピンク色の服は圧倒的に女性もののほうが多い。
目当ての色に釣られてそっちに足が向いてしまったのだろう。
「ま、伊達の旦那にちゃんと説明すればいいんじゃない?違うの着てったって怒ったりはしないっしょ」
「しかし……政宗殿を落ち込ませてしまう…」
「…でもだからって…これは小さすぎるって」
幸村はいつもMサイズを選ぶ。
当然女性もののそれとは知らず買った服も、同じ感覚でMサイズだった。
店が開くにはまだまだ時間がかかる。
…こうなれば手はひとつだ。
「よーし旦那!俺様の貸してあげるからそれ着て行きな!」
落胆する幸村の肩を叩いて調子を変えて笑ってみせると、ぽけっとした顔でこちらを見てくしゃくしゃに顔を歪ませた。
「さ…さすけぇぇぇえ!!!」
「季節はちょっと違うけど、」
「佐助っ、佐助っ」
「首がV字のロンTならあるから…」
「すぁすぅけぇぇええ!!!!」
「……」
「ざずげぇ…ぅおおお!!」
「だぁぁもう…うるさーいっ!」
幸村の雄叫びに脳みそを揺さ振られながら叫び返す。
なんだか可笑しくて笑えた。
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