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現世乱武小説
複雑親心、触れてくれるな。(小十佐)
*視点変更*





旧知の仲とはいえ、金を払って旅館に足を運んでいるからには客である。

客がいなければ従業員に任せてマンションに帰ることもあるが、そうでないときは普通政宗も小十郎も旅館で寝泊まりする。


…そう、普通は。


「へぇ、伊達さんはデートですか」

「…デートって言うな」


日曜日、午前6時。
無駄に早起きをしたらしい左近は、三成を起こすのも悪いからという理由で事務所に入り浸っていた。

売上を整理していた小十郎が苦々しい面持ちで釘を刺すと、左近は何やらよろしくない微笑でおやと小首を傾げ、デスクに肘を突いて身体を乗り出してくる。


「まだ子離れできてないんですね」

「……うるせぇ」


政宗は昨夜、仕事を小十郎に任せてマンションに一人帰ったのだ。
今日、恋人と映画を見に行くために。

本当は一番慌ただしい土日なのだからオーナーたる政宗にはいてほしい。
しかし、政宗は学校と仕事に日々追われて自分の時間というものを持つことが出来ないのだ。
年頃の青年にそれはあまりにも酷で、束縛されていると言っても過言ではない日程に小十郎も申し訳なく思っていた。

だから、今回のデー……否、外出を許可したのだ。
政宗の代わりを寄越すからと、政宗の恋人からも頭を下げられては(渋ったらかなり煩くなるのは目に見えているというのもあり)応じないわけにもいかない。


しかしその建前を乗り越えて、目の前の男はこちらの本心に踏み込んできた。


小十郎は政宗の旅館建設を誰よりも近くで支えてきた。
当時の政宗はまだまだ幼さの残る顔付きで、危なっかしくていつも手元に置いておかないと何をしでかすか判らないほどで。
社会の穢れも知らない政宗を、極力そういったものに近づけさせないようにすらしていた。

そんな、言わば箱入り息子の政宗が想い人と外出となれば、すんなりああそうですかいってらっしゃいなどと送り出せるわけもない。
そりゃあ幸せな時間を潰させたくはないし、それが親心というものなのだろうが…


「ちっ…客らしくねぇ客だな」

「まあまあ。で、佐助とはいつ出掛けるんです?」

「……」


なんでそれを知ってるんだ。
そう訊いてやりたかったが、恐らくこいつは今あてずっぽうでものを言っている。下手に問い詰めて自ら墓穴を掘ることだけは避けたいのだが…


「いつなんです?」

「……」


避けたい。の、だが…


「片倉さん?…どうしたんです、固まってますけど…」

「……」


あてずっぽうでは……ないのか?
いやいや!流されるな、俺がこいつに口で負かされたことは数知れず、その九割は自爆だったことを思い出せ。


「あのー…」

「…誰かに訊いたのか」


当たり障りのない切り返しをしてやると、左近の苦笑が返ってきた。


「いえ、誰からも」


……危ねぇ…


「妙な勘繰りするな。そんな予定はない」

「……嘘吐くの下手ですねぇ」

「なっ…」


呆然として固まる俺を見てさも楽しそうに笑ってくる。


「あれだけ間があれば誰でも判りますって」

「……だからテメェとは会話したくねぇんだよ」

「はっはっは、随分ですねぇ。俺は楽しいですよ?」


……この野郎。

完全に遊ばれていることに遅まきながら気付き、がしがしと頭を掻いて無意識に止めていた手でキーボードを叩く。

いつもなら仕事に戻ろうとするその小十郎の姿勢を合図に引き下がる左近だったが、今回はなかなか折れてはくれなかった。


「何処に行くんですか?遊園地だとかありきたりなデートスポットはやめてくださいよ」

「遊園地は駄目なのか」


どうでもいいような話だと流そうとしたが、何となしに気にかかってちらりと左近を見遣る。

そんな小十郎の反応に、左近は逆に何故判らないのかと言いたげな眼差しでぱちぱちと瞬きしてみせた。


「いや…だって片倉さん、遊園地っていやぁ小さい子の溜まり場でしょう。そんな中にあんたが入ってったら……ねぇ?」

「…お前にだけは言われたくねぇぞ。この顔面凶器め」


恨めしげに睥睨しつつぼそりと言い返すと、流石の左近も笑顔のままこめかみを器用に引き攣らせた。


「が、顔面凶器ですか…言いますね。でも俺、一応片倉さんよりソフトな顔でいられる自信ありますよ」

「その顔のどこがソフトだ。若者風に例えるなら"超ワイルド"ってやつじゃねぇか」

「片倉さんに比べて、ってことです。それに今の時代のどこにそんな例えを使う若者がいるんですか」


己の顔がどうだとかなんて、そんなものはとっくに自他共に理解している。
大概こういった途方もない討論になったら、互いに「鏡を見ろ」と罵り合って収束させる。

本気にならなくて済むあたりが、こいつと付き合っていて楽なところだ。

楽だというだけで楽しくはないのだが、こいつの中ではイコールらしい。

と、そのとき内線が鳴った。
客の朝食が全員分調ったという旨を伝えるもので、命に代えても冷ますなという我ながら無茶な指示を電話越しの地下に飛ばした。


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