現世乱武小説
そう、俺はうんざりしてる(左三)
抱き締めてくる腕の持ち主が恨めしくて仕方ない。
何故あんな閏でのようなキスをしてくるのだ…
それに、気付けばそのときの濡れた情景を思い出している自分が確かにいる。
体中余すところなく肌をまさぐられ、これでもかというほど隅々まで愛される。
初めこそ嫌だったが、今はどうだ。
他人に触れられることにすら嫌悪を覚えていた筈なのに、今では左近に触れていたいと思ってしまう。
まぁ、思うだけで実際手を出してくるのは左近なのだが、それだって嫌がるフリはしているが本音は違う。
あの声が自分を呼ぶのが嬉しくて。
あの瞳が優しげな光を孕んで自分を映すのが嬉しくて。
あの手が労るように髪を撫でてくれるのが嬉しくて。
だから傍に居たいと願ってしまう。
もっと近い位置で、左近の体温を感じていたいと強請りたくなってしまう。
言葉にすることは苦手だけど、この想いは左近にちゃんと届いているのだろうか。
「い、行かないと言っているだろうっ」
「大丈夫ですって。まだ朝も早いですし……6時ですか?こんなところまで来てそんな早起きする人居ませんよ」
「じゅっ、従業員はもう起きているだろうが!」
「脱衣カゴに客のものがあれば入って来ませんって」
「入らなくても声は漏れるっ」
「声…?あれー三成さん、風呂で何やる気なんです?」
「ッ〜……きっさまぁ…!」
この雰囲気と流れからして普通そうだろうが!
拳を握り込み、そのすっ惚けた脳みそ揺さぶってやろうかと半ば本気で考えていたのだが、愉快そうな微笑と宥めるように背をさする手に流されてしまい、そんな気も失せてしまう。
結局丸め込まれて終わってしまうこのもどかしさにはどうも慣れない。
一度でいいから左近に口で勝ってみたいと思うものの、それは無理だと自分で断言出来てしまうのだから虚しすぎる。
「さあさあ行きましょ。皆が起きる前に」
「……行くなら一人で行け。俺は寝なおす」
きゅうきゅうと抱きしめてくる腕からなんとか脱出しようと試みるが、力で敵うはずもなく、再ロックされるという無様な展開になってしまった。
「寝なおすって……このままで眠れるんですか?」
言いながら半端な熱を蓄えたままの自身を包み込み、揉みしだくように弄られる。
「んっ…ぁ、ちょ…」
明らかに煽る手つきで遊ばれ、つい甘い声が出てしまう。
こいつを付け上がらせてしまうだけなのに。…ほら、にやけたその顔、世間一般ではエロオヤジというんだ、馬鹿者。
「ほら、辛そうですよ?」
「だっ…れのせいだと…!」
「三成さんをこんなに敏感にさせてしまった左近のせいですね。すみません」
「そういう言い方をするなっ!俺は別にそんな…卑猥になった覚えは…」
「……俺からすれば、三成さんが自分の口で卑猥なんて言い出すこと自体びっくりなんですがね」
「う、うううう煩いぞっ!卑猥ではなくヒロインと言ったのだ!!
……その目はやめろぉ!!」
苦しい言い訳で逃げようとしたが、すべてを見抜いたようなやらしい笑顔を浮かべてこちらを見てくる。
歯を剥き出す勢いで怒ってやるが、へらへらと笑われてかわされた。
…俺と左近のやり取りはもはやパターン化していると思う。
俺はうんざりしているのだ。
だが左近が味を占めて付け込んでくるから仕方なく相手をしてやっているのだぞ。仕方なく。だから左近がやめてくれるのなら大感激だ。
「とにかく行きましょう、三成さん。ただ処理するだけなんですから。でないと、本当に客まで起きてきます」
「う……。わ、判った…」
困ったように優しく笑いかけられると俺が折れること、絶対この狡猾色魔は知っていると思う。
でないとこんな絶妙なタイミングで気に入りの顔を見せるわけがないのだから。
じゃあ、と言ってようやく俺を解放して立ち上がる左近。
初夏の朝なのだから寒いはずがないのだが、今まで密着していたものが離れると少し寒い。
座り込んだまま左近の浴衣の袂をくいっと引っ張ると、苦笑して長身を屈め、脇の下に手を入れられたかと思うと重力に逆らってふわりと持ち上げられて立たされた。
「抱っこしていきましょうか?」
「っ…要らん!!」
にやりと笑われ、なんとなく気に食わなくて手を振り払いずんずんと部屋から先に出る。
ゆっくりとした歩調でついてくる左近を置いていくように、わざと出来る限りの大股で歩いてやった。
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