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現世乱武小説
キスマークよりも…(小十佐)


赤い…

いや、朱い…!


かっこいい感じに脳内で変換してみたところで、鬱血痕が消えるわけもなく。

鼓膜の奥には、絶対あのときつけられたものだと判る小十郎の声――


印だ――


…見えてるんだけど小十郎さん!

てことは当然伊達の旦那にも見られていたわけで。
あえて触れてこなかったのは優しさからなのかイジメからなのか…


今日は首まであるシャツを着ようと心に近い、衣類を洗濯カゴに突っ込んで浴室に入った。

渇いたタイルの上は、季節が季節なだけに程よい冷たさで足の裏を受け止める。
爽やかな気分でシャワーの蛇口を捻り、肩口に湯を当てた瞬間、危うくシャワーを壁に投げ付けそうになった。


「…忘れてた。少し出してからじゃないとだっけ」


あまりの冷たさに胸が痛い。
最近では旅館・竜の住み処の風呂を貰うことが多かったためか、一般家庭の湯の事情が頭から抜け落ちていた。

床にシャワーを当てて冷水を促しながら、そっと赤い点をなぞる。

印というのはおそらく所有印だろう。
俺が小十郎さんのものだとしたら…

小十郎さんも俺のものだと思ってもいいのか?

伊達の旦那に尽くしてきたあの人を、心だけでなく身体まで独占しても…


……違う。


俺は、あの人の心すら独占出来ていない。
小十郎さんには伊達の旦那、従業員たち、畑…大切なものはたくさんあるはずだ。
俺はそのひとつ。
そもそもの話、独占しようなんて思っちゃいけないんだ。

俺と同じように、形はどうであれ、小十郎さんを必要としている人はいる。


それでも、強いて言えば、小十郎さんの恋慕の情だけは独占出来てるって言えるかな。

愛情は皆に与える人だから。
その中でも俺のものなのは恋慕の部分。
敬愛の部分は専ら伊達の旦那に向けられていることだろう。


……寧ろ身体のほうが俺様が貰っちゃってるとこ多い…?


「…っくしょい!」


気がつけば、最初に水を浴びた肩はすっかり冷たくなっていた。
鼻をすすり身震いし、とっくに温かくなっていた湯を頭から被りもやもやする思考も一緒に洗い流す。

でも、先程浮かんだ考えだけは流れてくれない。

考えとはもちろん、小十郎の身体のどこまでが自分のものなのか、だ。

とりあえず…下半身は貰ってるよね…
あとは手とか?
いや、手は何をするにも必要だから……指?
てことは口も口じゃなくて舌…?


……や、やばい。



自分で勝手に考えていただけだったが、じわ…と下腹部が甘く疼いた。


「へ、変態か俺様はぁ!指だの舌だの…部位を挙げてるだけだっての!足りてないわけないから!足りてるんだよ!てか寧ろいっぱいいっぱい!!」


うがー!と髪を掻き乱しながら己を言いくるめる。

だってそうでしょ?
俺様、散々小十郎さんに鳴かされたもん。
まだ愛されたいとか触ってほしいとか、そんなこと思うほど欲求不満じゃないも――


「佐助ぇ!!戻ったのだなっ!朝飯はまだか!」

「だだだだだ旦那っ?は、早起きだね……ってか開けっ放しとか寒いから!」


自分自身に弁解している途中に乱入してきたのは寝間着の幸村。
浴室の曇りガラスの扉を全開に開けてくれやがった。


「む、あぁ、すまぬ。……ん?」

「……な、何?」


キスマークのことを言われたら虫に刺されたと言おうと決めつつ、首を捻る幸村の次の言葉を待つ。
そんなにまじまじと見ないでほしいんだけど…


「…佐助?」

「……はい?」

「…そなた……いや、気のせいか?」

「…ナニガデショウ」


幸村はさらに目を凝らして見つめてくる。
胸元ではなく、顔を。
居心地の悪さに負けそうになった頃、ようやく幸村が口を開いた。

「……ものすごく生き生きしているように見える。艶があるというか…若くなったか?」

「っ……ごほっ、げほっ、そ、そう?疲れ取れたのかなーあははは」


カウンターを予想していたのに背負い投げされた気分…

まともな例えも出来なくなり、苦し紛れの作り笑いで乗り切るしかなかった。


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あきゅろす。
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