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現世乱武小説
救世主はいずこ(小十佐)


……う…やばい。


目が覚めて、隣にいたはずの小十郎がいなくなっていることに気付いて起き上がろうとしたとき。

腰に走った鈍痛に固まった。


「こ、れは…すごいね…」


今日が土曜日でよかった…
仕事なくて、本当によかった…


半端に上体を上げたままという腹筋にかなり負担のかかる体勢で、首だけ巡らせる。

昨日汚した羽織りがない。
処理をするために早起きしたのだろうか。
早起きというか…今が5時だから夜中に起きたようなものだ。

僅かに白んできた空を見て、隣の、確か昨夜小十郎の身体があった場所に手を置いてみる。


…冷たい。
ほんとに夜中に起きたのか…?

温もりはなく、訝しむと同時に少し不安になる。


「とにかく服…」


布団に包まれていたため忘れていたが、昨日から脱がされたままだった。

軋む腰を叱咤して膝を立たせ、我ながら死にそうな呻きを上げながら作業着を着て、再び布団に倒れ込む。


しーんと静まり返る室内の空気にそわそわした気分は上塗りされていくばかりで、よし、と一人頷き匍匐前進を開始。


目的地は事務所。
人目を憚りいざ行かん。


肘を交互に畳に突きながら、ずりずりと作業着を擦り着実に歩みを進めていく。

…この段差は痛そうだなぁ

いくら頭で思ってみても始まらない。
座敷と玄関の敷居。およそ二十センチ下にある床にそろそろと両手を突いたところで、部屋と廊下を仕切る障子が俯いている頭すれすれで横に開いた。

自動ドアなわけがない。
つまり誰かが開けた…

あれやこれや考える間もなく、開けた人物はそのまま入室しようと足を進め、見事にこちらの頭を蹴り飛ばした。


「っ…!!」

「うだっ!?」


もはや人が発したとは思えない音が喉から飛び出す。


普通…普通さ、見ないかな……足元。
それを期待してっていうか当然だと思って微動だにせず待ってた俺様ってなんなのさ!

憤怒の気持ちを込めて顔を起こしたかったが、なにぶん腰にきているものでなかなか実行に移せないこの歯痒さ…
そしてこれを呼び寄せた張本人は行方不明ときている。


ツイてないなぁとどんよりとした溜息を吐いて、先程頭をなんの躊躇もなく蹴り飛ばしてきた人物がやけに大人しいことに気付いた。


「〜っ!!Fack!!何してんだテメェいてーだろ!!」


この声は伊達の旦那…


「痛いのこっちだから!!下見て歩けって学校の先生に教わんなかっ………?」

なんとかして頭をもたげてみると、片足の膝とくるぶしの中間あたりをしきりにさすっている。

「……うわぁ、スネ?」

「そーだよっ!!こんなところで頭突き出してんじゃねぇっ」


俗に言う、打ち所が悪かったというやつらしい。
少しだけ同情した。


「でもさ、一声もなしで入室ってどうなの、オーナー?」

「う……そ、それは…悪かった。……てかお前マジで何してんだよ」

「え?……や、まぁ…小十郎さんどこかなーって…」

「…そんな体勢でか?」

「…無難じゃない?」

「どのへんがだ」


くそ……これは明らかに俺様不利だよ…頑張れ俺様!俺様ファイト!


自らを鼓舞して笑顔を繕った。


「て、敵襲に備え――」

「どうせ小十郎にすげぇ抱かれたんだろ。んで腰がやべえ、と」

「……じゃあいいよそれで」

「投げやりだなおいっ」

まぁそれはそれとして、と政宗はひとつ咳払いした。

「小十郎なら今買い物行ってる。俺はあんたを起こすついでにそれを教えに来ただけだ」


幸村が朝飯食いそびれたら承知しねぇぞと言いながら、座敷に上がってこちらの足首をむんずと掴んだ。

まさかと思ったときにはもう遅い。

足を軸に引きずり上げられた。


「ぎゃあああ!!腰がっ…腰が外れる…取れる!!」

「Ah?大袈裟だな…まだくっついてるから大丈夫だ」


取れたらアウトじゃん!

ぞんざいな扱いを受けながら手を突いて自分で後退する。

冗談などではなく、本当に腰骨と背骨のあいだに隙間が出来るような違和感に危機を感じずにはいられない。
上半身が置いていかれるような気すらして、必死に布団の上に戻った。

…なんだか、夫がいないあいだに姑に虐められる嫁みたいな気分だ。


「やれば出来んじゃねえか」

「そ、そりゃ下半身不随の危機ですから」


力尽きて布団に頬を押し付ける。


…ていうか小十郎さん、買い物ったってこんな早くにどこ行ってんだろ。

少し痛みが和らいできた腰を大儀そうにさすりながら考えていると、裏口のドアが開く音が小さく聞こえた。


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