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現世乱武小説
●ケダモノの起こし方・参


嫌そうに眉が潜められて小十郎の顔が漸く離れた。


「…何しやがる」

「だっ……し、死ぬっつーの!」


未だ頭は両手で囲われ、逃げ場のない状況には変わりない。
離れたとはいえ、やっぱりすぐ目の前に相手の顔があるわけで。

また口付けようと思えば口付けられる距離の小十郎に、そうはさせないと強気な目で睨み返してやる。


「そんな色気のねぇ口、すぐにきけなくしてやる」


そう言うなりこちらのワイシャツに手をかけてくるので、慌てて抗議した。


「ボタンはちゃんと外してよねっ。付けるの面倒なんだから」

「ちっ……だったら今度俺に会うときはジャージで来い」


脱がすのが楽だと言いながら、ちゃんと言ったとおりボタンをひとつずつ、ぶっきらぼうな手つきではあるが外してくれる。


「…ジャージ持って来るの面倒なんだけど」

「面倒面倒って…出無精かお前は。なら裸で来い」

「そこまで言うっ?来るまでに捕まるからそれ!」

「身柄なら俺が引き取りに行ってやるよ」

「そういう問題じゃ…」


飛躍した話をしているうちに、ワイシャツの前は完全にはだけられていた。

…この手つきの早さ。
色々な女を抱いてきたんだろうな。


一度そんなことを考えてしまえば、とりとめのないことばかりが思考を浸蝕していく。

いったい何人啼かせたのか。
本気で愛した女性はいたのか。
いたとしたら、どんな抱き方をしたのか。
自分はどれほどの愛で抱かれているのか。


それらの疑問は口に出ることなく脳内をひたすら旋回する。
いくら考えたところで解決されるものではないけれど。


「…おい、聞いてんのか?」

「えっ?な、なに?」


不審そうな視線を注がれつつ笑顔を繕う。

完璧に自分の世界に入っていた。


「……。今夜は帰るのか?」

「あ、あぁ今夜ね。うん。今夜は帰るよ。明日旦那が朝練でさ、絶対起きないから俺様がいないと」


事情も折り込んで話したが、小十郎は少し考えて違う訊ね方をしてきた。


「じゃあ、朝帰りでもいいのか?」

「…五時に帰れるなら」

「そうか。なら、」


遠慮はいらねぇな、と低く呟くと、小十郎が胸に吸い付いてきた。

前触れのない刺激に痛みが走り、咄嗟に机の上に背を擦って逃げようとしたが小十郎の舌は気にした風もなく追いかけてくる。


「ぅ、やっ…かたっ……!」


身をよじるも、机の面積は狭い。
下手に動けば落ちてしまうという少なからずの恐怖心もあり、舌先の行為を甘受する。

くちゅりと唾液を絡め、音を立てて吸われると腰から手の指先にかけて鳥肌にも似た痺れが駆け巡る。

次第に突起は色付き、徐々に快感を拾うようになっていった。


「ふ、ぅ……はぁ、せんせっ…待っ…」


どうにかして頭を引き剥がそうと試みるが、熟れた突起を口に含んだまま見上げてくる切れ長の目とぶつかると指先が麻痺したように動かなくなる。

舌を尖らせ、突起を避けるようにして円を描かれる。
擽ったいのともどかしいのとで、瞳にじんわりと熱い膜が張るのを感じながら微かに膝を擦り合わせて堪えた。


…熱い。
身体、頭ん中、片倉さんの舌、俺が吐く呼気でさえも。


突起の周囲を焦らすようにうろうろしていた舌が、唐突に赤く腫れた突起を押し潰すように捩込まれた。

「いっ、ぁあ…!」

びくん、と背と頭を反らすと、すかさず晒された喉につ…と指が這う。


「あんまりデカイ声出すんじゃねぇ…」

「だっ、……ひぁっ」


言い訳をすることすら叶わず、指の軌跡を追うように舌で喉を舐められる。

そのあいだにも人差し指は飽きることなく突起を転がし続け、神経が剥き出しになったように敏感になったそこは佐助の吐息に色を添える。


堪えようと机の縁を握りしめていたが、弄られるたびに身体が痙攣するのだからたまったものじゃない。
せめて手だけでもと、手探りで胸を陣取る小十郎の手を取った。


「…これじゃあ何もできねえなぁ?」

「だっ、て……、そこばっか…!」


そんな抗議になど構わず、器用に小十郎が片手でこちらのベルトを外す。
そのまま放るのかと思いきや、躊躇う間もなく佐助の手首を掴んでまとめ、ベルトできつく縛ってしまった。

「うわっ、ちょ、」

きゅっと締め上げられてから我に返り声を荒げるか、もう遅い。

こんな抱かれ方は初めてだ。
こんな…まるで犯されるような…

ベルトがなくなったことで着脱可能になった下を脱がされる。

腹の上でひとつにされた手をぐっと握り、今までにない不安に佐助は固く目を瞑った。


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