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現世乱武小説
 ケダモノの起こし方・弐


小十郎に一度やれやれと言わんばかりの嘆息をされたが、次に目があったときには絡めていたつもりの視線が逆に絡め取られたような不思議な感覚を覚えた。


ぞくりと背筋が粟立つ。


教師の皮を脱ぎ捨て、一人の男としてこちらを射抜く瞳の獰猛さ。

目を逸らすことは許されず、骨格が浮き出たその手が身に触れると服越しであっても官能が引き出される。


頑なな獅子を呼び起こすには己から行動しなくてはならない。
もっとも、校内から出ればその必要もなく狩られるのだ。なにも今すぐここで、などという必要はなかった。

それを何故、と問われれば、佐助としては単に知りたかったからとしか言いようがない。

――どこまでいけば、何をすれば社会の衣に包まれた小十郎をその気にさせ得るのかを。


そして、見つけた。


学校内において、小十郎を駆り立てる術。

視線だ。
それも、濃厚な視線。


「……使えるかも」


悪戯を思い付いた子供のようににんまり笑う佐助を尻目に、小十郎は窓以上に埃っぽいカーテンを引いた。


「何がだ」

「別にぃ?」


一応律義に独り言に付き合ってくれたようで、小十郎が訊き返してくる。
含み笑いをしつつはぐらかすと、珍しくむっとした顔になった。


「言うつもりがねぇなら言うな」


カーテンにより、温かい光が遮断され室内が薄暗くなる。

光といえば、カーテンの隙間から漏れ出る細くも確とした筋と、カーテンが受け止め切れずやんわりと染み出す橙程度のもの。


不機嫌そうに言った小十郎に乱暴に腕を引き寄せられ、そのまま顎を掴まれた。

身を屈め、くいっとこちらの顔を上に上げて唇を重ねてくる。


「……っ、」


どうせすぐに解放されるだろうと高を括っていたが、小十郎は手を抜くような素振りを見せることなく開けろと舌先で唇をつついてきた。


「ちょっ……ん、待っ…」


制しようと開いた口に容赦なく舌が捩込まれる。

…やばい。

心の中で警鐘が鳴り、戻れなくなる前に阻止しようと相手の胸や肩を押すが、逆に距離を詰められ少しずつ後退してしまう。

がんっ、と踵が机の足に当たり、逃げ場がないことを悟り観念した。


もともとこの人から逃げようなどと考えていない。

しかし絶対に人が来ないかと訊かれれば頷けない場所だけに、さすがに抵抗があった。


が、そんなことを考える余裕なんて、本当はなかった。


「……は、…んっ」


徐々に上体が後ろへと反らされていく。
押し付けてくる力に対し、理性でなんとか持ちこたえようとはするが、追い詰められた草食動物みたいに最終的には完全に背を机につけ、顔の真横に突かれた両手により逃避もままならない状況に持ち込まれた。

口内を嬲られ、犯されていなければもう少し耐えられたかもしれないが、どうせ結果は同じ。


口が塞がれていて出来なかったので、胸中で佐助は諦観の溜息をついた。


ここまでになる予定ではなかったが、誘ったのは元を辿るまでもなく自分。
ならば付き合うのが礼儀だろう。

無責任という言葉は、佐助がもっとも嫌いな単語でもあるのだから。


佐助が抵抗しなくなり、ようやく観念したかと小十郎は口角を上げた。

机の上に片膝だけ乗せ、浅く苦しげに呼吸を繰り返す佐助の制服とワイシャツの隙間に左手を滑らせ、滑らかな生地の上を胸から腰骨まで撫で下げる。
ベルトに当たって先に進めなくなると、するりと身体のラインに沿って今度は背中側に移動して肩甲骨まで撫で上げる。


「んぅっ……は、ゃ…」


堪えるこっちの身にもなってよね…

心底そう思う。
舌なんか感覚なくなってきて、どっちがどんな風に絡めているのかも判らなくなっているし、そのおかげでぼーっとする思考を浸蝕せんと一定のリズムと所作を繰り返す手。


大好きな人に触れられている高揚感と、布越しというクリアでないもどかしさ。

それらに板挟みにされ、段々洗脳されそうな感覚に陥ってくる。


でもまぁ、この人になら洗脳されても…悪くないかな、と穏やかな気持ちになる反面、現実問題、酸素が足りない。
思考どころじゃなく生死に関わる。


「ん!んー!」


喚いて、頭を振って知らせようと試みたが、予想通りというかなんというか取り合ってもらえず。


「ふ、ぅ……かたっ…、」


寧ろより一層間断なく舌を擦り合わせてくるのだから恨めしく思えてくる。


仕方ない。
手は使いたくなかったけど、酸欠で病院行きとか間抜けすぎるしね。

……ごめん、先生。


心で呟いた台詞とは裏腹に、存外容赦なく佐助は肉付きの薄い相手の頬を摘んで引っ張った。


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あきゅろす。
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