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現世乱武小説
気遣われる佐助(左三)


それから王様ゲームはわけのわからない方向にヒートアップしていき、「自分の鎖骨をそっと撫でろ」だの「耳たぶを甘噛みしろ」だの、多種多様な命令が飛び交った。

日が沈む頃には三成は疲れ果て、元親や元就、兼続はそろそろ帰ると席を立ち、自然とお開きになっていった。


「政宗様、そろそろ仕事のほうに…」

「ん?ああ、そうだな。幸村はどうする?泊まってくか?」


政宗の問い掛けに幸村は佐助を見遣った。


「佐助は今宵は戻らぬのだろう?」

「えっと……う、うん、まぁ…」


佐助は今夜たっぷり可愛がられる予定。
深い意味は判っていないようだが、イコール帰らないということは幸村も理解しているらしい。

佐助がどぎまぎと返した答を受けて、幸村は政宗に向き直った。


「ならば某は帰らせていただく。お館様のお傍についていたい故」

「Okay.んじゃ、途中まで送ってくぜ。小十郎、あとは頼んでいいな?」

「無論。お気をつけて」

「おう。島さんと三成は客だからな。ゆっくりしてけよ?」

「どうも」


幸村を連れ立って部屋をあとにしようとして、政宗が思い出したように振り返った。


「そうだ…三成」

「?」


そちらを見返すと、親指をぐっと立てられる。


「今日のサボりの件、大ザルと調教師には黙っといてやるから安心しな」

「……!す、すまん」


担任と副担任のあだ名に表情を固くさせつつ有り難さに頭を下げると、いいってことよとカラカラと笑われた。

政宗は軽く笑い飛ばしているが、三成はあの二人が苦手だった。
秀吉はやたらと掴もうとするし、半兵衛はやたらと説教しようとしてくるのだ。


「あーそれと小十郎、佐助には別室を用意してやんな」

「かしこまりました」

「い、いいってそんなの!事務所でも寝れるし…」


わたわたと遠慮する佐助に、政宗がにやりと笑った。


「事務所でヤるのか?」

「そっ……それ、は……」

「俺は構わねぇが」


小十郎がしらっと答えると、佐助はあーもう!と頭を振った。


「判った判った!借ります!貸してくださいっ!」

「それでいいんだよ。幸村、行こうぜ」

「うむ。佐助、明日の朝飯には戻れるか?」

「う……た、たぶん」


他意がないだけに答えにくい幸村の質問。
佐助…全然笑えていないが、それは笑顔のつもりか?


政宗が幸村と外に出ていくと、小十郎に引率されて佐助も違う部屋に移った。

途端に部屋の中に静寂が返ってくる。
風呂から上がってずっと付けっぱなしだったテレビの音声が、今頃になって鼓膜に届いた。
いかに連中が騒がしくてせわしないかがよく判る。


ずっと晒しっぱなしにしていたためすっかり冷えてしまった肩を浴衣で包む。


「…腹減ったな」

「時間が時間ですからね。そろそろ運ばれて来るんじゃないですか?」


言って、左近は端に追いやられていたテーブルを少しだけ引き出した。
三成がでんと置いたソファ代わりの布団が邪魔で真ん中には持ってこれなかったようだ。

少しもしないうちに、藍色の羽織りを着た若い男が二人、膳を運んできた。


「今夜は鰻がメインになってまして…」


味噌汁にはどんなダシを使っている、とか前菜には何と何が入っていて、とか事細かなことを野暮ったい顔をした奴が言うと変な感じがする。

一通り説明を終えて下がる二人を見送り、左近と三成はテーブルについた。


「…この旅館に調理場などあるのか?」


箸を手に持ち、鰻の身をほぐしながらふと頭に浮かんだ疑問をそのまま口にしてみた。

建物の構造を思い描いて見るも、事務所と温泉、客室だけで平屋の空間をすべて使ってしまっているように思う。


鰻に悪戦苦闘する三成からその皿を取り上げ、代わりに箸で器用にほぐしながら左近が一言補足した。


「地下ですよ」

「……地下?」


料理を地下で作っているのか?

想像してみたが、どうも換気が上手くいかず空気が悪いようなイメージしか湧かない。
それを左近に言うと、可笑しそうに笑われた。


「無理矢理配管引っ張って、ちゃんと外に出してますよ」


建物の裏手に吐き出し口があったと思います、と言うと左近は鰻の皿を三成に返した。

綺麗に小骨まで取り除かれた鰻。
…地味に器用な奴だ。
そう思っている矢先に、左近は自分の鰻の骨などはそのままで身を適当に切り分けただけという大胆な処理をしてのけた。


「……」

「?…どうかしました?」

「…骨、刺さっても知らんぞ」

「ははは、刺さってもそのうち溶かされるんで」

俺は大丈夫です、と言ってからでもと付け足した。

「結構痛いのも事実ですからね。大切な三成さんの喉を傷付けたくはありません」


言葉とともに喉を擽られ、顔に熱が集まるのを知りながら身だけの鰻を仏頂面で一気に食べた。


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