現世乱武小説
幸村の爆弾命令(左三)
四人から一気に九人に増えて再開された王様ゲーム。
佐助が作った新しい割り箸を握り込み、円になった全員に言った。
「いい?脱げとかポッ○ーゲームとか、もうなんでもアリになってきたから手加減なしだよ?」
「Ha!そういうほうが燃えるじゃねえか」
「なんでもアリだな?初対面でも容赦しねぇぜ」
息巻く政宗と元親。
乗り気な二人を見遣って佐助はにんまりと笑い、割り箸を中央に突き出した。
「みんな引いてー……はいっ、王様だーれだ!」
ばっと全員一斉に自分が引いた割り箸の先を確認する。
各々落胆する中、陰湿な笑い声が床を這って鳥肌を立たせた。
「ふふふ……一番は我だ」
「げっ!」
元就が悪質な微笑をもって呟いた途端、隣に座っていた元親が先程の威勢はどこへやら、あからさまに嫌そうな顔で体をのけ反らせた。
このゲームの名前を言い間違えた瞬間、女王様気質であることは明らかになったが…
幼なじみである元親のあの反応。
嫌な予感が…
「九番、七番の指と爪の間を楊枝で刺せ」
「い、痛ぇってそれ!」
やられているところを想像したのか、政宗が自分の指をぐっと押さえ込んで喚く。
横を見遣ると、三成もじっと己の指先を見つめ、おもむろに反対の手の指で爪のあいだをつついた。
「ッ…!」
一人でその地味な痛みにびっくりして悶絶する姿に愛おしさが込み上げる。
のほほんと三成の様子を見守っていると、視線に気付いた三成は顔を赤くしてふんっとそっぽを向いてしまった。
かわいいなぁと胸中でにやけている左近を置いて、事態は先に進んでいく。
九番は幸村、七番は兼続だった。
「も、申し訳ない……兼続殿っ、覚悟!!」
「いぐぉぁああ!!!」
ずぐ…と楊枝の先端が兼続の右手人差し指に炸裂する。
見てられないと皆が息を呑んで顔を背ける中、元就だけが満足そうに微笑んでいた。
なんなんだあの人…
三成さん並に綺麗な顔してる割にすさまじい趣味だな…
左近だけでなく、案の定と震える元親を除いた全員が元就に恐怖を抱いて次に移った。
「王様だーれだー?」
「ぉお!王様の座、某がいただいた!」
高々と割り箸を掲げる幸村に、皆が安堵の表情を浮かべた。
幸村ならさっきみたいなわけのわからん命令はしないだろう。
誰もがそう思ったとき。
「五番と二番はべろちゅーでござる!」
「……」
予想外だった。とても。
中でも放心状態に近いことになっているのは政宗と佐助。
ぱくぱくと口をぱくつかせている。
「ゆっ、ゆゆ幸村……お前なに言って…」
「どこでっ?どこでそんな単語覚えてきたのよっ…!」
衝撃を受けている二人にいつもどおりの笑顔を向ける幸村は、案外大物なのかもしれない。
「政宗殿が以前そのような独り言を…」
「伊達の旦那ぁー!?」
「Oh...」
どんな独り言だ…
政宗が出所と知って頭痛に襲われたのは小十郎。
どこで踏み外したんだとかなんとか、頭を抱えてぶつぶつ呪詛のように唱えている。
この人もこの人で苦労が多いのだろう。
「三成、べろちゅーとはなんだ?不義か?」
「……言葉のままだ」
兼続に訊ねられ、頬を僅かに赤くしながら三成がぼそっと不機嫌そうに呟く。
なんとなくそれを見ていると、前触れなくあぐらをかいていた膝を叩かれた。
「……そんな目で見るなっ」
「そんな目って言われても……あ、もしかして三成さん…左近とのやつを思い出して…」
「ないわっ!」
すぐに噛み付くあたり肯定してるようなものだが…
これ以上からかったら後々苦労しそうだったのでやめておいた。
「……で、旦那の命令聞くの、誰?」
俺様違うよ、と八番の割り箸を降りながら佐助が全員に訊ねる。
「……俺だ」
手を力無く挙げたのは、幸村の命令が下ったときから明らかに口数が減っていた元親だった。
相手は、と皆が互いに視線を合わせる中、二番の割り箸が車座の真ん中に放られた。
「……いいだろう。腰砕けにしてやる」
小十郎だった。
「うぇえっ!あんたかよ片倉さんっ…」
今日初めて会っていきなり濃厚なキス。
しかも九人中六人が睦まじい仲になっていることなど元親には知る由もなく。
男同士でキスってどうなんだなどと眉間にシワを寄せていた。
「さ、佐助……すまぬ…」
佐助と小十郎のことを知っている幸村は、王様ながら肩身狭そうにしゅんとしていた。
「いいのいいの、ゲームなんだからさっ」
気丈に笑う佐助に、幸村はより申し訳なさそうに小さくなる。
三成もどこか心配そうに佐助を見つめていたが、事情を知っているはずの政宗は好奇心に満ち満ちた眼差しで小十郎を見ていた。
「小十郎のテク、盗ませてもらうぜ」
「なに、たいしたものではありませんよ」
「謙遜するなよ。前に島さんが言ってたんだ」
「…島?」
「ああ。小十郎のキスはすげぇって」
政宗の言を受けて小十郎がこちらを見る。
目が合い、小十郎が政宗に困ったように笑いかけたのを見て、左近はあとで怒られるなと確信した。
「佐助」
三成の隣にいた佐助に小声で呼び掛ける。
ん?と首を傾げ、なんでもないような態度を貫いている。
小十郎との水面下の勝負はやめだ。
「…大丈夫か?」
「……あ、当たり前じゃん。そこまで女々しくないっての」
「……」
三成をあいだに挟んでのやり取りに、三成が耳を傾けないわけがない。
あくまでも平静に笑ってみせる佐助に対し何も言えなくなった左近に代わって、三成が無言のまま佐助の頭を撫でた。
「みっちゃん…」
「…その気持ちは……少し判る」
抱き着いてもいいぞと腕を開く三成を、感涙を浮かべて佐助が見つめる。
みっちゃん!とどこか芝居がかった口調で言い、ひしとその薄くて線の細い三成の胸に飛び込んだ。
……なんだかなぁ
複雑な心境で、左近はかろうじて笑顔を浮かべていた。
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