現世乱武小説
定番の…(左三)
政宗たちが来るのはまだ少し先らしかったので、もうひとゲームということになった。
割り箸を佐助に渡しながら左近はちらりと小十郎を見遣る。
おそらくここからは俺と片倉さんの水面下の戦いになるだろう。
自分が王様になったら一人を指名して何かをやらせ、指名された場合は極力見せ付ける。
このくらいは向こうもしてくるだろうね…
「はいいくよー?王様だーれだっ……ああ!俺様初!初の王様!」
嬉しそうにガッツポーズまでして、佐助は旅館の羽織りの大きなポケットから箱を取り出した。
「王様ゲームといえばやっぱりこれでしょ!ポッ○ーゲーム〜!」
「…○ッキーゲーム?それをどうするのだ?」
甘いもの好きな三成。
プリン限定かと思われた甘党は、どうやらチョコレート菓子もお好きらしい。
今まで自分に向けられていたどの命令よりも興味を示しているようだった。
「これはね、こっち側を一人がくわえて、反対側をもう一人がくわえて、同時に折らないように食べ進めてくっていうゲーム」
楽しそうに三成に説明する佐助から、左近は小十郎に視線を移した。
するとちょうど向こうもこちらを見て、思いきり目が合う。
「……」
お互い黙りながらも、愛しい人の唇は渡さないという強い意思を瞳に宿し、微笑み合った。
「もし成功してちゅーしてもさ、みんなどうせそういう仲だしいいよね」
傍から見たら複雑であろう間柄をどうせの一言で片付けられるのは当事者ならではだろう。
まぁ、確かにどうせだ。
だから何ということもない。
「えーとね、じゃあ二番さん!俺様とポ○キーゲーム!」
反対の声も特に上がらなかったので、王様はそんな命令を下した。
相手が佐助ならば小十郎にやらせるわけにはいかない。
俺が佐助の唇、奪ってやろうじゃないですか。
そして手の中の割り箸に視線を落とす。
……ちっ。俺じゃないか。
片倉さんは…
小十郎の顔を盗み見るが、軽く眉を潜めてこちらに横目を投げてくるということは外れ。
と、なると…
「二番…俺だ」
「みっちゃん!やっぱりチョコのほうから食べたい?」
袋から一本取り出し、佐助が三成にチョコ側を向けると小刻みに頭を縦に揺らす。
「……片倉さん」
「ああ…予想外だったな」
まさか受け体質の二人が、ということになるとは…
しかも佐助も三成も、もしキスしたらということを考えていないのかなんなのか、そこは気にしていないらしくポッキ○食べたさにはしゃいでしまっている。
「じゃ、みっちゃん」
「うむ。任せろ」
力強く頷くと、三成はチョコ側を少しだけくわえ、佐助も反対側をくわえた。
「……近いですね」
「……近いな」
どこか遠い目で、至近距離で向き合う二人を見つめる。
否、二人というか、左近は三成を、小十郎は佐助を、見るでもなく見てしまう。
へーのっ、と佐助が不明瞭な合図を送り、二人は同時に食べはじめた。
慎重に食べ進める佐助と、多く食べようと一生懸命な三成。
小刻みに顎を動かしながら、悩ましげに眉を潜める様は可愛い以外に何があるというのか。
そんな菓子なんかより俺はあんたを食っちまいたいんですがね…
口にしたら確実に殴られるであろう言葉を胸の中にしまい、気付けばあとニ、三センチで唇が触れ合うというところまできていた。
「っ、んん…!」
「んぅ、ふ…」
口の中のものを飲み込むが、ものをくわえているため喉が鳴ってしまう。
漏れ出た声は、さながら布団の中でのもののようで…
そのとき。
佐助の羽織りのポケットから着信音が鳴った。
「っ!」
「んぐっ?」
ぺきっ…
互いに肩を震わせたかと思うと、順調だった菓子が呆気なく折れてしまった。
「あーぁ…惜しかったねー」
「佐助、一本もらうぞ」
残念がる佐助に反し、三成は新しい菓子を袋から既に出そうとしていた。
そんな様子に苦笑しつつ頷き、佐助が電話に出るのを視界の表層で受け取る。
「……あの様子じゃ佐助、案外誰にでも唇許してるんじゃないですか?」
「石田こそ食い意地ばかり張って…ケーキやるから抱かせろなんて言われたら着いてくんじゃねえか?」
小声で行われたやり取り。
見たいものが見られず、でもやっぱりこれでよかったのかもなどという煮え切らない思考のまま、鉛を飲み込んで食道に引っ掛かっているような奇妙な感覚に苛まれていたが、
「うん、判った。待ってるねー。……ふぅ、みんなもう来るってさ」
本当にキツイのは、これからだった。
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