現世乱武小説
疲労困憊三成さん(左三)
三成が四苦八苦しながら小十郎の凝りの解消に勤しんでいるあいだ、佐助は政宗や幸村も学校帰りに寄るよう電話を入れていた。
まだ清掃の時間帯だったらしく、周りでは生徒たちの話し声が飛び交っていたのだとか。
「ねぇ、なんか旦那たちの友達も来たがってるんだけど…」
電話を保留にして小十郎に苦笑混じりに言う。
支配人たる小十郎にだけでも許可を取ったほうがいいだろうという、佐助なりの心配りだったのかもしれない。
「政宗様はなんと…?」
「…ノリノリだよ。泊まりはしないっぽいけど」
「なら俺が口出しすることじゃねえ。丁重にもてなすまでだ」
これらのやり取りは勿論三成のマッサージのもと交わされていた。
「お前、上手いな…」
「当然だ。全力で…やってるのだぞ…」
本当にしんどい。
息が上がっており、腕の筋肉は張ってがちがちになっている。
明日筋肉痛になるのはもはや確定事項だ、くそっ。
いや、冗談ではなく小十郎の身体は凝っているのだ。
石だ、石。
手の甲なんかで叩けばコンコン鳴ったんじゃなかろうか。
が、今は三成の努力のおかげで並の硬度に落ち着いた。…と思う。
まだまだしこりがあることには変わりないが。
小十郎の許可が下りたことを知らせに部屋の外で電話をしていた佐助が帰ってくると、小十郎が声を寄越した。
「…石田、もういい。感謝する」
「判った」
いいと言われればそれ以上命令を継続する必要はない。
手を離すと、立ち膝の体勢からすとんと尻をついた。
…なんだか、小十郎の肩凝りを解消させることに夢中になりすぎて自分の肩まで凝った気がする。
「ちょっと片倉さん、三成さんは華奢なんですから…もうちょい早めに切り上げさせてくださいよ」
疲弊した腕をぷらぷらさせる三成を見兼ねてか、左近が冗談混じりにではあるが若干責めるように小十郎に言う。
小十郎も三成の細腕を改めて見て、ばつが悪そうにぽりぽりと頬を掻いた。
「…そうだな。悪い、楽だったからつい、な…」
そう褒められて嬉しくならないわけがない。
努力が報われた気がして、三成は小十郎の背中側ではにかんだ。
「三成さん」
「なんだ、左近」
「終わったら戻る」
「あ、ああ…」
有無を言わさない左近の物言いに怯みつつも、先程座っていた布団の上をばしばしと叩かれたので従った。
「……ほぅ」
それを見ながら興味深そうに目を細めて顎をさする小十郎に、左近はぶっきらぼうに半眼で切り返す。
「…なんですか」
「くくくっ…いや?珍しいものが見れたんでな」
「…余裕でいられんのも今のうちですよ」
「お互い様だろ」
「…運次第、ですか」
小十郎のどの辺が余裕なのか三成には判らなかったが、険悪なムードなのは確かだ。挑発し合っているような…
「お待たせーって…終わったんだ?」
「まあな。政宗様のご友人は何人だか判るか?」
携帯をポケットに落とし小十郎の隣に腰を下ろしながら、佐助は厄介だよ、と前置きを入れた。
「三人なんだけどさー…なんかこう、一癖も二癖もある人たちなんだよね」
「へぇ。知り合いかい?」
「うん、みんな俺様が三年だったとき一年生だったし…あ、いや、一人は同い年なんだけどね」
佐助の言葉に三成は首を傾げた。
佐助と同い年の奴なんて自分の学年にいたのだろうか。
留年したということはきっと頭の弱い奴だ、と考えたとき、一人の顔が浮かんだ。
「そいつ……まさか元親か?」
「おっ、みっちゃんすごい!…てかもしかしてチカちゃん言ってた?」
「いや…だが俺が入学してからは順調に進学しているぞ」
そう、だから当然同い年だと思っていた。
でもまぁ確かに周りに比べて図体もでかいし、馬鹿なことをしている割によく気がつく。
世話焼きというほどでないにしろ、面倒見がいいのは余裕のある年上ならではかもしれない。
「らしいよね。やれば出来るんだからちゃんと勉強すればいいのに」
「……やって出来てるようには見えないがな」
元親が進学してこれたのは、幼なじみの元就のおかげなのだろうなと今にして思う。
よく図書室などに二人で入り浸り、勉強やらレポートやらをやっている姿を見かける。
まあ、元就が一方的に元親の鳥頭に知識を叩き込んでいるだけらしいが、それもきっと己の幼なじみがいつまでたっても二年になれない歯痒さからだろう。
元親がよく奢ったりしているのはその埋め合わせとしてなのかもしれない。
「元親と…あとは?」
「毛利の旦那と兼続さんだってさ」
「……」
確かに厄介そうだ。
元親のストッパーが元就だとすると、兼続のストッパーは…?
まあ…なんとかなるだろ。
楽観し、三成はそれが杞憂に終わることを願った。
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