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現世乱武小説
攻め男ズの攻防(左三)


二番、三番を脱がせろ――


三成が腹いせに下した命令は、

左近、小十郎を脱がせろ。

に置き換えられた。


脇に投げやられた割り箸を保護し、三成は佐助と身を寄せ合ってただただ見守る。


「…まさか俺が片倉さんを脱がす日がくるとはね…」

「まぁ、ゲームだからな、ゲーム。石田の気まぐれ次第でテメェが脱がされたかもしれねぇことも考えとけ」


一歩も引かない両者。
口元には、お互い友好的とは言えない微笑を称えている。


左近はふ、と笑うと、立ち上がってあぐらをかく小十郎の背後にまわった。
小十郎は怪訝そうに眉を潜めるも、そのままおとなしく左近の行動を甘受する。


「普通に正面からってのはつまらないでしょう」

「……悪趣味はいつになっても健在か」

「褒め言葉として受け取っときますよ」


膝を折って手を小十郎の胸元に持って行き、焦らすようにひとつずつワイシャツのボタンを外し、前をくつろげていく。

鼻先を首筋に埋め、目を伏せてくすくす笑いながら作業を進める左近。


「……」


その光景に、一番我慢ならなかったのは外ならぬ三成自身だった。

左近の腕の中にいるのは、左近よりやや小柄ではあるが立派に成熟した大の大人だし、なんといってもこれはゲーム。

判っていても、どうしても左近が誰かに触れ、色事に持ち込みそうな雰囲気になるのが耐えられない。


「…島、あとで覚えときやがれ」

「何をです?」

「判ってねぇならそれでもいい」

「…やっぱり張りがありますねぇ。男の割に手に吸い付く皮膚の感じがまた…」

「触ってねえだろ。適当なこと言ってる暇があるならとっとと終わらせろ」


苛々を隠そうともせずに小十郎がぴしゃりと言い放つ。

ボタンをすべて外し、するりとワイシャツを脱がした。
同時に現れるのは強靭な肉体と天を目指す隻眼の上り竜。

鮮やかな背中の彫り物に息を呑んだのは三成だけだった。
左近は待ってましたとばかりにそれに魅入り、佐助は目を細めて感嘆の溜息をついている。


「…さすが、衰えませんね」

「やだなぁ島の旦那っ、小十郎さんまだまだ現役だよー?」

「仕事っぷりがかい?」

「うん、夜の」


幸せそうな佐助の言葉に小十郎はわざとらしい咳払いをして、後ろの左近から距離をとった。


「…佐助」

「はーい。でもマジ腰とか半端ない…」

「つ、次!次いくぞっ」


なんだかもういたたまれなくなって三成は声を荒げた。

ちらりと左近に視線を投げてみれば、さして気にした風もなくいつもと変わらない様子でこちらに気付くなり笑いかけてくる。


…逆に憎たらしいな。


憮然としてぷいと目を逸らし、割り箸を佐助に返した。

いつの間にか親の役割を担当することが決定づけられてしまった佐助だが、本人は特に気にしていない様子。

どいつもこいつも、もっと自分のことに頓着したらどうなんだ。


「いくよー?王様だーれだっ」

「…俺か」


低く呟いたのは小十郎だった。
脱がせたあとはどうなるのか少し期待したのだが…


「四番、肩揉め。…いや、全身マッサージだ。本気で頼む」


言いながらぐるりと首をまわした小十郎から、

ベキゴクッ、バキッ…コキキッ

と、ものすごい破壊音が聞こえる。
四番も別の意味で骨が折れそうだなと他人事のように考えていたら、自分だった。


「……全身なのか?」


首だけであれだ。
腰やら肩やらのことも考えると、本気で体力がもたないと思う。


「まぁ……そうだな、次に王様になったときにまた頼むか。…石田、首と肩と腰だけでいい。頼む」

「主要なヵ所ばかりではないかっ!」

「仕方ねぇだろ、凝りに凝ってんだ」


少し唇を尖らせる小十郎が肩をまわすと、ゴクンッと今にも脱臼するんじゃないかと冷や冷やするほど大きな音がした。

不承不承三成が小十郎の後ろにまわると、佐助がうーんと眉間にしわを寄せて唸る。


「どうした」


小十郎が訊ねると、ちらりと一度小十郎が持つ割り箸に目をやり、だってさと小さい子供みたいに佐助がぶうたれた。


「まだ一回も命令してないしされてないんだもん。俺様だけつまんないー!」


…確かに、やりたいからはじめたのはお前だからな。

ご乱心な佐助を宥める左近を視界の端に入れつつ、三成は眼前の強敵に手をかけた。
添えただけで判る。すごく凝ってるな、と。

……自信はないが、とにかく体力勝負だ。


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あきゅろす。
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