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現世乱武小説
運命の女神(左三)


三成は、今まさに人生初の王様ゲームに挑戦しようとしていた。

佐助が割り箸にふられたマークを隠すように握り、左近、小十郎、そして三成がその端を握る。


皆さして緊張しておらず普通を装っているようだが、俺には判る。
怖じけづいているな、と。

何に、とかなんで、とか訊かれると何も言えないのだが、理由なんてこの際どうだっていい。

つまるところのこの王様ゲーム、如何にして運命の女神を微笑ませるかにかかっているわけだ。

ならばこのゲームには勝ったも同然。
女神は心の弱い者には振り向かないと相場は決まっているのだよ!


この娯楽ゲームにおいて、何をすれば勝利足りえるかは不明だが、とにかく三成が勝利を確信したとき、佐助がせーの、と言った。


ぱっと周りに見えないよう割り箸の先端を手で囲って確認する。

……王様ではなかった。


「王様だーれだっ」

「おっと、俺が王様だな」


佐助の声ににんまり笑って赤い印を一同が見えるよう示したのは、隣に座っていた島左近だった。

……ふん、はじめ運のいい奴ほどここぞというとき何も出来ないものだ。


決して負け惜しみを言っているわけではない。
俺はただメジャーな流れを判りやすくだな…


「じゃあ…手始めに三番の方、上半身だけで構いませんから裸になってください」


三成の内なる己への弁解を遮って命令を下す左近。

王様ゲームというのは最初の命令で誰かを脱がすのが鉄則なのだろうか。


そんなこんなを考えながら手の中の割り箸をちらりと見てみると、そこには数字の三があった。


「え……」


最初の滑り出しから俺なのか…

そうか女神よ、俺を試すか。


「……いいだろう」

「あれ、もしかしてみっちゃん三番っ?」

「島の言葉に従って脱ぐのか。…ツイてなかったな」


楽しそうな佐助とは違い同情するように神妙に頷いている小十郎。

三成の中で、小十郎像は確実に案外ノリのいい人的な要素が強くなっていた。


とにかく、そんなことに構っていられない。
王様には従わなくてはならないのだ。


「三成さんだったら全部脱いでもらってもよかったな……失敗した」

「取り消したりするなよ、男だろう」

「判ってますって。はい、ご自分で脱いでください」

「くっ…」


口を噤み、浴衣の衿のあわせを自ら緩める。

…し、視線が痛い。
究極的に恥ずかしい。
特に左近の視線がっ…

だが…!


一気にがっと惜し気もなく日焼け知らずの白い胸を晒し、袖から腕も抜いて浴衣を腰帯だけで固定しているような状態になる。


「…こ、これで満足か?」

「いや、満足するには全部脱いでいただかないと…」


にこにこしながら左近が流れるような手つきで帯に手をかけてくる。


「っ…、ふざっ…」

「その辺にしとけ、島」


阻止しようと左近の手首を引き剥がしにかかったとき、思わぬ助け舟が。

ちょうど三成の正面に座る形になっている小十郎が、見ていられないといった感じに眉間を摘んでいる。

その隣の佐助は止めるに止められず引き攣り笑いだった。


そんな様子に左近は苦笑で両手をあげて降参のポーズになる。


「冗談です、冗談。王様の命令はひとつだけですしね」

「…島さんっていつもこんな強引なの?」

「ま、まぁ…基本は」


曖昧ながらも少しばかり問題発言傾向のある三成の言に、佐助は畏怖の念を込めた眼差しで左近を見遣った。


「ん?あぁ…まだ死にたくはないんでね。あんたには何もしない。ね、片倉さん」

「当たり前だろうが。そんなこと訊くな」


小十郎は目すら合わせずきっぱりそう言い、佐助に割り箸を返す。
それに倣って左近と三成も返却し、三成が上半身裸の状態で次のゲームがはじまった。


「はい、王様だーれだっ」

「…俺だ」


ふっ、女神よ、信じていたぞ。

三成の割り箸には、確かに赤いマジックで塗られた王たる証があった。

そして既に命令は用意してあるのだ。
俺に恥をかかせた罪、誰でもいいから償うがいい!


「二番、三番を脱がせろ」

「脱がっ……あーよかった、俺様よんばーん!」


割り箸を振って喜んでいた佐助と、言い出しっぺの三成がぴしりと固まった。

残る参加者は二名。
命令を遂行するのも二名…


ど、どっちがどっちを…

ごくりと生唾を飲み下し、佐助と三成はそれぞれの想い人を盗み見た。


「……」


…殺気立ってる。

背後に黒い何かを従えて不敵に微笑み合い、小十郎と左近は同時に割り箸を脇に放った。


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