現世乱武小説
game(左三)
「なんだ、いきなり…」
左近も揃ったところで、佐助は小十郎を呼んだ。
仕事もちょうどひと区切りついたらしく、佐助が声をかけるとすぐに席を立ったのだとか。
…ま、それでも俺が呼んだところで動かないだろうけどね。
関心がないように、まるで放任しているように振る舞っているものの、結局小十郎は佐助のことが好きで可愛くて仕方ないのだろう。
こんなこと言ったら本気で張り倒されるな…
自尊心の強い人だからね、と左近はこっそり笑った。
その点、三成さんと似ている、かな。
「ごめんね、ただの暇潰しなんだけどさ」
小十郎さんいたほうが楽しいから、と屈託なく言う佐助。
さて、片倉さんの反応は、と…
お……おぉ…
へぇ、人前で笑うことなんて以前はよっぽどのことがない限りなかった人が…
ほんの少しではあるが、確かに穏やかな空気を醸して笑っている。
「……何を見とれている、左近」
「ん、あ、いえ」
冷ややかな三成の視線を斜め下から感じ、小十郎からそちらに移す。
「珍しいものを見たもんで」
「…?」
それ以上の説明はするつもりはないように笑って誤魔化し、左近は佐助に向き直って問いかけた。
「で、ゲームってのは?」
その質問を待っていましたとばかりに、佐助は含み笑いを見せたあとポケットから舒に割り箸のようなものを四本取り出す。
「ジャーンッ」
「……どっから拾ってきたか知らねぇが…捨ててこい」
小十郎が諭し口調で言うのに対し、同意を込めて三成と揃って頷く。
「誰が使ったかも判らないのだろう?」
「片倉さん、もっといいもんあげてもいいんじゃないですか?」
「ああ…痛感してる」
「ちょちょちょ……ストップ!ストーップ!」
どことなく哀れむような視線を一身に受け、佐助は慌てて場の勘違いから生じた虚しい空気を断ち切った。
「これ未使用だから!誰かの使用済み拾って喜ぶほど可哀相な子じゃないから!」
そう言って割り箸の先――握っていたほうの先を三人に見せる。
そこには二から四の番号と、赤く塗られたものがあった。
「…なるほどね」
「……やるのか?」
「?…なんだ、これは」
ゲームが何か合点したように不敵に笑う左近。
ゲームを理解した上で乗り気でないオーラ散漫な小十郎。
得心いった顔の二人に置いてきぼりをくらって首を傾げる三成。
各々違う反応を返す面々に満足したように佐助は笑った。
「みっちゃんは知らないかな?王様ゲーム」
「王様ゲーム?……お前が考えたのか?」
割り箸を眺めつつ訊ねる三成に、佐助がやたら嬉しそうに説明している。
「いや、もとからある一種の命令し合うゲームだよ。
みんなで一斉に割り箸引いて、赤いの取った人が王様。王様は他の人に命令できて、周りはどんなこともきかなきゃいけないってね」
「どんなことも…?」
三成が見るからに嫌そうな顔をして反復する。
このままだとやらんとか言い出しかねないので、左近は陰湿なイメージを抱いているであろう三成に補足した。
「そんな重く考えなくていいんですよ。たとえば三番は肩を揉め、とか二番と四番は垂直跳び三十回やれ、とか…しょうもないことしか命令しません」
「垂直跳び…」
「膝悪くしそー…」
左近の例えに眉を潜める小十郎と佐助など気にしていないかのように、三成はほっとしたのか身体の力を抜いて鼻で笑ってみせた。
「ふん、要は王になればよいのだな?」
「はい、運試しみたいなもんですね」
だいぶ気が楽になったらしい三成は、気がつけば発案者の佐助よりも俄然やる気になっていた。
「いいだろう……その勝負、受けて立つ!」
「お、左近とて運は強いほうですよ?」
「まぁ何はともあれ。みんなやるってことでいいよね?」
「おい、俺は何も…」
「じゃっ、せーので引くから一本選んでー」
佐助に台詞を流され、やる瀬ない吐息をひとつ落として小十郎も一本掴んだ。
人数が少なければ、王様になる確率が高くなる代わりに命令される確率も高くなる。
そして、これからはじまる嫉妬地獄に全員が嵌まり込むことになることは、まだ誰も知らない…
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