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現世乱武小説
佐助マジック(左三)


宛てがわれた部屋に戻ると、食膳は佐助が片付けてくれたようで、座布団などもきちんと整えられてさっぱりしていた。


着替えを一式しか持ってきていなかったので、日曜日の帰りに着替えることにしてそれまでは旅館の浴衣を借りようということになった。

タオルで適当に髪の雫を払いながら三成は座布団に腰を下ろした。

ふぅ、とひと心地つくと、がしがしと頭を拭きながら壁にかかった時計を見上げる。

時間帯はまだ日も高い昼だが、なんだか風呂上がりというのは意味なく布団に突っ伏したくなるものだ。


「……よし」


普段は面倒臭がりな三成だったが、こういった欲に対しては非常に腰が軽かったりする。

襖から布団を引きずり出し、邪魔な机やら荷物やらを足蹴にして端っこに追いやって、テレビがちょうど見やすい位置に布団を落とした。

まだ敷かず、こいつにはソファ的な役割を果たしてもらおうという魂胆だ。


どこと無く昭和の香りが漂うテレビで、リモコンを探したがどうやら手動らしかった。

まぁここだけ近代的でも場にそぐわないしなと己を納得させ、四つん這いでテレビの電源を入れる。

別に一人が寂しいから音が欲しかったとか、そういうことではない。本当に、全然。


ちなみに左近は大浴場に置いてきた。
他にも宿泊客がいるというのにあの甘い空気はまずいという三成の独断だ。

そう、独断だった。

太鼓判を押された左近はキスでもしたかったようだが、こちらはこちらで憤死覚悟の台詞だったのだから長居出来るわけがない。

左近を力づくで湯に沈め、早々に退散――文字通り退散してきたのだ。


平日のこの時間、奥様向けのものや刑事ものばかりで、特に見たいと思うものもなく意味なくかちかちとチャンネルをまわしていると、襖が丁寧に横に開いた。

左近かと思ったが現れたのはオレンジ色の髪。


「…佐助」

「あ、みっちゃん一人?」


…みっちゃんという呼び方はアパート近くのコンビニのおばちゃんだけで十分という三成の胸中の声には勿論気付かず、佐助は何やら楽しそうに笑っている。


「左近なら風呂だぞ?」

「あ、なに?置いてきちゃったんだ?」

あははと困ったように笑う佐助。
左近に用事、というわけではないらしい。

じゃあ、と佐助は左手首に巻いていた腕時計に視線を落とす。

「もう少ししたらまた来るからさ、ちょっとゲーム付き合ってくれない?」


予想だにしなかった誘いに、どう答えたらいいかよく判らず言い澱む。

そんな様子を見兼ねたように佐助はにやりといかにも悪者じみた笑みを浮かべてみせた。


「一応みっちゃんと島の旦那、小十郎さん、俺様が参加予定なんだけど……旦那たちも学校が終わればなぁ…」


既に予定の参加者の中に組み込まれていることはスルーしておこう。


「人数が多いほうが盛り上がるのか?」

「そうだね、バリエーションが増えるし。ま、やってる途中でみんな呼べばいっか」

「…仕事はいいのか?お前はともかく、支配人はまずいだろう」


やってる途中で呼ぶということは夕方近くまで続けるということ。
他にも客がいるのに縛り付けるのはいかがなものかと危惧しての三成の問いに、佐助は片手を腰に当ててもう片方の手の人差し指を立て、ちっちっちと演技じみた仕草をする。


「うちの従業員、粗野で粗暴で大雑把だけど仕事は出来るんだよ?」


うちのって言っても伊達の旦那のなんだけどさ、とあっけらかんと笑いながらだいぶひどいことを言ってのけた。


…よく判らない奴と思っていたが、話してみると軽いノリとよく喋るからか左近に通じるところがある気がした。

よく笑い、冗談混じりにものを言うあたり人付き合いのよさを思わせる。


いつの間にか三成も一緒になって盛り上がっており、会話が弾む中風呂から上がった左近の表情が満足そうに綻んだのには気付かなかった。


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あきゅろす。
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