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現世乱武小説
空回りする嫉妬(左三)


昼を少し過ぎた頃。
空いた膳を下げに来たのは、従業員でも小十郎でもなく、赤毛の青年だった。


「お、あんたか、佐助。仕事上がりに片倉さんのお手伝いかい?」


砕けた口調で青年に話し掛ける左近の声はどことなく楽しそうに取れた。

青年――例のよく判らない男、猿飛佐助。
接点が何もないので仕方ないといえば仕方ないが、話した回数なんて片手で数えられるくらいだろう。


佐助は、とび職の作業着の上から着ているこの旅館の羽織りの衿をつまみ、左近に人懐っこい笑顔を向けた。


「まあね。ここ年中人手不足でしょ?フロントとか膳の上げ下げとかまでなかなか手ェ回んないらしくてさ」

「片倉さんの傍にもいられるし、か?」

「そうそう!なんだかんだでそれが一番……ってなに言っちゃってんの島の旦那ぁー!?」


でれっと笑ったかと思うと、佐助は顔を真っ赤にして噛み付いた。

それを見て三成はついぽかんとしてしまう。

佐助とここの支配人……そういう関係だったのか。


「そういう島の旦那こそ、みっちゃんといちゃいちゃしたいから昼間っから来てんでしょ?」

「い、いちゃいちゃ!?っていうかみっちゃん……」

「あーほらダメダメ。三成さんそういうの苦手なんだから」


待て。
待て待て。

俺は佐助とみっちゃんなどと呼ばれる間柄になった覚えはない。
なのになんだこの言った者勝ち的なノリは!
そんなに人付合いとは適当なものか!ああそうか!

それに加えて左近の態度…
佐助の肩を持ち尚且つ俺を虐げて喜んでいるかのような物言い!


「……気に食わん」

「え?なんです、三成さん?」

「気に食わんと言ったのだ!このクズどもがっ」


荒々しく立ち上がり、ぽかんとこちらを見上げる二人をびしっと指差す。


「揃って俺をたばかるとはいい度胸だ。ならば俺も相応の対処をさせてもらおう」


いつになく低い声で言うと、三成は部屋から出ていこうと大股で歩き出した。


「ちょ、どこ行くんです?」


焦燥の色が滲む左近の声に一瞬足が止まりかけたが、なんとか襖に手をかける。


「風呂だ。左近、来るなよ?ここに泊まっているあいだは風呂は一人で入れ。いいか、一人だ!誰とも入ってはならぬぞっ!」


最後は叫ぶようにして言い放ち、三成は部屋から出ていった。

すぱんっと襖が強く閉められてからも、左近と佐助は口を半端に開いて固まっていた。

無意識に息すら止めていると再び襖が勢いよく開けられ、二人同時にびくっと肩を跳ねさせる。


「も、もし今のを反故にすればっ……おおおお前のマンションにもう行ってやらんからなっ!」


そして二度目のすぱんっ、を迎え、三成のものと思われる足音は遠のいていった。


「……ねぇねぇ、島の旦那」

「…はい?」

「みっちゃんってさ……可愛いね」

「だろ?あれはあれで飽きないってね」


今しがたの怒りも、おそらく嫉妬からくるものだろう。
言い残したことをわざわざ取って帰って付け足すあたり、本当に堪らない。


「…来るなとは言ってたが……行ってみるかな」

「それで機嫌なおりそう?」


腰を上げると、若干申し訳なさそうに瞳を曇らせる佐助が見上げてくる。

…この子はこの子で、三成さんが怒ったのが自分のせいだと思ってるのか。

まあ確かに佐助も関係しているが、特に何をしたわけでもない。
気に病む必要など本来ないのだが…


左近は苦笑し、嘘をついても仕方ないと頷いた。


「逆に怒らせちまうかもしれないってのはあるが、そのへんのことは任せな」

「あはは、すごい自信だねぇ。……でももしものために、俺様も奥の手用意しとこっかな」

「そうしてくれると有り難いね。じゃ、俺も風呂行くか………まだ昼だけど」

「いってらっしゃーい」


奥の手がなんなのか気にはなったが、あとでのお楽しみとしてあえて訊ねることはしなかった。


さてと。
可愛い恋人の機嫌をなおしに行きますか。


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