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現世乱武小説
三成の逆襲(左三)


朝食も摂らず、左近に促されるままにマンションを出て車に乗り込む。


あそこの旅館には一度しか行ったことがないが、どこか日本文化を重んじる荘厳な雰囲気の装飾がなされていてなかなか居心地がよかった。

が、政宗が経営する旅館なのだから、もっと頻繁に足を向けてもいいかもしれない。


……それに、左近と三日間ずっと一緒にいられるから、というのも…か、加味、される。
い、いや、だって学校帰りから夜だけじゃなくて昼間まで一緒。さらに朝も夜もだぞっ?
憧れるだろう!

まぁ、バイトに行くとなったら自分のアパートが一番近いのだが。


車の揺れがどうにも腰に響いて敵わない。
文句のひとつも言ってやろうとしたが、昨日の自分を思い出してやめた。

左近に必死にしがみつき、揺さぶられ、煽られ、果てた自分…


恥ずかしいのと同時に、与えられていた快感も僅かながら下肢に舞い戻ってきて、三成は思わずシートの上で身じろいだ。


「どうしました、三成さん。……顔も赤い。昨夜のことでも考えてたんですか?」

「う、うるさい違うわっ!運転に集中しろ!」


ずばっと核心を突かれてしどろもどろになりながら、まさか肯定するわけにもいかず大声を張る。
しかし左近は可笑しそうにくすくす笑い、はいはいなどと適当に頷いているだけ。


……馬鹿にしてるな。左近のくせに。


むっとして、運転中の左近の雄に服越しに手を伸ばした。


「余裕そうにしているお前こそどうなん……あれ?」


ぎゅっと握ってみたが、別段反応している風でもない。
無意識に左近の顔を見上げると、にやりと勝ち誇った笑みを浮かべられた。


「すみませんね。左近はもう落ち着く年頃なので」

「っ…、この屑が!」

「はっはっは、いやーそれにしても三成さんのあれ?は左近のと違い可愛らしいもんですなぁ」

「だっ、黙れ!なにが可愛らしいだ、左近の藻屑っ!」


完敗して苦々しい表情で左近を睨みつけ、手を離してふんっと体全体で窓に向いてやった。
……ドアに足をぶつけたのに気付いた左近が懸命に笑いを堪えている。あー欝陶しい。


それからは何を訊かれても答えずに窓の外を睨み続け、一言も発することなく旅館に到着した。


「お、客入ってますね」


左近の言うとおり、駐車場には三台の車が停められている。
最初訪ねたときが誰もいなかったため、ここもちゃんと営業しているんだなと改めて変に感心した。

砂利を踏んで玄関先に行き、左近が開けようとした扉を先に開けてやった。


「……」

「何をぼさっとしている。行くぞ」


してやったりと言わんばかりの笑顔を目元に乗せて左近を見上げると、左近が無理矢理笑顔を返してきた。

なんとなく勝った気分になれたので、先程ドアに足をぶつけて笑われたことはチャラにしてやることにした。


「こんにちはー」

「いらっしゃいやせぇ!」

「っしゃっせー!」


事務所に向かって左近が声を投げると、あちらこちらから粗野な声が飛び交ってくる。

少しもしないうちに、羽織りを着た一人が事務所から足早に出てきた。


「えー、竜の住み処へようこそおいでくださいやした。お二人様で……って、あんた支配人のお知り合いの!」


下げた頭を起こしてようやく気付いたようで、男はあっと声をあげた。

そして左近の肩を肘でつつき、こちらに視線を投げながらにやりと笑い耳打ちしている。…とは言っても内緒話に留める気はないらしく、普通に聞こえてくるのだが。

「美人さん連れじゃないっすかー。やりますねぃ!それではっ、支配人呼んで来るんでお待ちくだせぇ」


それだけ早口に言うと、何やら客室のほうへ姿を消した。


残されて微妙な空気が流れる中、左近がふっと笑う。


「美人さんだそうですよ。いやはや、左近は鼻が高い」

「……あいつ、ちゃんと俺を男だと思っていたのか?」

「三成さんならスカートだって似合いますよ」

「……。左近、お前ちょっと怒ってるだろう」

「いいえー?まったくと言っていいほど全然」

「………」


左近はよく、三成が他人に美人呼ばわりされたりそういう目で見られると機嫌が悪くなる。

いや、機嫌は対して変わらない。
ただ言葉遣いに毒が増したり、笑っていても目だけが笑っていなかったりするのだ。


「おぅ島。こんな時間に珍しいな」


客室が連なる廊下から顔を出した小十郎に気がつくと、左近は今しがたの刺々しい雰囲気から一転して普段どおりの穏やかさを取り戻していた。


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