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現世乱武小説
悠長な朝(左三)
*視点変更*





左近の部屋に初めて訪れて一夜明けた今日。
決して慣れることはないだろうなと思うほどの鈍い激痛が腰にあった。

加減出来ないと言っただけのことはある。
昨日で三回目だったが、これが一番腰にくる朝のようだ。


ベッドに横になったまましばらくすると、段々と意識が覚醒してきた。

頭の下には筋肉質な腕が一本。

誰のものかは当然判る。
首だけで腕の所有者を見遣ると、意外なことにまだ眠っているらしかった。

朝から三成のアパートに行かないでいいという余裕も手伝ってか、もう片方の腕も三成の腰にまわして抱きしめた状態で寝ている。


前髪をまとめている紐を解くと、左近の額に見慣れない長い髪の毛の束が現れる。
欝陶しそうに見えるのに、その姿が寝乱れたためだと考えるだけでどくんと心臓が脈打つ。


「……綺麗だな」


艶やかな漆黒の長い髪。
一度触れると、もっと触っていたくなるような質感にまた手を伸ばしたくなる。

鼻筋に引っ掛かって流れきれていない一房の髪をどけてやろうと手をそっと左近の顔に近づけると、三成の腰にあった腕が動いて優しく手首を掴まれた。


「…三成さんから襲ってくれるんですか?」

「あ、あああ朝だぞまだ!痴れ者めっ……ふん、起きていたのか?」


ぶすっとして問いながら背を向けてやると、左近が目を開いてくすりと笑った。


「ええ。三成さんが左近を口説く声で目が覚めました」

「…………それは重畳なことだ」


楽しそうな左近の声から逃げるように、もぞもぞと布団に潜り込みながらぼそっと言い放つ。
綺麗だと呟いたときのことを言われているのだろう。
…厭味な奴だ。

左近がいつも三成に対して言っている台詞ではあるが、確かに左近のような男の匂いしかしないような人には言わないものかもしれない。
それに口を開けば綺麗などという観点からは外れるのも事実。


「三成さん」

「……今度はなんだ」


また朝は聞かないような単語が飛び出すのかとうんざりしながら返事をすると、左近が上半身を起こした。


「今日金曜ですよね。学校…いいんですか?」

「……っ!い、今何時だっ!」


がばっと起き上がり、慣れない部屋の中時計を探してキョロキョロする三成に左近が髪を束ねながら横から言う。


「8時ちょっと前です。急げばまだ間に合うでしょう」

「制服は……制服は乾いたのかっ?」

「乾燥機なんでたぶん大丈夫かと。見てきます。三成さんはあるもの適当に朝飯にして食っててください」


にこっと笑いかけられると急がなくてはいけないことも忘れそうになってしまうが、今はそんな場合ではない。


夜中に洗濯機に入れたワイシャツを乾燥機に突っ込み、寝間着は左近のワイシャツを借りて寝た。

乾燥機があると便利だな。
俺のアパートだと扇風機で夜のあいだずっと風を当て続けるしか手段はない。


ベッドルームを出る左近に続いて三成も廊下に行き、入るドアを間違えながらキッチンに向かった。


「……あるものって言われてもな…」


米なんて当然炊いていないし、パンなどももちろん置いていない。
冷蔵庫の中だって酒しかない。


悩むあいだにも時間は刻々と過ぎ去り、ワイシャツを持った左近がキッチンに顔を出した。


「ワイシャツ、乾いてましたよ」

「左近!何も食べるものなどないではないかっ、酒しかないぞ!」

「………あれ?」

「あれ?ではないっ!お前があれとか言っても全然可愛くない……じゃなくてっ、これでは遅刻してしまう!」

「遅刻なら遅刻で、ゆっくり行けるじゃないですか」

「ゆーちょーなことを言うな!!俺は今までぎりぎりだったが無遅刻なのだよっ!だったら休んだほうがマシだ!」


珍しく大きな声を出す三成に、左近は難しい顔をして逡巡し、でしたら、と人差し指を立てた。


「休んじゃいましょ。いっそのこと」

「……ひ、他人事だと思っているだろう」

「違いますって。今からどんなに急いだって間に合いませんよ。遅刻より休んだほうがマシ、なんでしょ?」

「くっ…」


悔しそうに俯く三成に頭から左近が乾いたワイシャツを被せてきた。
先程まで乾燥機に入っていたそれはまだ温かく、頭に熱が篭って暑苦しい。


「それにほら、休めば三連休ですし」

「ん…まぁ」


ワイシャツにより遮断された密閉空間の中曖昧ながらも頷くと、左近が声の調子を変えた。


「それじゃ、日曜までの確実な食事でも確保しに行きますか」

「三日分を一気に確保するのか?」


三成の上にかけられていたワイシャツをばさっとどかし、左近は悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「旅館ですよ、旅館」


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あきゅろす。
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