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現世乱武小説
ポスト佐助(小十佐)


まだ話を持ち掛けたわけでもないのに自信ありげににんまり笑う政宗を疑問に思いつつ、とりあえずついてこいという言葉に従って才蔵が寝ていた部屋に向かった。

布団は綺麗に畳まれており、才蔵は座布団に座って窓の外にぼんやり視線を投げていた。


政宗が先に入り、そのあとに続く。
足音でようやく気付いたらしい才蔵は、ぱっとこちらを見上げた。


「小十郎殿……。仕事はいいのか?」

「ああ、一段落ついた。さっきは悪かったな……差し入れ、持ってきてくれたってのに」

「小十郎の集中力半端じゃねーもんな。一回仕事はじめると終わるまで会話なんて出来ねえよ」


才蔵はそうか、とだけ言ったが、目は別のことを訴えてくる。
何故二人揃ってここに来たんだ、と。

その視線に応えるように政宗がひとつ頷いて口火を切った。


「そっちの仕事が終わったあと佐助がうちでバイトしてるんだけどさ、今度小十郎と佐助が出かけるんだよ。それで小十郎の穴を幸村が埋めるってことになってんだが……佐助の代わりがまだ見つかってねーんだよな」

「猿飛殿の……代わり?」

「Yes.そこでだ。お前に佐助の穴を埋めてもらいたい」


伏し目がちな才蔵の目が、少しだけ見開かれた。

そこでようやく小十郎の思考が追い付いた。
政宗は、佐助は才蔵にとって憧れ的な存在だろうと言っていた。
憧れである存在の位置に自分が抜擢されるというのは……もしかして本人にはとても名誉なことなのではないか。
今までのことが報われた、とも取れるかもしれない。


「……猿飛殿の仕事を…俺が?」

「やっぱり佐助と肩並べられんのはあんたくらいかなって思ったんだが……一日だけ、やってみねぇ?」

「……やる」


たいして考えたようにも見えなかったが、才蔵はしっかり頷いた。

心なしか瞳の中に炎が見える。


「よーし!決まりだな!まだ日取りは決まってねーから、なんか判ったら佐助通して教える」

「わかった。ただ……これだけは言っておく」

「ん、どうした?」


才蔵は、炎の瞳に冷たいものを混ぜて政宗を睨んだ。


「……お前の指図は受けない」

「…はあぁぁあ!?え、だってそしたらやること判んねえだろっ」

「そんなことはいい。だが、お前の指図はふぐぅっ!」


冷静としか言えない声音で淡々と話す才蔵の右頬に、政宗のカウンターが華麗にキマった。

しかし才蔵の体も、そのままよろけるのかと思いきや倒れ際に右足で政宗の左膝にローキックを見舞う。


が、上体を揺らされたため重心が定まらず、才蔵はそのままびちゃっと畳に倒れ伏した。


「……い、いきなりだな。何をする…」

「二回も同じこと言うからだ阿呆っ!」


条件反射のように動いた足に蹴られた膝を抱えてぴょんぴょん跳ねながら政宗が激昂する。


…なるほど、これが"喧嘩"か。
嫌い合って、悪い雰囲気で起こるものでなくてよかった。

一人安心する小十郎を余所に、二人の喧嘩は取っ組み合いに発展している。


「……」


喚き合う二人に背を向け、ポケットから携帯を取り出してある番号をコールする。

夜も深まった時間帯だったのでもしかしたら寝ているかとも思ったが、少ししてから繋がった。


『小十郎さん?どうかした?』

「あぁ、こんな時間に悪い。…今度真田に任せて出かけるって話、あっただろ?」

『うん、まだ日にちとかは決めてないけどね。それが?』

「……真田のほかに、霧隠にも手伝ってもらうことになった」

『へえ………って、ええっ!?な、なんつーか……その、大丈夫なの?人間関係とか…』

「ああ。見てる限りだと案外どうにかなりそうだ。真田にも伝えておいてくれ」

『了解了解。……それにしてもさ、そのメンツじゃ絶対一日中煩いよ』

「…だろうな。ま、そこは真田が来る時点で見当はついてたが」

『さっすが小十郎さ〜ん。旦那の声で苦情きたらごめんね』

「くくっ、有り得なくもねぇから恐ろしい。その辺の覚悟くらいできている」

『ご迷惑かけまっす』

「いや、頼んでるのはこっちだからな」

『…あれ?否定してくれないの?』

「生憎、その気はねぇ」


ひどっ!とかなんとかまだ騒いでいたが、気にせず電話を切った。


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