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現世乱武小説
幸村+才蔵=?(小十佐)


小十郎は、接客を政宗に任せて事務所に詰めていた。

時折従業員が何か訊ねてきたが、極めて事務的な口調で最低限に済ませ、肩の凝りをどうにかしようと椅子の背もたれに寄り掛かったときには時計は11時をまわっていた。


ふと気付けば、右肘の傍に皿に乗ったおにぎりが二つ。
お茶も一緒に添えられていた。


「……おい」


少し離れたデスクで書類処理していた従業員に声をかける。


「なんすか、支配人?」

「これ、誰が持ってきた?」


誰かが持ってきてくれたのだろうが、覚えがない。
たとえ立場が違えど、親切には礼を尽くさねば。

しかし小十郎の質問に男は首を捻った。


「いやぁ、俺が来たときにはもうありましたからねー…わかんねえっす」

「…そうか」


となるとだいぶ前。

すっかり冷たくなった湯飲みを持ち、茶葉が完全に下に落ちてしまったお茶を啜る。
これを食ってひと心地ついたら才蔵の様子でも見てくるか。


おにぎりを頬張り、口をもごもごさせていると事務所のドアが開いた。


「やっと休憩入れる気になったか?」


お茶で飲み下してから苦笑を浮かべる。


「没頭するとなかなか…」

「ははっ、そのおかげで俺は大助かりなんだけどよ」


からからと笑うが、政宗は正装に身を包み仕事をしていたのだ。
大助かりなのはお互い様。
片方が欠ければ、ここの経営は瓦解してしまうだろう。

そんなことを考えていると、やはり幸村に支配人代理は少しばかり無謀なのではないかと思えてきた。

やる気があっても、手が追い付かなければ意味がない。


それを言おうとすると、同じタイミングで政宗が口を開いたので小十郎は噤んだ。


「それ、用意したの霧隠だぜ?」

「……こ、これ、ですか?」


小十郎が手にしている差し入れを指差して、政宗は呆れたように言った。


「お前、霧隠が声かけたのに完全無視だったらしいじゃねーか。あいつ落ち込んでたぞ」


衝撃の強さに、思わず言葉を失った。

従業員たちが入口あたりからかけてくる声に返答していたことは覚えているのに……俺は霧隠が来たことに気付かなかったのか?

しかも無視ということは、直接ここに来たのも霧隠。
肘の近くという至近距離に差し入れを置いたのも霧隠。

それなのに、すぐ横に来た気配に……気付かなかったのか?


歳、か?
いやいや、まだ三十路一歩前。働き盛りのはずだ。


悶々と考えている小十郎はさておいて、政宗の話はまだ続いていた。


「なあ、考えたんだけどさ、幸村だけじゃお前の代役はやっぱキツイと思うんだよ」

「…そう、でしょうな」


同じことを考えていたらしい。
今日ほど事務の仕事が溜まることは滅多にないが、客がいつ来るか判らないこの仕事。
不安要素は…当然ないほうがいいに決まっている。

しかし、それもこれも佐助と出かけるという話を白紙に戻せばいいだけのこと。

そう言いかけた小十郎を、政宗が片手で制した。
まあ聞け、と短く言い、小十郎の鼻の先で人差し指をぴっと立てる。


「幸村だけなら心配。だったら霧隠も使わねぇ?」

「霧隠をっ?」

「そ。…どうだ?」

「……初心者二人の登用はさすがに危険かと」


これが一番の理由だが、他にも政宗との交友関係や、部活の件も手伝って幸村に遠慮がちになる恐れだってある。
職場に私事を挟まない。どこでも共通して言えることのはずだ。


低く唸るように、しかしきっぱりと小十郎が言うと、政宗は唇を尖らせた。


「だってよー…そうでもしないとお前出かけられねーだろ?多少の無理があることくらい…俺だって判ってる」

「政宗様…」


忙しくなるのは自分自身なのに、こちらのことを考えてくれている。

……いかん、目頭にまたきた。


「俺の代わりはちゃんと佐助ならやってくれるって信じてるけどよ…
どうやったってあいつは不器用だ。おまけに要領も悪い」


……散々な言われようだが、すまん真田。俺には弁解出来ない。


「救いは社交性くらいだろ。そこが欠けてる霧隠は、幸村が言うにはやれば出来る奴だそうだ。
二人合わさって一人前、っつーことにしてぇんだが…」


了承を得ようと横目を投げてくる政宗に、苦笑混じりに参りましたと頭を下げた。


「……判りました。外ならぬ私のため。有難うございます」

「ぃよっし!そーやってたまには羽伸ばせよなっ」

「今後気をつけるとしましょう。あとは……霧隠がこの話をよしとするか、ですぞ」

「ああ、その点は大丈夫だ」


けろりとしている政宗。
何も知らない小十郎はぽかんとするしかなかった。


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