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現世乱武小説
小十才?(小十佐)


佐助を家に送り、さすがにもう迷うことはなくなった団地を抜ける。
何分も経たないうちに旅館に到着し、一度ぐるっと後ろにまわって従業員用の駐車場に車を入れた。

客の車は二台。
平日としては上出来だ。


運転席から降りて後部座席を開けると、代わらず気を失ったままの才蔵が転がっていた。

最初はトランクに入れておこうかとも思ったが、それはあまりにも罪を犯したような気がしたのでやめた。


荷物のように才蔵を肩に担ぎ、片手でキーをかけてポケットに落とした。
佐助も小柄だが……霧隠はもっとちいせぇな。


裏口から中に入ると何人かの従業員が挨拶をしてくる。
それらに短く応えていると、ちゃんと羽織りを着た着流し姿の政宗が奥から現れた。

たまにではあるが、政宗はオーナーのみが着る焦げ茶にもっと深みが足された簡素な、しかしそれ故清潔な着物に身を包んで仕事をする。

久しぶりに目にすると、成長したなぁと感傷に浸りたくなるのは年寄りの特権。
よって俺はそんなことはない。少しばかり目頭にぐっとくるものがあるが、これは何かの手違いだ。


しかし政宗は、己を言いくるめようとする小十郎本人のことは気にせず、小十郎が肩に乗せて片腕で支えている小さな身体のほうに絶望的な顔をした。


「こ、こじゅうろう…?誰……てか何して…」

「はい、政宗様のお話にも以前よく出た霧隠です」

「………」

「…政宗様?」

政宗の肉体的喧嘩相手である才蔵。
そんな彼をなんの連絡もなしに連れてくるのはやはりまずかったか…

うんともすんとも言わずに才蔵を凝視している政宗に、小十郎は再度問い掛けた。

「政宗様…、いかがなさい――」

「………たいだ」


俯き、ふるふると小刻みに首を横に振って、政宗が小声で何か呟いた。

よく聞き取れず小首を傾げると、がばっと顔を上げて声を張る。


「俺は反対だっ!!」


隻眼の瞳には涙が。


「なっ……え、ま、政宗様っ?」


主の思いがけない涙にしどろもどろになっていると、その濡れた左目にぐっと力を込めて政宗は叫んだ。


「見損なったぜ小十郎っ!佐助に会いに行ったんじゃねーのかよ!この浮気者っ」

「ち、違います。霧隠は私が責任を持って連れ帰って来ただけのこと。決してそのような他意は…」

「せ、きにん……ってお前っ…こんな短時間で既成事実作っちまったのか!?」


……完璧に誤解されている。
これは弁解すればするほど自滅していくパターンではなかろうか。

こちらを非難の眼差しで見つめてくる政宗に、小十郎は低く、はっきりと言った。


「佐助も知っています。仕事仲間だそうで」

「後ろめたさとかなんにも感じ……って、え?……知ってんのか?つーか仕事仲間?」


見事にクエスチョンマークを頭上に浮かべている。
ようやく耳を貸す気になったようだ。

細く息を吐き、努めて冷静な声で言う。


「小十郎の話、聞いていただけますな?」


それからおとなしくなった政宗に、現場で起こったことをすべて話した。
…いや、すべて、と言えば嘘になるか。
才蔵が気を失うまでのことすべてなら話した。そのあとの甘ったるかった時間のことはスルー。


「…で、先程佐助を送って参りました」

「……なんだよぉ〜」


安心したようにへたり込む政宗に苦笑し、ぐったりしている才蔵を顎で示す。


「一室、使わせましょう」

「ん、あぁ、そうだな。…しっかし、退学して何やってんのかと思えば…まーた佐助の後追っかけてんのか」

「また…?」


言葉が引っ掛かり訊き返すと、政宗が記憶を呼び起こすように目を細める。


「ああ。事あるごとに佐助に突っ掛かってさ、果たし合い申し込んだり掃除のときに乱入しに行ったり」

「…そうでしたか」

「で、今度は佐助と同じとび職?……憧れってやつだっのかもなぁ」


どこか遠い目をする政宗は納得したように頷いているが、小十郎には理解出来なかった。

憧れ…というと、自分もああなりたいと羨望することと同義。
…そんなものを抱いてなんになる?


訝しげな顔をしていると、それに気付いた政宗が補足してくれた。


「先輩相手にそういうの感じる奴、なんだかんだでいるんだよ。カッコよかったりカリスマ性があったりするとな」

「ほぅ…」

「ま、お前は俺のことばっか面倒見てたからそんなもん感じる暇なかったかもしんねぇけど」


そう言って笑う政宗が、少しだけ切なく見えた気がした。

そこで話を切り上げると、一番端の客室を開けて才蔵を寝かせた。


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