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現世乱武小説
片倉流応急処置(小十佐)


「……ぅ…、うぅ…」

「うわぁ、うなされてる。絶対夢ん中でも首絞められてるよ」

「…煽るこいつが悪い」

「…まったくもー」


気を失った才蔵を日影に運び込み、工具箱の近くに放られていたタオルを水で濡らして目から額を覆った。

「こうやって処置するんだ」

と小十郎の指示に感心して呟くと、小十郎は頬を掻きながら、

「ああ…たぶんな」

ひどく曖昧な答えをよこした。

才蔵、どうか無事に目を覚ましてくれ。


確かに喧嘩を売るほうが悪いが、買うほうも買うほうだ。
…二人して喧嘩っ早いんだもんなぁ

苦労の滲む溜息をほぅ、と漏らして佐助はそういえばと顔を上げた。


「なんで小十郎さんここにいんの?旅館は?」

「いや…いつもの時間になってもお前が来ねぇから、お帰りになった政宗様に任せて迎えに来ただけだ」


じき七時だぞ、と小十郎は空を仰いだ。
つられて見上げると、日は既に沈み薄闇が空一面に広がっている。

そろそろ帰らないと武田家の夕飯がずるずる遅くなってしまう。


「大将と旦那、たぶん今頃焦ってるな…」


電話くらい入れておこうか。


「そういえば…棟梁は今日休みだったのか?」


小十郎が来たとき、メンバーはまだちらほら残っていたが信玄の姿はなかったらしい。
それを聞いて佐助は苦笑した。


「大将が次に出張るのは最後なんだ。仕上がりを見に来るって感じ?」

「…ただでさえ人数少ねぇのに、か?」

「うん。一応指揮権は俺様が譲り受けたし…。真田の旦那が立派な大工さんになったらバトンタッチだけどね」


小十郎は感慨深げに頷いて、そういうのいいな、と微笑んだ。

なんとなく照れ臭くなって話題を変える。


「さ、才蔵どうしよっか。まだしばらく目ェ覚ましそうにないよね…」


ぴちぴちと頬をはたいてみたが、無抵抗に首が傾いだだけだった。
小十郎も傍にしゃがみ同じことをしたが、微かに唸っただけでやはり起きない。


「…やっちまったのは俺だからな。持って帰る」

「お持ち帰りっ?」

「妬けるか?」

「こっ、こんなあけっぴろげな浮気見たことないんですけど!!」

「隠すよりいいだろ」

「不純っ…不純ー!!」

「不純異性行為ならお前も……ん、ああ、不純同性行為になるのか?」

「知らないよ訊かないでよてか言わないでよっ。才蔵はまだ無垢な子なのに…!」


ぎゃあぎゃあ言い返していると、可笑しそうに小十郎が喉を鳴らして笑った。

…あぁ、その眉の寄り方がまたいいね…


じゃなくてっ!


「冗談に決まってるだろう?」

「当たり前だから!!」


本当にこの人は…
変なところで意地悪っていうかふざけるっていうか…


「でもな、佐助」

「今度は何よ…」


呆れて切り返すが、小十郎の瞳は今までのそれと違って真剣だった。


「もし他に好きな奴が出来たら…俺に構わず行け」

「へ……?え、なに、急に…」

「これは本心だ。縛るのは好きじゃねえ」


真摯な眼差しと見つめ合うこと数秒。

浮気を…許可、された?
まぁ元からそんなことするつもりはないし、相手もいないから出来ないのだが。


「えーと……あ、ありがと」


それしか言えない。
小十郎さんも好きな人が出来たら俺様から離れていいよ、なんて言えるものか。

小十郎がそんなことを言うのも、やっぱり今でもこちらの将来を考慮してくれているからだろう。
そこまで歳でもない小十郎の先など省みずに振り回してしまう自分が浅ましく思えてきたが、なら好きにさせてあげよう、という気は起きなかった。


そんな佐助の胸中を知ってか知らずか、小十郎はまるで泣いている子供を宥めるように優しく頭を撫でてくる。


「帰るぞ。送ってやる」

「……」


なんでだろう。

…今、今すぐキスしてほしい。
気休めのじゃなくて、包み込むような深いキスを…


「…小十郎、さん」

「あ?………っ、」


二人して膝を折っていたため、高さはちょうどよかった。
小十郎の二の腕のシャツをきゅっと掴み、自分から唇を重ねる。

小十郎は驚いたように一瞬固まったが、少しすると舌を捩込んできた。

「んっ、…ふぅ」

もっと…腰が立たなくなるような…

そんな佐助の思いに呼応するかのように、小十郎は佐助の舌に舌を絡める。


気を失っているとはいえ後輩の真上。
その現状も加味して、佐助は下腹部に甘い疼きを感じていた。

あー…
どうしよ。


一度ついた欲望の炎はなかなか消えなかったが、下からの寝苦しそうな呻きを耳にして咄嗟に身体を離す。


お、俺様…何をっ…!


自分から起こした行動でありながら理解出来ない。
一瞬でもヤってほしい、と思ってしまったことが信じられなかった。
……溜まってはいないと思うんだけど。


「くっくっ…」

「わ、笑わないでよね……俺様にだってちゅーしたいときがあるんだよっ」

「みたいだなぁ?あんなに物欲しそうにしてたんだからよ」

「うるさーい!ほら、帰る帰るっ」


先に立ち上がり、引きずるようにして小十郎を立たせた。

顔が熱い。
でも、それで小十郎さんが笑ってくれるならそれでもいいかな、なんて思ったり。


「……へへっ」

「佐助ー、おら、乗れ」

「はいはーい」

「…、顔直してから乗れ」

「むーりぃ。才蔵忘れないでよ?」

「ああ」


小十郎が振動を与えないよう抱き上げて才蔵を車に積み込むあいだに、自分のぶんと才蔵のぶんの仕事道具を掻き集める。

でも自分が帰って、才蔵が政宗のもとに行くと考えると少し不安だ。


ま、小十郎さんがいれば大丈夫か。


家に送られていくあいだ、たぶん俺様、ずっと笑顔だった。


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あきゅろす。
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