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現世乱武小説
好戦的なお二方(小十佐)


一日休みをもらった翌日。
メンバーの疲れがないためか、作業はスムーズに進んだ。
しかし、手が動くうちに出来ることをやってしまいたいというメンバーの考えもあり、結局昨日の休みを挽回するほど今日は働いてしまった。

いや、だってホントにみんな今日すごい機動力だったし…
逃したら勿体ないかなぁ、なんて。

作業に没頭したおかげで既に日も沈もうかという時分だが、残るは中のみ。
この調子なら近日中に終わらせることが出来る。

そのあとの連休はきっと家事に追われることになるのだろうが、嫌いではないため苦ではない。
まあ、かといって楽しいかと問われれば首肯しかねるのだが。


「お疲れ。もうだいぶ慣れたんじゃない?」


小道具を片付けながら、濡らしたタオルで顔を拭いている才蔵に話しかけた。

だが才蔵は、タオルを首にかけると頭を横に振る。


「…慣れるのはそのときだけだ。はじめの頃のことは…ほとんど覚えていないと思う」


自分を、過大にも過小にも評価しない才蔵の姿勢が佐助には好ましく映る。

すごいと思ったことには素直に驚き、その逆には見向きもしない。
そんなだから、もちろん自分より下の者にはそれ相応の言葉を送り、時には相手を落ち込ませることも間々あったりするのだ。

要するに世辞や嘘が言えない子。

世渡りするにはあまりに現代に見合わない性格。


他人を散々よいしょして、受け流して、茶化して、腹を探る癖がついてしまった己とはどうあっても食い違ってしまうはずなのに、才蔵はついてきてくれていた。


「そんな簡単に覚えられちゃったら俺様の立場なくなるでしょ」

「……まぁ、な」


苦笑混じりに言うが、思ったとおり才蔵の表情は曇ったまま。

やれやれ…
俺様の周りってなんでみんなこう、負けず嫌いっていうか一般人と混同されるのが嫌いっていうか…


そもそも、始めて一ヶ月やそこらで完璧を目指そうなどと考える人なんてそういない。
自分自身だって大口を叩けるほどの技術を持ち合わせているわけではない。
平たく言ってしまえば手順は頭に入っているものの、他はまだまだということだ。


「幸村は……」

「ん?うちの旦那?」

「……ああ。幸村はどうしている?」


あー、そっか。
才蔵だって、部活は十人いて成立することくらい判っているはず。
自分が抜けることによって部活という単位でいられなくなることも、頭のいいこの子は知っていただろう。

今までそのことを口にしなかったのは、ひょっとしたら心配する資格などないと自らを押さえ込んでいたからかもしれない。


目を合わせようとしない才蔵に佐助は小さく笑いかけた。


「元気にやってるよ。応援同好会ってことでね」

「同好会…考えたな。………そうか、よかった」


その言葉は、才蔵の本心だったのだろう。
申し訳なさそうに俯きつつも見せた笑顔は心からのものだった。


「旦那もたまに才蔵のこと訊いてくるんだよ。元気にしてるかーって」

「……あいつはいい奴だな」

「才蔵だって存外いい奴だよ?…あ、存外ってのは余計か」

「…そう言われるといい奴の基準が判らなくなるな」


自嘲気味に才蔵が呟いたとき、佐助の頭上に影が下りた。
同時に芯のある低い声が降ってくる。


「判らなくなるってことは、お前の周りに嫌な奴がいないってことだ」

「こ、小十郎さんっ?」


なんでこんなところに…と慌てる佐助を差し置いて、とっくに気付いていたらしい才蔵は首を捻った。


「嫌な奴……小十郎殿の周りにはいるのか?」


才蔵の質問はいつだって直球だ。
回り道をすることなく素朴な疑問を真っ向からぶつけてくるから、時々すぐに答えられないことがある。

小十郎も少し間を置いてから緩く首を横に降り、だが、と続けた。


「変人に囲まれている」


それだけ言って、何故かこちらを見てくる。


「……俺様はまともでしょ?」

「どうだかな」

「俺から見たら猿飛殿も小十郎殿も立派な変人だぞ?」


ああっ
またこの子はそういうことを!
自ら死地に赴いてどうする!

半歩前に出た小十郎を押さえ込み、悪気のない才蔵を必死で庇った。


「ヘ、ヘッドロックはダメ!将来有望なんだからっ」

「……大丈夫だ。屋外では封印してる」


唸るようにそう言った小十郎だったが、視線は完全に才蔵を捉えている。


「ヘッドロックか…。よく伊達にやられたな」

「なに?」


才蔵の言葉に小十郎の片眉が器用に吊り上がる。

ああ…
嫌な予感…


「あの程度なら余裕だ。小十郎殿も似たようなものだろう?」

「……試してみるか?」


小十郎さんに喧嘩売ったよこの子っ!
しかも買ってるし…

俺様知らないっ


目と耳を塞いだ佐助は、少しして才蔵が堕ちたことに知らないふりを決め込んだ。


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あきゅろす。
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