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現世乱武小説
ポスト小十郎(小十佐)


小十郎の邪魔にならないように、佐助は棚のファイルをぱらぱらとめくって時間を潰していた。

おそらく政宗はまだ復活していないだろうという小十郎の判断と、政宗が元に戻ったら幸村がたぶん殴り込みにくるだろうという佐助の判断を折り込んだ結果、ここでしばらく待機するということになったのだ。


…はぁ、やっぱ接客するところって涼しいねぇ


クーラーの正面をさりげなく陣取ってファイルを眺めながらのんびりと考える。

ちらりとデスクに向き合う小十郎に視線を移すが、小十郎は完全に集中しているようだった。


ペンを紙面に滑らせて細かい字をびっしり羅列させている。
何をしているのかと覗き込んでみると、表のようなものが適当にざっくり書き込まれていることから何かの資料の下書きをしているのだと判る。

しばらくすると開きっぱなしのパソコンを引っ張り寄せてその資料を自ら作り上げていく。


その流れるような手つきもさることながら、佐助は表情に見とれていた。

自分と話すときの少し上から見下ろしてくる顔。
煙草に火をつけるときの俯き加減の顔
運転をしているときの横顔。

それらのどれとも違う真剣な仕事の顔。


男前だなぁ、もう…


誰もが思うようなことを今更ながらに感じる。

綺麗な眉に切れ長の目。ちょっとヤクザ顔なところもあるけど整った顔立ちをしている。


そんな小十郎の先程の笑顔を思い出して、佐助は細く嘆息した。

今までの小十郎の笑顔は、どこか皮肉じみていたり、自嘲気味だったり、苦笑だった。

なのに…

かぁ、と顔が熱くなる。

それほどまでにあの笑顔に優しさを感じたのだ。
あのとき、確かに浮かれていたが、小十郎の顔を見たら頭の中が文字通り真っ白になった。

もっと見ていたかったのに、意に反して直視出来なかった。


いやー、だってマジで心臓跳ねたもん…
そりゃあ今更笑顔にドキドキするような仲じゃないことくらい判ってるけどさ……抱きしめられたりキスされたり……だっ、抱かれたことだってあるけどさっ!

一人で顔を噴火させていると、突き破らん勢いで事務所のドアがぶち開けられた。


「片倉殿!某、仇討ちに参った!」

「お、伊達の旦那は目ェ覚ましたの?」


声を大にして登場したのは幸村。
来ることは判っていたのでさして驚きもせずに訊ねると、予想外に幸村も普通に頷いた。
嬉しそうに頷くなぁ…
ま、その気持ちも判るんだけどさ。


「今政宗殿は復讐に燃えておられる!ちょうどよい、佐助!
某とそなたで前哨戦を――」

「小十郎さん、例の件呑んでくれたよ。あとは伊達の旦那だけ〜」

「…………れ、例の件とは?」


………え?

なに、忘れてんの?


…………。


これだから……

これだから馬鹿はぁぁぁ!!!


がしっと幸村の肩を掴み、がくがくと前後に揺すって脳に眠る記憶を起こそうと試みる。


「ちょ…しっかりしてよ旦那!俺様たちなんのために来たのさ!」

「……政宗殿の…救済…?」

「じゃなくてなんだっけ!?」


眠れる記憶はなかなか目覚めない。
平手で頬の左右を交互にひっぱたいてなんとか起こそうとした。


「い、痛いでござるっ」


右、左、右、左と強制的に向かされている幸村の目にはうっすら涙が浮かんでいる。
佐助は手をとめて幸村の目を見つめた。


「ポスト小十郎でしょ!」

「………。……!そ、そうであった!!」


はっきり明言してしまったため記憶を呼び起こしたとは言い難いが、幸村は身を翻して政宗殿ぉー!と叫びながら引き返していった。

とにかく、これで無事に政宗にもこの話が届くはず。


「…本当に騒がしい奴だな」


我関せずとキーボードをいじっていた小十郎がぼそりと呟いたことに、佐助は苦笑いで応える。


「うん、でもおかげで毎日楽しいよ」

「なら何よりだ」


短く返すと、小十郎は小さく笑みを零した。


存外小十郎さんも楽しんでるくせに。

小十郎に見えないように、一人こっそり笑った。


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