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無双小説
 孫呉にサンタがやってきた・弐


さてと…若き軍師さんは何が欲しいんだ?

目を細めてよく見ると、年齢にそぐわない綺麗な自体でさらさらと書かれていた。


――朱然並の火計部隊を二部隊。


「……人!?」


しかも二部隊も欲しいらしい。

…いや、でもこの袋に人なんて入っていない。
殿は代わりに何を陸遜に…?

とりあえず袋に手を突っ込んでみるが、火計に関わっていそうなものなどなさそうだ。
しかし陸遜に夢を持っていてほしいと願う孫権が、あの17の少年に何も用意していないとも思えない。


…となると。


先程からやたらと指先に触れるこの竹簡だろうか。
まさか代わりに勉強しろとか…?いやいやいくらなんでもそれはない、と一人で首を振り、ひとまずその竹簡を取り出した。

これでまっさらなら本気で勉学を促しているということだが、果たして文字は書いてあった。


――荊州東南東、益州北々東。


…なんだこれ。
どう見ても地域を示している。

ひとつ、凌統は思い付いた。
これは二部隊それぞれの筆頭たる二名の居場所ではなかろうか、と。

ということは、昨夜から今夜にかけて孫権は火計に適した人材を探し続けていたということになる。
人の噂話や、聞き込みなどの手を使って、二名を搾り出したというのか?
情報が十分ではないのか、場所も大まかで名前までは記載されていないが、それにしても…


「……すげ」


唖然として呟き、はっと我に返ってから竹簡を持ち直し、陸遜が穏やかな寝息を漏らす寝室に忍び込んだ。


やはり口調や態度がいくら大人びていようとも、寝顔はまだまだ幼い。
無防備に緩んだ口元や、緩く下がった眉尻などは普段決して見れないものだ。

頭の横にそっと竹簡を横たえて、起こしてしまわないようそっと離れる。

この寝顔を見ていると、孫権の云うように陸遜にサンタの役を押し付けなくてよかったと思えてくる。
夢にしては随分と現実的だが。


室を出て再び竹簡に目を落とす。
次は孫尚香だった。











孫尚香は他の武将たちとは違い、普段から城で生活している。
まぁ孫権の実妹なのだから当然といえば当然なのだが、何せ性格が性格なため、どこかの土地を任地にしたら大人しくしているわけがない。家系がどうであれ、やっぱり本拠地からは出させてもらえなかっただろう。


「…えーと…?姫さんはなんだ?」


竹簡を転がすと、先の陸遜より形が整っていない字が現れた。
こういうものに性別は関係ないのだなと痛切に思う。

せめて欲しいものは女の子らしくあってほしいものだ。
そうは思ったが、やはり男勝りの性分はどうにもならない。
必然的に物欲もそういう方向に傾く。


――槍。


「……え?」


……槍ぃ!!?
一文字。その一文字だけが記されていた。

いや、そんなことより何故槍なんだ?
戦場には専ら弓だし、あんな細腕ではまず槍なんて振り回せない。

何に使うんだ…?
まさか野に出て野生動物仕留めるつもりだとか?


……孫堅様は、確かに姫さんに女らしさを求めなかった。
長兄の孫策様は姫さんを女だと思っていたかどうかすら怪しいし、孫権様は基本的に女性に興味がないからか無頓着。

たおやかで目が離せない二喬は別として、孫家は男女間に区別を設けない。


……ん?


待て待て。
本当に"孫家は"なのか?

よくよく考えてみれば、黄蓋殿も姫さんが何かしでかしても「その若さ、羨ましい限りですなぁ」と年齢のことにしか触れず。
太史慈殿も「さすがは孫策様の妹君だ」と何やらピントのずれたことを云って苦笑で済まし。
陸遜は「策に使えそうですね」と瞳を輝かせ。
甘寧は「そういうときはだな…」と荷担する始末。

よく周瑜殿が「ほどほどになさってください」とやんわりと釘を打ったり、呂蒙殿が「出来ればじっとしていてほしいものですな…」と苦々しく口を挟んでいたが、それがなければ今以上のじゃじゃ馬になっていたはずだ。


「…ま、ケガしなけりゃいっか」


凌統本人は自覚していないが、彼もまた主君たちと同じなのだった。

すっぽり頭までかけ布に包まっている孫尚香の寝台に袋から出した槍を立てかける。
先端は布で保護されていて見えないが、柄に傷がないことから新品であることが伺える。


…孫権様、どんな気持ちでこれ準備したんだ?

つくづく複雑だなぁと思う。


そして夜が明けたら姫さんの頭は寝癖でとんでもないことになっているのだろう。

くすりと小さく笑い、だいぶ軽くなった袋を担ぎ次の寝室、呂蒙のもとへと向かった。


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