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無双小説
 声・弐


さすがに手練を連れている隊だけあって、そう安々とは崩れてくれなかった。
まぁ、逆境だろうがなんだろうが関係なく槍を振り回す慶次の向こう見ずっぷりを見て俺も何故か励まされていたりするのだが。

大刀にこびりついた血を振って払い、身を屈めて飛んでくる鉛の玉をよける。馬から降りた将を横目に確認し、低い重心をそのままに足場を蹴って将の懐に潜るとそのまま袈裟に斬り上げた。
一拍置いてからぱっと弾けるように鮮血が散る。
自分のほうへ倒れかかってくる、既に事切れた敵将を愛刀の腹で押し退けた。

鎧ごと一刀両断してみせる愛刀の刃から再び血を払い、一通り目立つ将もいなくなってきた頃。


「左近!」


今この場所で聞けるはずのない声がした。

反射的に振り返ると、赤みがかった茶色の髪を風に遊ばせながら三成が馬で駆けてくる。


「殿っ…まだ狼煙は…」

「馬鹿者ッ!!」

俺の言葉に被せるように放たれた一喝に動きが止まる。
馬を降りるのもそこそこに、殿はずんずんとこちらに距離を詰めた。
柳眉が険しく寄っているのを見るまでもなく、怒っている。

「一人で行く奴があるか!たまたま慶次がついていったからいいものの…犬死にする気か!!」

「だからって……何も安国寺さんたちまで置いてくることはないでしょう。左近は殿に無事でいてほし…」


自分たちの本陣がある方角に目を配ったとき、勢いに任せて抱き着いてきた殿によってまたも言葉をぶち切った。
否、抱き着いたというより、しがみついて……縋り付いてきたと表現したほうが正確かもしれない。


「俺のことなどどうでもいいのだっ……もっと…自分を大事にしろ…」

「殿…。――ッ!」


視界の端に、殿の後で腕を振り上げる影を捉えた瞬間――あの身なりは山賊の残党だろう――刀を構える時間はなく、躊躇なく殿の肩を掴み強引に反転させた。

突然振り回されつつも、たたらを踏んで体勢を持ちこたえる殿が戸惑いながらこちらを見上げた直後、右の肩口に重い衝撃が走った。

殿が目を見開くのが判る。

が、この程度の痛みなら傷もたいしたことはないだろう。


そう踏んだが、ぐらりと身体が傾いだ。


「左近!三成!!」


珍しく真剣な慶次の鋭い声と、肉を断つ鈍い音。


膝も突いていないのに急激に遠のく意識。

何が起こったか理解出来ずに、暗幕が下ろされていく視界が最後に捉えたのは、殿の泣きそうな顔。




「左近っ―――!!」





地に倒れる衝撃すらなく、すべての感覚が吹っ飛んで暗闇へと切り離された中、


妙に鮮明に、


声が聞こえた。


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