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無双小説
 盤上の賭け・参


連れてこられたのは、寝室ではなく必要のなくなった竹簡や書物を収めておく倉庫のような一角。

石造りに囲われた空間で、張遼は壁に向かわせられ、後ろから呂布の猛りを受け入れていた。


完全に剥かれた状態で抱き込まれるような体勢。
腹を内から焼かれる感覚に熱くなる身体は、ひんやりとした壁に触れると気持ちいい。

こめかみを押し付けるようにして寄り掛かり、荒い呼吸を静めようと試みるが、呂布はそれを許さない。

己で貫いたままの張遼を揺さぶり、わざと弱いところを掠めてくる。


「っ、……りょ、ふ…どの……んっ ぁ…」

「お前からあんな提案をするとは思わなかった。…相手をしていなかったわけでもないだろう?」


溜まっていたとは思えん、と張遼の熱をきゅっと握り、耳に顔を寄せてくる。


「それとも…俺を抱いてみたくなったか?」

「そっ…ようなこ、と……やっ…あぁっ!」


否定しようとするも、熱の先端に指を捩込まれて思うように言葉にできない。

がくがくと足が震え、まともに立っていられず荒くなるばかりの息遣い。


「嫌?云い出したのはお前だろう。誘われたようなものだ…」


一段低くなった声音に背筋に戦慄が走る。
崩れ落ちないように片手で後ろから抱きしめられ、掴んだ熱の先を冷たい壁にぐりっと押し付けられた。
温度差と刺激に跳ねる肩と同時に精を壁にたたき付ける。


「っ、あぁっ……は、ぅ…」

「勝ちは勝ちだ。……お前の身体、好きにさせてもらおう」














確かに。

賭けを持ち出したのは私だ。

しかしそれは、あの局を私の勝ちとして終わらせ、必ずもう一戦持ちかけてくるであろう呂布殿に敗因を学んでもらうため。


それが…


「…新ルールなど認めませぬ」

「なんだ張遼、拗ねているのか?」

「……。ふたつも同時に置かれれば誰でも負けましょう」

「…そうだな。賭けなどしなくとも、次はお前に主導権をくれてやる」


それならいいかと、まるでこちらの目的が呂布の上で自ら腰を使うことだったかのように訊ねてくる。


「わ、私はそのようなつもりで…」

「みなまで云うな、張遼。判っている。……だが、お前が相手だとどうもな…」

「いや、主導権は通例どおり呂布殿で構い…」

「そう遠慮するな。お前も男、考えることなど似たようなことだ。…今までよく耐えた」


……判っていないのはどちらだろう。

まあ、どうせ明日になったらこの話も反故にされるのだろうが。


張遼はひとつ諦観の溜息をつくと、置いて来てしまった陳宮のことがふと頭に浮かんだ。


「陳宮殿は……どう受け取ったのでしょうな」


身体を好きにする、という言葉を。

ちなみに現在も倉庫の壁に背を預ける呂布に後ろから抱かれる形で揃って座っている。
…未だ好きにされていた。


張遼の疑問に、呂布は当然と云わんばかりの顔で云い切った。


「どうもこうも…あいつのことだ。こういう意味だということくらい気付くだろう」

「しかし…まったく動じなかったとなると…」

「…固いことばかり考えるな、張遼」

「そ、そうは申されるが、気付かれているということは口止めでもし――」


言葉の途中で顎を掴まれ、無理矢理捻られると口付けられた。

しかしすぐに解放し、驚いて口をぱくつかせる張遼に意地の悪い微笑を向ける。


「お前の口も、塞がなければ固いことを云い続けるようだな」

「……賭けはいつまで有効で?」

「そうだな…、次の賭けまででどうだ」

「……。さては呂布殿、もう五目並べはしないおつもりですな?」

「ほぅ、よく判ったな」


言葉もないとはこのことだ。
いっそのこと、すべてをバラしてでも陳宮に対処してもらおうかと本気で考えてしまう。


「嫌が応でも新ルールなどなしでやらせてみせます。お覚悟を」

「ふん、やれるものならやってみろ。そのときはどんな内容だ?」


聞くだけ聞いてやろう、と抱きしめる腕に力を入れられる。


「私が勝ったら、今の状態を取り消し、人の話を最後まで聞くようにしていただ…っ!?りょ、呂布殿!!」

「なんだいきなり…」

「こ、こちらの台詞ですぞっ!」


唐突に舐められた首筋を手で覆い抗議の声を上げるが、当の呂布は何食わぬ顔で座りのいいように張遼を抱えなおし、ふぅと一息ついて落ち着いてしまっている。


…絶対やらせよう。
寝起きにでも説き伏せて、新ルールなしで五目並べを。

肩に顔をうずめ、いつ寝てもおかしくないほど穏やかな呼吸を繰り返す呂布。
しっかり抱きしめられて身動き出来ない状況に息苦しさを感じるはずが、張遼自身も存外ひと心地ついてしまっていることに自分で笑えてしまう。


少しばかり強引で、やけに子供じみたところもあるけれど。

武だけにではなく、呂布殿という御仁に私は惹かれているのかもしれぬな…


ひっそりと思い、下腹部に置かれていた呂布の大きな手に自分の手を重ねた。


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あきゅろす。
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