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無双小説
 七夕に願う・弐


大阪までの道程はそれほど長くはない。

早朝に三成は左近一人を連れて城を発ち、馬を駆って正午には無事到着した。


迎え出た者に馬を預けると、騒ぎを聞き付けたらしいねねが小走りで駆けてくるのが見え、二人はぺこりと頭を下げた。


「二人共よく来たねぇ!まだみんな集まってないから中でお茶でも飲んでてくれる?」


にこにこと嬉しそうに云うねねに、三成が周りに視線を巡らせながら訊ねた。


「秀吉様はどちらに?」

「うちの人は今準備中だよ。あたしも手伝わなくちゃ」

「人手が足りないようでしたら俺も手伝いますよ」


城主たる秀吉に雑用はさせられないと左近が気を遣わせると、左近は優しいねぇとねねは嬉しそうに破顔した。

しかしその笑顔に少しだけ悪戯の色が混ざる。


「ありがとね。でも今日はお客さんなんだから!いーい?お客さんらしくおとなしくしてないとダメだよ?」


人差し指を立てて片目を暝ってみせると、ねねはふわりと身を翻して庭園のほうに走って行ってしまう。
一度だけ振り返って、大広間に行くようにと大きく手を振りながら二人に告げた。


「…なんの準備でしょうねぇ」

「秀吉様が直々に手掛けなくてはならないものか。…勘繰っても仕方ない、行くぞ左近」


三成は左近の袖を軽く引くと大広間に向かった。

久々の大阪城は何も変わらない。
三成は、この城全体の雰囲気が好きだった。
秀吉の存在感が隅々にまで行き渡っている、暖かい雰囲気。

大きな笑い声などは、規律が厳しい他の城ではまず有り得ないだろう。
しかし此処は違う。
秀吉本人がざっくばらんな性格だからか、皆が暖かく普通に笑っていられる。


左近と共に大広間に入ると、そこにはすでに真田幸村が来ていた。

だだっ広い広間の中央には宴のような席が用意されており、なんとも幸村らしく末端から二番目にちょこんと正座している。


「早いな、幸村。まだ一人か?」

「三成殿に島殿!ええ、一番乗りみたいです」


所在なげにぼーっとしていた幸村は、こちらを見るなりぱっと表情を明るくした。

まだ膳は運ばれておらず、部屋にはやたらたくさんの膳台が並べ立てられている。


…何人呼ばれるおつもりなんだ?

左近は思い付く名前をひとつずつ挙げていく。

大谷殿や小西殿も来るとしても……あー、この分だとおそらく徳川の軍勢も来るな。


そう考えると、ちらりと三成に視線を投げた。
三成は大の家康嫌いなのだ。

本人の前では家康殿と呼んではいるが、決して目は見ないし左近の前では狸呼ばわり。
まぁ、兼続や幸村が傍にいれば問題はないと思うが。


と、そのとき新たな客人が大広間に訪れた。


「む!三成…こんなに早く来やがって…少しは秀吉様へのご迷惑を考えろ!」

「まったくだな。来て早々会いたくなかったわ」


加藤清正、福島正則だった。

しかし二人の厭味をきっぱり無視している三成に代わって、清正の秀吉への迷惑話に謝ったのは幸村だった。


「そうですよね…そこまで頭が回りませんでした。かたじけない…」

「さ、真田殿…?」「や、あの…」


申し訳なさそうに頭を下げる幸村に、逆に清正と正則が狼狽えてしまう。


「幸村、あんたいつ頃来たんだい?」


小さくなっている幸村に左近が訊ねると、幸村は小さく呟いた。


「遅れてはいけないと急いだのですが……今朝には着いてしまいました」

「……随分張り切ったな」


三成が若干呆れ気味に云うと、幸村はあははと苦笑した。


その後、秀吉の召集に遅れまいと徳川家康や本多忠勝、榊原康政、酒井忠次などに続き大谷吉継、小西行長の他にも島津義弘や立花ギン千代、伊達政宗と、左近の想像を遥かに上回る面々が勢揃いした。


日も傾き、侍女によりぞろぞろと膳が運ばれて餉の一時が始まった頃、直江兼続と前田慶次が共に顔を出し、日が沈む頃になって前田利家、雑賀孫市が現れた。

大広間は既にドンチャン騒ぎ。
皆それぞれ酒が入り、笑い声や称賛の声が絶えない中、豊臣秀吉とねねが漸く上座に訪れた。


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あきゅろす。
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