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キリリク小説。
「好きだから」の魔法の効果?〜ちーこさまリク☆〜@
※このお話は以前いただいたキリリク『好きだからは魔法の呪文?』の続編です。登場人物等に関しては、前作をお読み下さればもっとわかりやすいと思います。









あかん。もう無理。

末期や。

おーくん不足、末期。





「匠ぃー!ここにある空き教室のイスってもってっていーの?」

「古村くん。うちの材料まだ届かないよ」

「あ、いたいた匠。さっき鈴木センパイが探してたけど」



「・・・・・おー。いま行くわ」


あまりの虚しさに返事する声も自然と小さくなる。

文化祭を前日に控え、オレらの学校は全体的にバタバタしてた。

演劇とか展示とかいろんな出し物がある中で、ウチのクラスが選んだんは模擬店。

また面倒なモンを選んでくれた。

演劇なら、前日は出る役者と裏方が必死こいて練習すればええだけやし、展示なら作って設営するだけ。

ソレに比べて模擬店なんてもんは前日に設営、材料も届いて、学校中に店案内のポスターまで貼りに行かなあかん。ほんで当日は店から離れられん。

要は一番面倒。

しかもクラス全体で2つの店を受け持つことになって、クラス委員のオレと副委員のおーくんは一つずつ店を担当することになった。

そのせいで・・・

「あーもー!おーくん、どこにおんねん!」

俺はもう2日ほどおーくんとまともに喋ってない。

会っても「よお」とか「お疲れ」とか。

夜メールしてもすぐに「じゃ、またな。オヤスミ」なんて言って寝ようとするし。

オレ、もしかして愛されてないんかな・・・。

確かに最初は無理矢理っぽかったし、告ったその日に押し倒して結局2回もヤったし。

自分でも急ぎ過ぎたかなとか思ってたけど、その後はかなりイイ感じの付き合いができてたはず。

この何ヶ月間、彼氏まではいかんくても、親友以上?

たまに・・・めっちゃたまにやけどエッチもするし。恋人に近い感じがしてる。

でもそう思ってたんはオレだけなんかな。

ほんまはおーくん、仕方なしにオレに付き合ってくれてんのかな。

「匠!ちょっとコレ確認して!」

「・・・いま行く」

そんなこと考えてても陽はまた昇る。

とりあえず明日の文化祭は成功させな、おーくんにまで迷惑かけてまうし。

悶々としながらも、オレは明日の準備を再開した。









結局その日一日、オレはおーくんとすれ違いもできんかった。

メールしても電話しても「いまちょっと手が離せないから」って言われた。

昼休みもオレだけ実行委員の呼び出しくらって打ち合わせやったし。

こんなん嫌や。

せっかく勇気出しておーくんに告白できても、これやったら前となんも変わらん。

「・・・はぁ」

溜息が漏れる。

やけど、このまま落ち込んでてもしゃあない。

明日の文化祭、少しだけなら見て回る時間もあるかもしらんし。

「電話してみるか・・・」

リダイヤルを押すと、しばらく呼び出し音が続く。

もう寝たんかなと思ったとき、電話が繋がった。

『・・・ぁい』

・・・おーくん眠たそうな声。

やば。めっちゃ可愛い。

「悪い、オレ。起こした?」

『ぁ?ああ・・・古村?別にいいけど』

ゴソゴソと布の擦れる音がする。ベッドの上にいたんかな。

なんか・・・ベッドに寝てるおーくん想像しただけでいろんなトコロが元気になってきた。

って、あかんあかん!こんなんもおーくんに嫌われる原因のひとつやで自分!

気持ちを落ち着かせようと咳ばらいをすると、眠いのか、おーくんが不機嫌そうな声で言った。

『で?』

これ以上機嫌を損ねんように、慌てて用件を伝える。

「あ、大した用やないねんけど・・・あのな、明日ちょっとでええから一緒に回れへん?オレんとこはもう準備できたし、後は青木とかに任せとけば大丈夫やから」

そっちが忙しいんならオレも手伝うし、と慌てて付け加える。

おーくんが少しでも自由になるなら、ちょっとくらい余計に働かされても文句は言わん。

でもおーくんは電話口で沈黙してる。

「おーくん?やっぱダメそう?」

『・・・手伝わなくてもいい。俺んとこもたぶん朝のうちに準備終わるから。見て回るの、昼からでいいなら』

「えっ!」

心のどこかでもしかしたら断られるかもと思ってたオレは、飛び上がらんばかりに喜んだ。

「ええよええよ!なら昼からな!メールする!絶対空けといてな!?」

何度も何度も念を押し、さすがにコレはウザかったかと慌てて口を噤むと、電話越しに小さな笑い声が聞こえた。

『喜びすぎだろ』

久しぶりに聞いた笑い声。

なんやめっちゃ愛しくて、今おーくんの隣にいない自分に死ぬほど腹が立った。

抱きしめたい。

ぎゅってして、キスして、一緒に笑いたい。

おーくんとこういう関係になるのを望んだんはオレ。

でもおーくんを知るたびに、おーくんに会うたびに、どんどん余裕がなくなってく自分を見られたくないとも思う気持ちが強くなる。

「・・・ほな、明日な。おやすみ」

『うん。オヤスミ』

その夜、いつまでも頭の奥に残るおーくんの声で、オレは何度も何度も自分を慰めた。











「匠ーぃ!」

「古村!こっち来て立っとけ!」

「あ、いたいた。うちの店に遊びに来いよ、30分でいいから。お前の分タダにしてやる」

あちこちからかけられる声に、オレは必死に頭を下げて謝る。

「すんません。オレいま忙しいんで」

人の波をかき分け、店を出している先輩や同級生をうまくかわしながら、おーくんとの待ち合わせの場所に向かった。

『2時過ぎに用具倉庫の前で待ち合わせな』

そのメールが届いたのが2時前。

その時オレは、学校の一番端にある用具倉庫から一番遠い場所にいた。

そうじゃなくても大変。

一般人も他校生も、そしてもちろん隣の女子高の生徒もわんさか集まったこの学校で、道行く人と目が合っては呼び止められる。

店に客が入るようにウチのクラスに遊びに来い、とか。

オレに会いにこの文化祭に来たから今から一緒に回ろう、とか。

オレはマスコットか。誰にでも愛想振りまくキャラクターちゃうねんぞ。

おーくんを待たせたくないっていう焦る気持ちがオレをイラつかせる。

いつもならこれくらい笑ってかわせるのに、今日は返事するだけでも精一杯やった。

「あ!いたいた匠くぅん!」

一際黄色い声が背後から聞こえて、今度こそ聞こえないフリをした。

その声には聞き覚えがある。

隣の女子高の3年、眉村美佐。

オレが転校してきた次の日にウチの学校の前で待ち伏せされて、ちょっと話しただけで『自分は古村匠のカノジョ』って触れまわってる。

オレは転校初日からおーくんにゾッコンで、あんな女まったく眼中にないのに。

一度捕まったら終わりと思った俺は一生懸命その女から離れようと先を急いだ。

しかし。

「もう!ミサの声聞こえないの!?」

長い爪が制服の上から食い込んで、その痛みに眉をひそめる。

加減を知らんのか。

「あ、眉村先輩。どうも」

仕方なしに挨拶したら、向こうはどうも気に入らんかったらしい。

「もう、ミサって呼んでよー。チョー他人っぽいじゃん」

ぽい、っていうより他人やけど。めちゃくちゃ。

「すんませんミサ先輩。ほんならオレ行きます。いま急いでるんで」

オレがいつまでもいい人や思うなよ。

ヒドイなんて言われたかて、俺にはおーくんのほうが大事やねんから。

軽く振り払った手を眉村先輩は腹立たしげに叩いた。

「なんか今日の匠くんおかしい。せっかく来てあげたのに!」

頼んでへんわ。

呆れてものも言えないオレは、胸ポケットのケータイを取り出した。

もう待ち合わせの時間から20分も過ぎてる。

これ以上待たせたら本気でおーくんが怒る。

「いや。だからオレ急いで・・・」

強制的に話を打ち切り、眉村先輩を振り切ろうと身体を捻ったそのとき。

「・・・おーくん」

視界の端に、会いたくて会いたくて仕方なかった人の顔が飛び込んできた。

おーくんはオレに気づかんと、隣の誰かと話してる。

もう一度呼びかけようと息を吸った瞬間、おーくんの腕に細い指が絡みついてるのが目に入った。

ちょうど一瞬人混みが途切れ、2人の姿がはっきり見えるようになる。

おーくんと、その腕をとってんのは・・・あの、妹や。

里緒とかいう、おーくんの義理の妹。

全然赤の他人のくせに、おーくんと一緒に暮らしてるめちゃくちゃ美人な女の子。

サラッサラの長い黒髪をなびかせて、嬉しそうにキラキラした笑顔でおーくんを見上げてる。

オレと同じ、好きで好きでしゃーないっていう目で。

「なんやアレ・・・」

オレと一緒に回るって言った。

オレのこと好きかもって、最初に抱いたとき言った。

オレの。

オレの、モンやのに。

「おーくんッ!」

その場にいる全員が振り向くほど、オレは力の限り大声で叫んだ。

驚いた眉村先輩を押し退け、やっぱり驚いた顔でこっちを見てるおーくんに駆け寄る。

「お、古村。よかった手間省けて」

オレが怒ってんのに気づいてないおーくんは、にこにこと義妹の掴んでいない方の手を挙げる。

隣で義妹が無邪気に綺麗な目を輝かせた。

「なになにお兄ちゃん!こんなカッコイイ人と友達なの?」

ウソつけ。オレのことなんか見てへんくせに。

お前が好きなんはその兄貴やろ。

そう詰め寄ってやりたかったが、さすがにこの場では言えん。

妹の、『友達』という言葉におーくんは曖昧に頷いた。

「え?あ、ああ。まぁな」

確かに堂々と『カレシ』なんて言える関係やないけど、ちょっと傷つくわ。

それ以前にカレシや思てるのはオレだけかもしれんけど。

「匠く・・・」

いつの間にか追いついてきた眉村先輩が、俺たち3人を見てムッと眉を吊り上げる。
特に、おーくんの妹を見て。

おーくんの妹は眉村先輩と同じ女子高に通ってる。

これだけ美人なら3年の眉村先輩にも噂は届いてるに違いない。顔だけは明らかに妹の勝ちやしな。面白くないのも頷ける。

「あ、眉村先輩・・・こんにちは」

妹のほうも目立つ眉村先輩のことは知ってるのか、ちょこっと頭を下げておーくんの後ろに隠れた。

そんな可愛らしい仕草が通用するんはそこらの男にだけやで、妹。

それよりも、これ以上ここにおったらまたややこしなる気がする。

オレは誰よりも早く先手を打った。

最初の目的通り、おーくんと2人だけの時間を作るために。

「妹さん、里緒ちゃん言うたっけ?悪いねんけど兄貴もらうわ」

有無を言わさず、おーくんの腕をとる。

驚いた兄妹が揃って目を点にした。

「おい、古村・・・!」

「ちょっと匠くん!?」

「先輩、俺ら今から仕事あるんで。ほら行くで、おーくん」

「でも・・・」

妹を置いていくことにためらいがあるのか、なかなかその場を動こうとしない。

でもいい加減、俺も限界やねん。

「おーくん」

もう一度、ゆっくりと名前を呼ぶ。

「・・・っ」

オレの必死の想いが伝わったのか、おーくんは顔を真っ赤にして俯いた。

力の抜けた腕を引っ張ると、隣に立っていた妹に力なく説明を始める。

「あのさ里緒、悪い。明日は午前中時間とれると思うから。そん時一緒に回ろう」

「・・・ぁ、うん」

兄貴にそう言われたら返す言葉もないのか、妹は笑顔で頷いた。

「気にしないで。頑張ってね」

「えー匠くぅん」

ねっとりした声で呼びかけてくる先輩を愛想笑いでかわし、おーくんの手を引っ張って歩き出す。

ぶつからんように、でも急ぎ足で人混みをすり抜け、オレは一番奥の校舎に向かった。

「おい、古村。どこ行くんだよ」

後ろから不安そうな声が聞こえる。

それもそのはず。

オレが入ろうとしている南校舎は、今日一日生徒も客も立ち入り禁止になってる場所。

つまり、誰もおらんトコ。

「怒られるって!」

副委員をしていたおーくんもその校舎が今日は立ち入り禁止になってんのを知ってる。

だから慌ててオレを止めようとした。

本当は、怒られるんが怖いんやない。

これからオレに何されるかわかってて、それが怖いんや。

それがわかってて、オレはわざと強い口調で言った。

「2人きりになりたい」

一瞬おーくんが息を呑んだ。

「っ、今日は文化祭見て回る約束だろ!?」

「うろうろしてたらまた誰かに捕まる」

それ以上はなにも言わさない、と腕を押えこんだまま、規制テープをくぐって扉を開く。

テープを引き上げておーくんを中に入れると、オレは滑り込むように後を追って校舎に入った。

シンと冷たい廊下が、ここにはいまオレとおーくんだけしかいないことを教えてくれる。

もう一時も我慢がきかず、ぐいぐいとおーくんの手を引いて階段を上がった。

目指すは2階の一番奥の部屋。普段は物置になってる場所。

2階の廊下も早足で進んで、一番奥の扉を開ける。

埃っぽいそこには鍵はかかってない。戸惑ったままのおーくんを部屋に押し込み、スライド式の扉は近くにあったモップをつっかえ棒にした。

これで外からは簡単には開かんはず。

「古村」

不安そうな声を出して立ち竦むおーくん。

いつもは見てるだけで心が和むような顔が可愛らしく赤らんで、目がどんどん潤んできてる。

おーくんも、興奮してるんかな・・・

そんなん見たらもう、我慢でけへん。

「おーくん」

誰にも邪魔されず、やっとオレだけ見てくれた嬉しさに、思わず力一杯抱きしめた。

「ばっ、く、苦しい!」

バンバンと痛いほど肩を叩かれ、もう半ば意地になってそのまま床に押し倒した。

「待てよ!急にッ・・・!」

「足らんねん、全然。おーくん・・・めっちゃ触りたい。好きや」

アホみたいにハァハァ荒くなる息。

オレの下でおーくんがピタッと動きを止めた。

その目がものすごい速度で泳いでる。

「・・・どないしてん」

あまりの挙動不審ぶりに、さすがのオレも少し冷静になってきた。

「最近おかしいで。急にオレのこと避けたり・・・もう嫌いになった?」

そうやったらどないしようって思いながらも、聞かずにはいられんかった。

すると突然。

かぁぁぁぁっと、一気におーくんの顔が燃えた。

「えっ!ちょ、なんで!?どっか悪いんか!?」

押し倒したときに頭でも打ったのかと慌てて身体を離す。

後頭部に手をやると、特にコブはできてない。

でもその顔色は尋常やない。

「保健室!保健室行こ!」

立ち上がらせようと腕を掴む。

しかしその手はおーくんに振り払われた。

「違うんだよこのアホッ!どこも悪くない!」

「でも顔色が、」

恐ろしいくらい真っ赤になった顔を腕で覆い、それでも立ち上がろうとはしない。

なにか言いたいのか、ぷるぷると戦慄く唇に耳を寄せた。


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