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キリリク小説。
ヨダシノ1ランチタイムは貴方と★〜乃太さまリク☆〜
シノと夜鷹が揃って青海ヶ坂に入学したての頃。




頭上から照りつける太陽が憎い。

加えてコンクリートが反射する熱に辟易しながら、シノはごろりと寝返りを打った。

小さな小石がジャリ、と音をたてて転がる。

その小石を見つめながら、深い溜息。

「・・・腹減った」

高校生になってもシノのサボり癖はなかなかおさまらず、何故か高校に入って突然優等生の仮面をかぶり始めた夜鷹の目をかいくぐっては、こうして屋上でまったりと日向ぼっこしていた。

どことなく黄色い空気の中にくっきりと浮かび上がる白い髪が風に煽られ、眩しさに目を閉じたところで午前の授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。

籠った音が校舎に鳴り響き、しばらくして屋上の錆びたドアが開いた。

「シノ」

中学を卒業する前に知り合った、今ではすっかり聞き慣れた声に呼びかけられ、もう一度寝返りを打って振り返る。

「おー」

ひょいと片手を上げて返事をすると、声をかけてきた方の少年は複雑な表情をした。

「おー、じゃありませんよ。4限の始まりにはいたのに、一体いつの間にいなくなったんですか」

「おめーがプリント取りに行ってる間」

その外面の良さからか、いろいろな雑事を頼まれることの多い相棒は、今日も授業が始まってすぐ、教師が職員室に忘れたプリントを取りに行かされていた。

その隙をついてシノは堂々と教室を出たのだ。

見かけも言葉遣いも態度も、どう贔屓目に見てもヤンキーであるシノの言動に口を出す教師は少ない。

この伝統ある青海ヶ坂高校にこのような人種がいる時点で、裏でなにかしらの操作が行われていることを察しているのだろう。

「授業はできるだけ受けてください。融通が効くのは入学までなんですから」

夜鷹の珍しく真面目な表情に、シノはひらひらと手を振った。

「へーへー。それより腹減った。購買行こうぜ」

「今から行っても、もうなにもありませんよ。そういえば、シノはいつも昼飯はパンですね。弁当持ってこないんですか?」

シノの母、あやめなら弁当のひとつくらい持たせそうなものだが、夜鷹は彼が弁当らしきものを広げているのを見たことがなかった。

「あー。アネキたちのは作ってっけど。俺はオコトワリ。昼まであのババアの不味いメシ食えるか」

「そうですか?あやめさんの料理はかなりうまい方だと思いますけど」

本当は味の問題ではないのだろう、と苦笑する。

シノはただ素直に弁当をもってくるのが嫌なだけだと、夜鷹にもわかっていた。

「でも、それなら丁度いい」

ひょい、と夜鷹が掲げた手の先には、濃い紫色の風呂敷。

何やら大きな四角い物を包んでいるらしく、けっこうな重さがありそうだった。

「なんだそれ」

「弁当です。こんなクソ重いものいらないって言ったんですけど、今日は無理矢理持たされちゃって。食べてくれません?」

「お前は喰わねぇの?」

「シノが半分食べてくれるなら。多いんですよ、中身が」

「ふぅん」

空腹にもそろそろ耐えきれなくなっていたシノは、その大風呂敷を興味深そうに眺める。

「お前んちってアレだろ?すげーメシ作んの上手いメイドがいるって」

「メイドじゃないです。雑用係です。俺の趣味が疑われるじゃないですか」

いそいそと風呂敷をシノの前に置き、硬く結んだ結び目をするりと解く。

中から現れた漆塗りの重箱に、シノは口笛を吹いた。

「ほんかくてきー。あ。そーいえば俺一回も見たことねぇけど、ソイツ」

「当たり前でしょう。夜まで家にいられたら迷惑です」

眉根を寄せ、螺鈿の埋め込まれた蓋を開ける。

「おお!すげぇ!」

「そうですか?たいしたことないと思いますけど」

重箱の中には和食を中心とした惣菜がぎっしりと詰められていた。

二段目には錦糸卵を添えた鶏そぼろ飯が敷き詰められているが、どう見ても一人分ではない。

シノはさっそく夜鷹から箸を奪い、一直線に厚焼き卵を目指す。

厚焼き卵はシノの隠れた大好物だった。

黄金色の卵は細かい層がいくつも重なり、時間をかけてじっくり作られたものだとわかる。

毎朝きちんと鰹節と昆布からとる出汁がよく効いていて、ほどよく甘く、シノは思わず感嘆のため息を漏らす。

「うま!」

「それはよかった。全部食べていいですよ、卵」

「おー」

ホクホク顔で弁当を厚焼き卵を頬張るシノに、夜鷹も思わず笑みが漏れる。

これほど美味しそうに何かを食べるシノは見たことがなかった。

定番の煮物から、鰤の照り焼き、擂りゴマ入りの味噌ダレで和えた茹でインゲンまで一通り箸をつけ、鶏そぼろを半分食べるとようやく満足したのか、シノは夜鷹に箸を渡す。

「あーウマかった。お前んトコのメイドすげぇな」

「雑用係です」

よっぽど感動したのか、すげぇすげぇと繰り返す。

それを満足気に聞いていた夜鷹だったが、次のシノの言葉に顔を引き攣らせた。

「今度メシ作ってもらお。遊び行ってもいいだろ?こんなすげぇメシ作るヤツに会ってみてぇ」

「・・・・・それはダメです」

夜鷹の答えにシノが不満そうに眉をひそめる。

「いいじゃねぇかよケチ。あ、アレか?実はそのメイドがチョー美人で、俺に紹介すんのがもったいないって?」

「んなわけないでしょう。気色悪いこと言わないでください」

思わずあの雑用係がメイド服を着た姿を想像し、夜鷹は身震いする。

別に、その人物が料理人上がりの男であると言ってしまえば簡単なのだが、そうも言えない事情があった。

もし男だと知ったらシノは間違いなく彼に会いに行くだろう。

しかしあの雑用係は・・・真性のゲイだ。しかもバリタチ。

以前いた店では従業員の男の子を片っ端から喰い、捨て、それがオーナーにバレて追放されたという経歴を持つ。

夜鷹の父親が彼を雇った際、そんな過去は当然伏せられていた。

夜鷹が彼の性癖に気づいたのは偶然で、その他の家族はまだ誰も気づいていない。

ちなみにまだ中学に上がりたての夜鷹に男同士のセックスのノウハウを教えたのはその雑用係であったが、一応遠慮があるのか、夜鷹自身は一度も手を出されたことはなかった。

襲われたとしたら、二度と世間を歩けない顔にしてやるところだったが。

だがシノと夜鷹は違う。

家族でも雇い主の息子でもないシノがひとたび顔を出そうものなら、ソッコーでヤられる。

まさか黙って掘られることはないだろうが、シノのことだ。そういうコトに流されやすいのは重々承知していた。

それを恐れて、あの雑用係がいる時間帯は一度もシノを家に上げたことはなかった。

良くも悪くも夜鷹にとっては兄のような存在であり、今日の弁当もその彼に無理矢理持たされたものだ。

「とにかく。会うのはダメです。味は良かったとは伝えておきますけど」

「んだよソレ。まぁいいや」

まだ不満の残る顔でシノがごろりと横になる。

夜鷹も弁当の残りに箸をつけた。

「それはともかく。気に入ったんならこれからも持ってきましょうか、弁当。明日からも喜んで作ると思いますよ」

「マジ?頼む!」

「その代わり、毎日学校には来てもらいますからね」

「・・・交換条件かよ。汚ねェぞ」

ムッと唇を尖らすが、その目には真剣に怒ってる様子はない。

それほどまでにこの弁当がお気に入り、というわけらしい。

「昼までに来なかったら、もう弁当なんて持ってきませんから」

そう言うとシノは目を閉じてしまったが、特に反論はないらしい。

勝った、と内心ガッツポーズをとる。

これでしばらくはシノも学校に来るようになるだろう。

使いたくもない敬語を使い、あのクソムカつくオヤジに頭を下げてまでシノを学校に入れた甲斐があったというものだ。

「あー・・・いい天気ですね」

「そだな。暑いけど」

素っ気なくだが返ってきた返事に、ホッと心が温まる。

たかが弁当ひとつで毎日こうして穏やかな日々が過ごせるのなら、あのどうしようもない雑用係にだって「お願い」できる気がした。

『おや、ぼっちゃん。珍しいね、俺に頼みごとなんて・・・え?料理を教えてくれ?別にいいわよー。それくらいいくらでも教えちゃうわよー。その代りどう?俺と一晩・・・・・・ウソ!殴らないでっ!』

その時の情景がありありと目に浮かび、ボソッと呟く。

「うわ、めっちゃムカつく」

「あ?なんか言ったか?」

「いえ、別に」

煮物の中から色鮮やかな人参を摘み、夜鷹はあの男にだけはシノを会わせまいと固く心に誓ったのだった。




それから毎日。弁当の中身が一品ずつ、夜鷹の作ったものに変わっていっていることにシノは気づいていない。

特にシノの大好物である厚焼き卵が、すでに雑用係の腕をも凌ぐ味になっていることも。

「あー。やっぱうめぇなお前んトコのメシ」

「それはよかった。どんどん食べてくださいね」

ランチタイムがくるたびに、夜鷹はひっそりとほくそ笑むのだった。

やっぱ男をオトすには胃袋からだな、と。











<あとがき。>
乃太さまリク『シノが初めてヨダの弁当を食べたときのエピソード』でした!ストーリー的には宮伏家の味に触れ、夜鷹の弁当を食べるきっかけになった・・・といった感じになってしまいましたが(汗)
乃太さま、いかがでしたでしょうか・・・!
リクエストいただけたからこそ書けるエピソード、と言ってしまいましたが、意外と本篇にも挿しこめそうな話になってしまいました(笑)
ヨダ公の家の雑用係(名前もまだない)もちょっとお気に入りです(笑)いつか本篇に入れてあげたい・・・とか思ったりしちゃいました☆

少し短めですが、受け取っていただければ幸いです!
リクエストありがとうございました★



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