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キリリク小説。
健多くんの苦難の日々10A
「怖いか・・・?」

囁く言葉に、息をするのさえ忘れて小さく頷く。

緊張で乾いた喉の奥が引き攣れ、咳が喉を突いて出た。

咳でカラダが揺れるたび、鳴人を嵌めこまれた奥がビリビリと痺れる。

まるで、そこに刃物を埋め込まれているかのように、背筋が強張った。

一瞬優しさを取り戻した手が、背中を撫でてくる。

初めての温かい触れ合いに、胸が高鳴ってしまうのはどうしようもない。

鳴人の目が細められ、なにかを堪えるように苦しげに歪んだ。

「こうしてこのままずっとお前を縫い止められたらな・・・標本箱の蝶みたいに・・・どこにも飛んでいかないように」

その囁きが降ってきた途端、こめかみから首筋から、全身に鳥肌が立った。

「ぁ、あっ・・・!」

鈍い痛みを伴った場所がズクズクと脈打ち始め、自然と腰が揺れ始める。

鳴人の言葉が胸を、頭を、カラダを犯す。

おかしい、こんなの。でも。

・・・嬉しい。嬉しくて、泣きそう。

「なるひと・・・うごい、て」

鳴人の目が驚きに彩られる。唇が宙をさまよう。

そんな姿さえ僕を興奮させて。

もう我慢できない。

全部奪ってほしい。狂ってもいい。

狂って、しまいたい。

「してッ・・・ぜんぶ、ほしい・・・!」

鳴人の目が、一瞬キツく結ばれた。

歯を食いしばり、僕のカラダに爪を立てる。

「動くぞ」

低い唸り声とともに、注挿が開始される。

最初はゆっくり、次第に深くなって。

「あッ、ああッ、ひ、ぁあッ!!」

ギシギシと潤いのない場所が摩擦され、焼けるような痛みが走る。

それも鳴人のモノが潤えば、だんだんと滑りを帯びてスムーズになる。

少しずつ痛みよりも快感が勝ってきて、白く塗りつぶされていく意識の中で快感だけを探そうと必死になった。

ときどき鳴人の手が僕の萎えたペニスを愛撫して、気持ちよさにカラダの奥が蕩けて行く。

奥が濡れてしまうと、あとはただ黙って抱かれるしかなかった。

「ひ、ひッ、あ、あんッ、な、なぅッ・・・!」

呂律の回らなくなった舌が、もどかしく鳴人の名前を紡ぐ。

いくら呼んでも、いくら泣いても鳴人は応えてくれない。

感じる内側のしこりを転がされ、いったい自分がなにをしているのかさえわからないほど脳味噌がぐちゃぐちゃに溶けた。

怖いくらい真っ白。

「あ、あ、ん、や、ぁうッ・・・ぁッ!!」

髪を振り乱して、鳴人の腕に縋りながら射精。

それを何度も何度も繰り返した。

最後の方にはもう出すものも残ってなくて、ただ怖くて。

このまま壊れてしまうんじゃないかと思った時、ふと鳴人の動きが止まった。

支える腕を失って、精液でまみれた僕のカラダがベッドに倒れこむ。

指一本動かせず、もう鳴人を抱きしめる力もなかった。

はーっ、はーっ、と獣のような吐息が聞こえる。

それが鳴人の唇から漏れる音だなんて、信じられないくらい激しくて。

見下ろしてくる目は、心なしか濡れているようにも見える。

するり、と自然に首に指が絡まってきたとき、僕はもうなにも感じなかった。

鳴人の熱い親指が僕の小さな喉仏を擦り、細い人差し指がうなじを撫でる。

まるで愛撫のような心地よさに、僕はうっとりと目を閉じた。

ああ・・・それもいいかもしれない。

この目に最期に映るのが鳴人なら。

最期にこのカラダの中にいるのが鳴人なら。

「ぅ・・・」

ゆっくりと、確実に命の道が絞められていく。

じんわり頭の中心が痺れてきて、鼻の奥がツンと痛んだ。

苦しさが増して腰を浮かすと、鳴人を受け入れている場所が引き絞られる。大きな塊がさらに前立腺を押し上げて、ぎりぎりの快感が溢れてくる。

「あッ・・・あ、んッ・・・ふぅッ!」

絞めつけられる甘さは鳴人にも伝わって、中のモノがまた大きくなった。

くちゅ、くちゅ・・・と小さく鳴人が腰を突き上げ始める。

「ん、ん、んっ、ぁ」

気道が塞がれているからか、僕の唇からは変な喘ぎ声しか出てこない。

それでも頭の中がぼーっとしてきて、いまこうして抱かれている場所だけがすべてのように感じられて。

たとえそれがまやかしだとしても、気持ちよくてたまらない。

「な・・・ひ、と・・・キ・・・て」

途切れ途切れの声が届いたのかはわからない。

でも鳴人は僕の奥を緩やかに突き上げながら、深いキスをくれた。

ただでさえ通らない息が塞がれて苦しいけど、自分のすべてが鳴人の手の中だと思うとそれすら嬉しい。

舌を絡めあい、少ない息を奪い合いながら口づけを交わす。

最後には酸素がなくなって、肺がドンドンと心臓の音に合わせて痛みだした。

「ぁッ・・・げほっ・・・はぁッ・・・!」

宙をさまよう僕の手が鳴人の肩に爪を立てる。

瞼の裏が痛みだし、涙がこぼれた。

朦朧とした意識の中で、鳴人の悲痛な囁きが届く。

「俺の傍から離れるな、健多・・・!」

絞り出すようなその声は、激しくなった注挿で生まれる愉悦にかき消される。

全身が痺れて痛いのに、その言葉だけは僕を温かく甘く満たしていった。

意識が途切れる寸前。

鳴人の腕の中できつく抱きしめられ、耳元に何度も何度も、謝る声を聞いた。

いいよ。嬉しい。

そう言ってあげたかったのに、僕の声は潰れてしまっていて、鳴人の名前さえ呼べなかった。







目が覚めたのは夜が明けてからだった。

昨日僕が出したものと、鳴人が注いだもの。

2つが混じり合ってシーツが汚れている。

あれだけ中に出されたのに、僕のカラダは綺麗に拭かれていた。それが鳴人の優しさだと思うと、ごろりと胸の中に居座る重たい石のような蟠りが小さくなる。

寝室に鳴人の姿はない。

カラダが重くて、腰が抜けているのか起き上がることすらできない。

「鳴人・・・鳴人・・・!」

ベッドの上から名前を呼ぶ。

寝室は扉一枚でリビングと繋がっているから、大きな声で呼べば向こうに届くはずだった。

なのに、何も返ってこない。

僕を置いていったわけじゃないと思う。そう、思いたい。

少なくとも僕の知ってる鳴人は、僕をこんな姿のままで放っておくような男じゃない。

もし鳴人が、僕の知ってる鳴人のままなら。

いくら呼んでも姿を現さないことに痺れを切らし、僕は必死に立ち上がろうとした。

這うようにベッドの上を移動し、途中で力尽きて倒れる。

あまりの情けなさに、枯れたはずの涙もこぼれてきた。

「ご・・・め、なさ・・・!」

不安にさせて。大丈夫って言ってあげられなくて。

あんなことをした後悔と自分を責める気持ちで、僕の顔すら見れないんだろうあの人を抱きしめることもできない。

うわ言のように呟き続け、鳴人の名前も無意識にこぼれるようになった頃。

ようやく、寝室の扉が開いた。

「鳴人!」

一日でずいぶんやつれてしまったように感じるその顔を、僕は倒れたまま見上げる。

僕の姿に、鳴人は痛みをこらえるように目を閉じた。

必死に手を伸ばす。届かないとわかっていながら。

ベッドから降りようと膝に力を込めて、立ち上がりかけたところで倒れた。

落ちる。

衝撃に備えて強張らせたカラダが、温かいものに触れてしっかりと受け止められる。

僕を受け止めたのは、走り寄ってきた鳴人だった。

「・・・大丈夫か?」

気遣うようなその言葉が嬉しくて、微笑む。

カラダの痛みなんてどこかに飛んで行ってしまいそう。

ベッドの上に戻され、やっとまともに言葉を交わせるような気がした。

もうどこにも行かないように、その腕にしがみつく。

ちゃんと言わないと。またこの人は不安になってしまうから。

「僕は、」

「夢を見た」

僕の言葉を遮り、鳴人が低く呟いた。

「・・・・・夢?」

「お前が、俺の目の前から消える夢。朝からずっと不安が消えなかった。それで・・・あのパンフレットを見たとき、我慢できなくなって」

僕が鳴人のところから去っていく光景が、頭の中を支配したんだろう。

それで、あんなことを。

「・・・逃げたいなら逃げろ」

腕を引き剥がすように、遠ざけられる。

突然の言葉に、自分でも顔が強張るのがわかった。

鳴人は俯いて目をそらす。

僕の顔を見ないように、単調に、早口で言った。

「選べよ。俺から離れて一生顔も見れないくらい遠くに行くか。それとも・・・俺と一緒にここで腐るか」

ずっと2人で。

誰にも邪魔されずに生きていけたらどんなに幸せだろう。

人の目も気にしないで、2人きりで。

それはたぶん一番安全な方法。でもそれと同じくらい、絶対にやってはいけないことだ。

知ってるから。

鳴人が僕と出会うまでにどんな想いをしてきたのか。鳴人にとって、人を好きになるってことが、どれほど強い意味を持っているか。

大学に通う少しの間離れるなんて軽い話じゃなかった。

鳴人は、怖がってる。

一度掴んだ手を振り払われることを、何より恐れる人だから。

でも、閉ざされた空間で人は人を愛し続けることはできない。

いろんな世界を知って、それで初めて隣にいる人を愛おしいと思えるはずだ。

傍にいる。隣にいるから、一緒に世界を生きていこう。

「鳴人」

冷たい手に自分の手を重ねて握り締めた。

一緒にいるって言っても、きっと信じてくれない。

泣いたって、心のどこかで別れがくることを怖がり続けるだろう。

だから、僕は僕らしく、この気持ちを伝えてあげよう。

本当は叫びたかったけど。それもぐっと堪えて、俯いた鳴人の顔を覗き込む。

動揺に泳ぐ瞳をまっすぐ捉えて、今の僕にできる精一杯明るい声で言った。

「僕は・・・鳴人が思ってるよりずっと、鳴人のことが好きだよ」

ピクリ、と肩が震える。

その肩を抱きしめて、僕は続けた。

「どこにも行かない。行きたくない。もし遠くに行くことになっても、その時は鳴人がついてくればいいよ。鳴人の『好き』はそんなこともできない程度なわけ?」

片方に足枷があるなら、もう片方が歩み寄ればいい。

それが一緒に生きていくってことだと思うから。

伏せられていた目が僕を見据える。

そして、ふわりと崩れた。

「・・・は」

初めて、鳴人が心の底から笑った。

嬉しくなって僕も一緒に笑う。

大きな手が僕の頭を撫で、髪を梳いた。

「お前、頭いいな」

からかうような口調がいつもどおりの鳴人で、痛みに疼くいろんな場所が溶けるように癒されていく。

「鳴人の頭が固いんだよ。ちょっとは見直したわけ?」

「・・・・・・惚れ直した」

耳朶を軽く噛まれて、眠っていた気持よさが目を覚ますけど。

「水」

カラカラの喉を潤さないと、もうまともに喋る事も出来ない。

軽く咳きこみながら降ってくるキスをかわして立ち上がろうとする。

「持ってくる。寝てろ」

「ん」

やんわりと押し戻されて、気の抜けたカラダがベッドに沈んだ。

しばらくして小さなペットボトルを持った鳴人が寝室に入ってくる。

上体を起こそうと肘をついたら、肩を押さえられてまた倒れた。

「飲ませてやる」

ボトルの水を口いっぱいに含んで、それを口移しで与えられる。

一緒に入ってきた舌に中をかき回されて、ほとんどの水が口の端からシーツへこぼれた。

「も・・・ちゃんと飲め、ない」

文句を言ってやったのに、鳴人はボトルの中身が全部なくなるまで、キスで水を流しこんだ。

びしょびしょになったベッドの上で、いったい誰がこのマットを外に干すんだろうと思いながらも、僕と鳴人の唇から微笑みが途切れることはなかった。

広い背中を抱きしめながら誓う。

絶対に離れていかないから、安心しろよ。

世界の果てまで鳴人に追いかけられるのも、それはそれでいいかもしれないけど。












<あとがき。>

みょーさま!50万hitありがとうございます!
リクエスト、『狂愛』でございました!いかがでしたでしょうか・・・ドキドキ。

途中までは「なにこの変態!?ひどい!」と思いながら書いていましたが、そのうち健多もノリノリ(?)になってきて、しまいにはヤンデレになってしまいました(笑)
いや〜。愛の力っていうのは恐ろしい。盲目ですね(笑)

こんな50万hit御礼ですが、よろしければもらってやってください!
とても楽しく書かせていただきました。ありがとうございます!
お粗末さまでした★


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