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キリリク小説。
狂愛A
そして、その日は唐突にやってきた。

ドォンッ!!

「・・・ッ!?」

唯一外界と繋がれた小さな鉄格子。

そのすぐ向こうで大きな破裂音が聞こえ、リューンは飛び起きた。

天井からパラパラとつぶれが落ち、肩や頭へと降り注ぐ。

この牢が潰れてしまえば自分などひとたまりもない。

いったい外で何が起こっているのか。

リューンにはひとつだけ心当たりがあった。

国軍がこの近くに来ている。この近くで戦闘がおこなわれているのだ。

ここから出るなら、今しかない。

リューンは重い手足を引きずって立ち上がった。

兵士の怒号や銃の炸裂音はすぐそこまできている。

小窓の近くで叫び声をあげれば誰かには気づいてもらえるかもしれない。

しかし問題はどうやって小窓の下まで行くかだ。

鎖はそこまでは伸びないし、もし外が見えない状態で叫び声を上げれば革命軍に見つかってしまうことになる。

どうする。どうすればいい。

焦りだけがリューンの頭の中を駆け巡り、牢の扉が開いたことすら気付けなかった。

「なにをなさってるんです」

ハッと振り返り、見えたシヴァの姿にぎくりと身体を震わす。

「シヴァ・・・」

「そのようなところにいては流れ弾に当たってしまう。さあ、」

立ちすくむリューンのやせ細った手首をシヴァが掴んだ。

触れた肌の冷たさに思わずリューンはその手を振り払ってしまう。

「さわるなッ!」

パシン、と乾いた音が響く。

シヴァの氷の瞳がすっと細められた。

「もうすぐ国軍がこの牢を発見するはずだ」

「・・・でしょうね。貴方は助かる」

あっさりと肯定したシヴァに、リューンは驚きを隠せなかった。

「その時はお前も終わりだぞ!?俺を人質にするなり、なにか考えているんだろう!」

少なくとも次期皇帝を人質にすればシヴァだけでも国外には逃れられるだろう。

この牢から出られるというかすかな期待と、シヴァの考えが読めないという苛立ちからリューンはさらに叫ぶ。

「早く逃げ、」

「無駄です」

低い声がリューンの言葉を遮った。

「・・・無駄?」

呟く言葉にシヴァが頷く。

「この場所を国軍に密告したのは、私です」

「なッ・・・!?」

意味がわからない。

そんなことをすれば自分も殺されるだけだというのに。

「なぜ、そんな・・・」

リューンの脳裏に、射殺され地面に頽れるシヴァの姿がよぎる。

「――――――――――だ」

そんなのは、絶対に。

「だ、めだ・・・だめだ、そんなの、絶対に、お前が・・・死ぬなんて・・・!」

いつも隣りにいた人。

愛する人。

あれほど手ひどく扱われ、犯され、蔑まれ。

それでも心のどこかで赦してしまう自分がいた。

いつも憎しみと愛情とがない交ぜになって、憎悪の言葉をぶつけ続けなければ気が狂ってしまいそうだった。

「だめだ・・・!!」

自分を何度も抱いた腕に縋りつき、リューンは懇願する。

生き延びてくれ。ただそれだけを願いながら。

しかしその願いもシヴァの言葉に突き放された。

「・・・本当はこんなこと最後まで言うつもりはなかったんですが・・・私は、最初からこうするつもりでした」

驚きに顔を上げたリューンの頬を大きな手が撫でる。

「私は貴方が幼い頃からその傍らにありました」

雨の時は傘となり、風の吹く日は壁となってこの愛しい命を守り抜いてきた。

弟のように思っていた・・・はずだった。

「しかしいつしか・・・貴方を守りたいという想いと同じくらい、閉じ籠めてしまいたいという想いが育ってしまった」

閉じ籠めて、自分だけのモノにしてしまいたかった。

この白い肌も、細い腰も、平らな胸も、甘そうな唇も、自分の前でだけ次期皇帝という身分を捨てて本当の姿を曝け出す可愛い心も。

でも、これはけっして叶わぬ想い。

シヴァはリューンの手をとりその手に口づける。

「貴方は次期皇帝。姫を娶り、お世継ぎをもうけ、この国を背負って立つ方。この手には何万もの国民の命がかかっている」

そんな人を自分だけのモノにできるはずがない。

しかし、いつか自分以外の誰かを大切に想うようになるリューンを今まで通り傍らで見守ることなどできなかった。

「だから私は決心した。最期に貴方をこの腕に抱き、そして死んでいこうと」

「シヴァ・・・」

リューンの悲痛な声がシヴァの胸を打つ。
いつの間にかその白い頬に流れていた涙を拭った。

「そんな顔をなさらないでください。私は陛下暗殺の企てを知りながら何もせず黙っていた男です。貴方には恨まれるべきであって、命を惜しまれる人間ではない・・・・・狂っているんですよ、とっくに」

一番最期に大切な人にけっして癒えない傷をつける。

それこそが望みだったのだから。

「貴方の目の前で処刑されたい。貴方の頭の中に私の姿を刻みつけたい。一生消えないように」

兵士たちの声はもうだいぶ近付いている。

黙っていたとしても30分もすればこの地下牢は発見されるだろう。

シヴァはリューンの手をそっと引き剥がし、細い手足には似合わない武骨な鎖の鍵を外した。

じゃらん、と大きな音をたてて、リューンを繋ぎ止めていた鎖が床に落ちる。

これで、すべて終わった。

悔いはない。

たとえ愛しい人を失意の底に突き落としたとしても。

「さあ、あとは助けを待っ、」

「シヴァ」

自由になった四肢。

その両腕でリューンはシヴァに抱きついた。

「リューン様・・・?」

その腕は震え、それでもしっかりとシヴァの背を捉えて放さなかった。

「抱いて欲しい・・・・助けがくるまででいい。俺を、本当に愛しいと思うのなら。俺の中に、お前を刻みつけたいと思うのなら」

反逆者と捕虜という関係ではなく。

皇子と従者という関係でもなく。

なんの枷ももたないこの姿のままで抱いて欲しい。

シヴァの胸の中で返事を待つリューンの細い肩を、シヴァは力強く抱きしめた。

「離れたくない・・・本当は、離したくないんです・・・リューン」









冷たい床に横たわって、何度も何度も熱を交わし合った。

遠くには銃声。

傍から見れば滑稽な姿だろう。

それでも二人にとって想いを通じあわせた最初の情交だった。

そして、もしかするとこれが最後になるかもしれない。

「ん・・・あッ・・・シヴァ、ああッ!」

ぐ、と押し上げられる内壁。

愛しい者の腕の中にいる悦び。

無理矢理抱かれていたときとは違う。

もうシヴァはリューンをわざとひどく抱く必要はないのだから。

「リューン様・・・愛しています・・・」

いつもと同じ囁き。

それも、今日だけはリューンの返す言葉が違った。

「シヴァ・・・・シヴァ、おれも、あ、ぃしてる・・・ん、あッ」

腰を回すように前立腺を擦られ、リューンは下半身から湧き出る快感に溶けてしまいそうだった。

突き上げられるたびに精液が互いの腹部を濡らし、争いの声さえかき消すほどの濡れた音が部屋の中へ響いていく。

何度目かの絶頂を覚悟してリューンが背を反らす。

そして、いつものように突き出された乳首をシヴァの薄い唇が優しく舐った。

「はぁあッ、あ、ああッ、だ、だめ、だッ・・・シヴァ、も、もう、出るッ!」

逞しい腰に細い脚を絡みつけ、リューンは涙を流しながら精を放った。

直後、優しいキスとともにカラダの奥でシヴァが弾けた。

「あッ・・・あ、あぁ・・・・!」

背中にまわした腕に力をこめ、獣のように爪をたてる。

繋がっているところから蕩けて、このままひとつになってしまえばいい。

憎しみも、愛情も、すべて溶け合って。
ひとつの塊に。

「リューン様・・・リューン・・・!」

息ができないほど抱きしめられ、そしてそっと離れていくシヴァを、リューンは黙って見つめるしかなかった。

その時。

ドンドンドンッ!

「殿下ッ!殿下!ここにおいでですかッ!?」

「・・・・・来た」

ついに、迎えが来てしまった。

項垂れるリューンのカラダをシヴァは手早く清めると、毛布をかける。

その氷の瞳にはもう迷いはなかった。

「私の行いを赦してほしいなどとは言いません。私を憎んでください。でなければ貴方は壊れてしまう」

扉の軋む音。外から無理やりこじ開けようとしているのだろう。

リューンはその扉を開きに歩いていくシヴァの背中に向かって呟く。

「・・・お前が狂ってるのなら、俺はもうとっくに壊れているんだろう」

カラダの奥に残るシヴァの熱を感じながら、リューンはある覚悟を決めた。







その一週間後。

首謀者であるマヴァル=ラグーン以下おおよその革命軍の兵士が捕えられた。

当初は圧倒的に有利と思われた革命軍の大敗は、ある人物からの内部告発が要因であることだけが世間には公表され、その者たちの処刑が議会の満場一致で可決した。

皇帝の暗殺、また次期後継者を人質として監禁したこと。それらが決めてだった。

処刑の日程は民衆には知らされず、すべての情報は機密事項として扱われた。

そして、もうひとつ。

新たな皇帝となったリューンと、信頼のおける一部の側近の者にしか知らされない、公には秘された事実がひとつだけあった。


宮殿の隅にひとつだけ作られた、現皇帝のみが入ることを許される場所。

それは木々が生い茂る森の奥の小さな離れ。
そこは元来、皇帝が公には出せない愛妾を住まわせるためのもの。

そこには革命終結以来、一人の人間がひっそりと暮らしていた。

皇子の警護係シヴァ=ラグーンは死んだ。
今そこにいるのは、地位も名誉も信頼も、すべてを失ったひとりの人間。

皇帝の愛する、ただのシヴァという名前の男。

リューンはシヴァからすべてを奪い、そしてこの離れに監禁している。

「生きてその罪を顧み、その身体を贖罪として俺に捧げろ」

処刑の日、他の革命軍の兵士とは別室に通されたシヴァの目の前で、リューンはそう告げた。

・・・狂ってる。

こんなものはもう愛とは呼べないのかもしれない。

だが満足だ。

失ったものを埋めるには、唯一愛したシヴァという男がどうしても必要だった。

いつものように公務を終えたリューンが離れの扉を開ける。

「・・・お待ちしておりました、皇帝陛下」
扉の向こうには首を鎖につながれ、ベッドに腰かけた男の姿があった。

「皇帝などと呼ぶな。俺は・・・」






今日も離れには皇帝の艶めかしい喘ぎ声が響く。

それは後世、人々に歴史上もっとも優れた皇帝として語り継がれる者の喘ぎ声だった。














<あとがき。>
陽向蒼さま!お待たせいたしました!
リクエスト、監禁系のストーリーとのことでしたが、健多くんではなくてよかった・・・のです、よ、ね?(笑)
キリリクは今のところすべて健多くんシリーズで埋まっていまして、「違うストーリーでよかったんかいな・・・」と書き終わった今でも不安でいっぱいです(笑)
もし健多くんシリーズをご所望でしたら申し訳ございません(汗)

そして何故か全体的に主従関係モノみたいなノリになってしまってますね・・・
こういう話がけっこう好きなもので、なんか書いてるうちにこうなってしまいました(笑)
受け取っていただけると嬉しいです☆
リクエストありがとうございました!
お粗末さまでございました〜☆


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あきゅろす。
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