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アソビの恋〜出会い編〜
まさか今時、そんなお約束の攻撃がくるとは予想していなかった。

バシャッ!

「・・・サイテー。もう二度と会わない」

「・・・」

遠ざかるヒールの音。深夜のバー。薄暗いオシャレな店内。

頭から酒を浴びせられた、一人の男。

周囲からかすかに聞こえるざわめきに、瀬野遊穂(セノ ユウホ)は濡れた髪を掻き上げながらため息をついた。

(・・・あー、またやっちまった)

これで何度目だろう。

自分にウィスキーを浴びせてくれた彼女は遊穂の恋人というわけではない。

たまに会って、たまにセックスをして。そんな関係。

向こうも遊びと割り切っているもんだと思っていた。

しかしそう思っていたのは遊穂の方だけだったようだ。

(やっぱり、会う前に別の女と寝るのはマズったよなぁ)

このバーで彼女に会う前に、違う遊び相手に偶然会った。
待ち合わせの時間まではまだ余裕があったし、ついその遊び相手に誘われるがままにホテルへ行った。

そしてホテルから出たところを、彼女に目撃されたのだ。

遊穂は根っからの女性にだらしない男だった。

いや、だらしないというより、誘われると断るのが面倒なのだ。

女の子は好きだし、なにより気持ちいいことも大好きだ。

だからよくこうして関係をもった女性に「節操無し」「サイテー男」「クズ」とまで罵られて去っていかれる。

だか、別にそれでもいい。

遊穂はそのルックスと優しい性格でよくモテる。女性には事欠かないのだ。

(でもさすがに、これは・・・)

またひとつ大きなため息が出た。

今日は彼女の家に泊まる予定だったため、もう終電を逃してしまっている。

酒も入ってるから車は乗れないし、そもそも車を自宅に置いてきてしまっている。

どうしたもんかと考えていると、店員が温かいおしぼりを持って現れた。

「こちらお使い下さい」

「あ、アリガトウゴザイマス・・・」

そうだ。とりあえずこの酒でベタつく身体をどうにかしないと。

受け取ったおしぼりで髪を拭く。
するとすぐ後ろの席から声がした。

「すいません、こっちにもおしぼりもらえますか」

・・・・・まさか。

嫌な予感がして急いで振り返る。

後ろの席はスーツを着た男だった。

「うそ、マジで・・・」

暗い店内では顔は見えないが、薄いグレーのスーツの背中に、はっきりと濡れたシミができている。

遊穂は慌てて席を立った。

「あの、それ俺のせいですよね!?あー、どうしよ・・・弁償します!」

いきなり話しかけてきた遊穂に男はびっくりして、目を丸くした。

意外と若い。24の遊穂と同じか、少し上くらいだろうか。

普通のサラリーマンにしては、こんな高級店にくるような年には見えない。

店員が持ってきたおしぼりを遊穂が受け取り、男の背中を拭おうとすると慌てて止められた。

「いえ、大丈夫です。それより、あなたの方が大変そうですけど・・・」

「あ・・・・こんなの慣れてるんで、気にしないでください!」

ポンポンと軽くシミ抜きするようにスーツを叩く。

一生懸命にそうしていると、いつの間にか小さな笑い声が聞こえていた。

顔を上げると、その笑い声の主は目の前の男だ。

ふと目が合って、男は慌てて遊穂に謝った。

「あ、ごめん。慣れてるっていうのが可笑しくて」

涙目になるほど笑われて、遊穂も苦笑するしかない。

「そう、慣れてるんです。俺サイテーな男だから」

遊穂がそう言うと、男は不思議そうな顔をして、次に爆笑した。












「基哉さんっていくつ?」

「俺?26」

「あ、俺より年上だ。俺24」

それから30分後。

二人はあのバーの近くの居酒屋で飲みなおしていた。

お互い服が酒臭いため、あまり人が来ない場所に行くしかなかったのだ。

ここなら客もほとんどいないし、気兼ねせずに話すことができると誘ったのは遊穂の方だった。

「弁償できないなら、せめて一杯奢らせて」と遊穂が無理やり誘った男の名は、小金井基哉(コガネイ モトヤ)。

この近くに父親が経営する会社があり、そこで働いているのだという。

今日はその父親に付き合っての食事会の帰りだった。

「でもホントにクリーニング代とかいいの?俺、金には困ってないからそれくらい出すし」

「しつこい。俺もどうせ新しいスーツ買おうと思ってたんだよ。だから気にすんな」

「・・・基哉さんってオットコマエ〜」

「よく言われる」

二人で笑いながら酒を飲む。

こんなに楽しい気分は久しぶりだ、と遊穂は思う。

女性と遊ぶことが多い遊穂には、友達以外でこうして同年代の男性と遊ぶことはとても新鮮だった。

まるで年の近い兄といるような、そんな心地よさ。

「でも遊穂、冗談じゃなくて本当にお前遊びまくってんの?」

「うん。ケータイ見る?」

カチカチと机の上に出してあったケータイを操作して、アドレスブックを開く。

「ほら」

ケータイを差し出され、ずらっと女性の名前の数に基哉は唖然とした。

「うわ、お前すごいな。全部と付き合ってんの?」

「なわけねえじゃん。全員と付き合ってたら身体もたないっての。みんなたまに会ってヤったりするくらい」

「はぁ〜。そんなヤツって本当にいるんだなぁ」

感心、というか呆れた様子で基哉は焼酎に口をつける。

「基哉さんだって遊んでんだろ?モテそうな顔してるし」

すると一瞬、基哉の動きが止まった。

「・・・基哉さん?」

遊穂が声をかけると、強張っていた表情がまた笑顔に戻る。

「いやいや、そんなことないから。俺は一途」

「・・・モテるって部分は否定しないんだ」

「冗談だよ、冗談」

酒の入った成人男性二人はゲラゲラと笑いあう。









楽しい時間はあっという間にすぎ、時間は午前1時を回っていた。

「基哉さん、そろそろ帰った方がいいんじゃない?明日も仕事でしょ」

「ん〜・・・もうこんな時間か・・・帰らないと・・・」

基哉は思ったより飲んでいた。

このままでは無事に帰りつけるかどうかも怪しいと思った遊穂は、慌てて会計を済ませると店を出る。

「ほら、立って基哉さん。家どこ?俺送るから」

「ん、あっち」

「あっちじゃわかんねえって」

歩いて酔いがさらに回ったのか、完全にだらんとなった基哉からなんとか家の住所を聞き出し、遊穂はタクシーを拾った。

基哉の家は意外と近く、すぐに目の前に目的のマンションが現れる。

デザイナーズマンション。
どうやら基哉の実家の会社は儲かっているようだ。

「着いたよ基哉さ〜ん」

失礼とは思ったが、埒があかないので基哉の鞄を漁って鍵を取り出す。

部屋の中に足を踏み入れると、男の一人暮らしにしてはずいぶん片付いた部屋だった。

ふにゃふにゃと何か言いながら玄関に突っ立っている基哉を部屋に押し込むと、スーツを脱がせてやる。

シミがまだ残っているが、一応壁にかけてあったハンガーにそれを吊るした。

いつの間に移動したのか、基哉は自分でベッドに突っ伏していた。

「っていうか、酒そんなに強くないのになんであんなに呑んだんだ・・・」

26にもなって自分の適正酒量も把握していないわけでもないだろうに。

「ま、俺と呑むのが楽しかったってことにしといてやるよ」

実際遊穂もつい楽しくて飲み過ぎてしまった。思ったより自分が酔っているのがわかる。いつもより独り言が多いところとか。

「そういえば・・・下、どうするかな」

ベッドの上の基哉はズボンを穿いたままだ。上着と一緒にかけてやりたいが、着替えの場所がよくわからないので、脱がせたあと何を着せればいいかわからない。

「いやそもそも俺が脱がせんの?男のズボンを?」

ありえないありえない。

「・・・ってそんなこと言ってらんねえか」

よく考えれば別にハズカシイことでもない。さっさと脱がせて布団の中に押し込んでしまえばいい。

遊穂はうつ伏せになっている基哉の肩と腰を掴むと、ゆっくりと仰向けにひっくり返した。

男にしては線の細いほうの基哉でも、意識がなければけっこうな重みがある。

「よ、っと」

あーとか、うーとか呻き声をあげる基哉に適当に相槌を打ちながら、ズボンを脱がせてハンガーにかけた。

上半身がシャツ、下半身が下着姿の基哉にさっと掛け布団を被せると、一応礼儀として挨拶してから出ようと身体を揺する。

「基哉さん、基哉さ〜ん。俺帰るわ。目ざましは大丈夫?明日起きれる?」

さすがに自分から飲みに誘っておいて、基哉が遅刻するようなことになったら申し訳ない。

ぺちぺちと顔を叩いてやると、基哉は眉をしかめてうっすらと目を開けた。

そのまま下からじっと凝視され、遊穂はちょっとひるむ。

「あの・・・俺、帰るよ?」

「ゆう、かえる?」

「帰る帰る。基哉さんもちゃんと明日起き、って、うわっ!?」

ぐい、と突然基哉に腕を掴まれ、バランスを崩した遊穂は基哉の上に倒れこんだ。

「ちょ、基哉さん!?」

「なんで・・・かえる・・・ゆう・・・」

酔っているとはいえ男の力で絞めつけられて、遊穂は身体を起こすことができない。

理解できない状況に遊穂はパニック寸前だった。

「もと、やさんッ・・・!」

「あした、俺、やすみ・・・ゆうこ」

「あ、明日休みなの?・・・・・・って、ゆ、ゆうこ?」

てっきり自分が呼ばれていると思っていた遊穂は、どうやら人違いをされていると気づいて一瞬力が抜けた。

そして酔った基哉はその隙をついて遊穂の襟首を掴んだ。

「ん、うっ!?」

両手でがっしりと遊穂の首をホールドし、キス。しかもディープ。

女性となら挨拶のようにしてきているこの手のキスも、相手が男だということに遊穂の頭は混乱する。

必死になって剥がそうとするが、そこは男の力。本気で捕らえられればちょっとやそっとじゃ離れられない。

両手をベッドについてせめて顔だけは離そうとするが、基哉は一ミリのためらいもなく遊穂の唇を吸い、舐める。

ちゅる、ぴちゃ、と恥ずかしい音が響いて、遊穂は眩暈がしてきた。

もうこれは、どうしようもない。

そのうち疲れて寝るだろうと自然の成行きにまかせてみるしかなかった。

意外なことに嫌悪感はない。むしろ女とは違う肉厚の舌に唇を愛撫されるのは新鮮な気持ちよさがあった。

どうせ相手は酔っぱらい。

しかも一応メアドは交換したものの、これから先会うかどうかもわからない男だ。

これも一種の思い出としてとっておこう。

じわじわと遊穂のほうも乗り気になり、積極的に唇を開いて基哉の舌を受け入れる。

ざらっとした熱っぽい塊が歯列をなぞるたび、言いようのない興奮が湧きあがってくるのを感じる。

遊穂が抵抗しないとわかったからか、首をしめる腕の力が弱まった。

その腕をそっと引き剥がすと、布団を少し捲り、シャツのボタンを外していく。

基哉のためらいのなに誘いに、いつしか遊穂は自分でも気付かずに引き返せないところまできていた。

薄いがしっかりとした胸をあらわにすると、部屋の灯りの下でほんのりと赤みを増した日焼けしていない肌が覗く。

そのふたつの頂には大人の色をした果実がぽつんと乗っている。

「んっ・・・ゆうこ・・・」

鎖骨を撫でる遊穂の指に感じているのか、基哉がかすかに喘ぐ。

その低い掠れた声にカッと血が沸き立った。

「俺・・・もしかしてヤバい?」

ぺろ、と乾いた唇を舐めながら呟いてみるが、今さら止めてやる義理はない。

開いた胸が寒いのか、基哉がブルっと背筋を震わす。

その振動でキスに興奮して勃ち上がった果実が揺れた。

その卑猥な光景に遊穂が煽られないはずがない。

「そんな顔して・・・食べられてもいいわけ?」

潤んだ瞳で遊穂を見上げる基哉の頬を撫で、ぽわんと開いた唇を指でなぞる。

紅い舌が先端をのぞかせ、その指を舐めた。

その行為が遊穂から最後の理性を奪い取った。

「あッ・・・!」

バサリと布団を剥ぎ、基哉の上に馬乗りになる。

苦しげに突き出された胸の突起を両方の親指と人差し指で乱暴に捏ねた。

「ぁああッ!あ、ああッ・・・」

ぐりぐりと押し潰すように倒し、左右に揺さぶる。徐々に充血しだした先端を爪でくすぐる。

基哉は興奮しているのか、グスグスとすすり泣きをしながら髪を振り乱して声を上げた。

「そんな声出すなよ。基哉さん、ホントはいつもユウコって人に犯されてるんじゃねえの?」

モジモジと擦りあわされる基哉の股間がはっきりとした膨らみをもっている。

感じている。
そう思うだけで遊穂は男同士だというタブーを忘れるほどこの行為に夢中になっていった。

ビクビクと身体を跳ね上げる基哉の脇腹を撫でながら下半身に指を這わす。

男らしい下着をゆっくりとずらしていくと、そこにはかすかに先走りを漏らした赤黒い性器が震えていた。

自分のモノと変わらない色と形。

それを握りたくなる日がくるなんて夢にも思わなかった。

熱く脈打つ基哉のペニスに指を絡め、上下に扱き上げる。

肌の擦れる音がやがてグチョグチョとした濡れた音に変わり、基哉が抑えられない嬌声を漏らす唇を自分の手でふさいだ。

「んぅ!ん、んッ、んんくッ、んぁんッ!」

「そんな声、オンナの前でも出すわけ?」

笑いながら裏筋を撫でまわす。

薄い皮膚が指にぴったりとくっつく感触が、この男の急所を好きなように弄んでいるのだと遊穂の心を昂らせた。

紅く育った先端をぬるぬると擦りながら基哉の射精を促す。

声を殺しながら快感に酔う顔はどう見たって男のものなのに、遊穂はそれを可愛いと思った。

「んッ、くっ・・・!」

ビクンッ!

細身の筋肉がぶるりと震える感触とともに、遊穂の手の中に大量の白濁が吐き出される。

荒い息を吐く基哉の頬を汚れていない方の手で軽く叩いてやると、基哉はこの部屋に来てから初めてはっきりとした意志のある視線を遊穂に向けた。

まだゆらゆらとさまよっていた目が遊穂の欲情した目を捉え、そして、見開かれた。

「遊穂・・・!?コレ、なんだよ・・・!!」

信じられない。

いや、信じたくもない。

基哉にしてみれば、さっきまで楽しく酒を飲んでいたはずなのに、いつの間にかベッドに寝かされ、そして裸同然に剥かれている。

しかも新たな友達と思っていた弟のような男が自分のナニを握っていて、それが明らかに射精した跡と痺れを残しているのだ。

「お前、なにした!?」

まだ酒の抜け切れていない身体を無理やり起こし、上に乗ったままの遊穂の長身を跳ね飛ばす。

もはや肩にひっかけただけのシャツを掻き合わせ、床に尻もちをついた遊穂に視線を向けると、彼はひどく・・・もしかすると自分より、狼狽しているらしかった。

「・・・基哉さん、ごめん。俺、自分で思ってたより酔ってた」

そう言うと立ち上がって基哉に歩み寄る。

基哉はビクッと肩を震わせ、ベッドの上で後ずさった。

それでも遊穂はおかまいなしにもう一度ベッドに乗り上げ、壁に背をついている基哉の顎を掬いあげた。

「遊穂ッ!やめろっ!」

「俺、自分でも信じらんねえわ。絶対男なんか好きじゃなし、いくら誘われたからってホイホイ乗るような人間じゃないと思ってたのになぁ」

「・・・さそ、われた?」

誰に、とでもいいたげな基哉の目に遊穂は唇を歪めて笑う。

「ユウコ、って基哉さんのオンナ?俺その人に間違われたみたいなんだけど」

ユウコという名前を聞いた途端、基哉の眉がぴくりと動いた。

「その顔、もしかしてワケあり?」

「・・・うるさい。お前には関係ない」

動揺を押し殺すように低く呟く様子はまるで傷ついた獣のようだった。

「関係ないなんてことないだろ。現に俺、その人に間違われてベッドに連れ込まれたんだし。俺にも聞く権利あると思うけど?」

優しく、それでいて被害者意識がたっぷりと伝わるように基哉に問いかける。

するとしばしの沈黙の後、基哉はしぶしぶ重たい口を開いた。

「・・・元カノだ。今日フラレた」

「今日?じゃあ、俺と会ったとき基哉さんも俺と一緒にフラレてたわけ?」

「お前と一緒にするな!俺はアイツだけがずっと好きだったんだ!」

叫んでから、ハッと口を噤む。

「悪い・・・こんな言い方・・・」

「いいよ別に、その通りだし」

遊穂は自嘲気味に笑った。

「それよりもさあ、その人と別れたんなら俺と付き合えよ」

遊穂のその言葉はあまりに唐突で、基哉の脳に浸透するまでだいぶ時間がかかった。

「・・・・・・・は?」

「いや、俺さ。さっきも言ったけどいくら酔ってるからって男に手出したりしないし。男がヨガってるの見て可愛いなんて思ったの基哉さんが初めてなんだよ。コレって恋だと思わない?」

「思うかアホ!」

息がかかるほど近くにある遊穂の額を掴み、基哉は押し返す。

「俺をそこらへんの女と一緒にすんじゃねェよッ!」

「あ、その言い方はよくないって。女の子たちは俺と遊ぶときはいつも真剣よ?」

「余計に悪いわボケッ!」

なおも迫ろうとする遊穂の頭をどついて、基哉は睨みつける。

「とにかくもう出て行け。今後一切俺に近づくな!」

ちょっと言いすぎかもしれないが、自分の貞操の危機が迫っている基哉は必死だった。

とにかく遊穂のギラついた目が怖い。このままではまた押し倒される可能性も否定できない。

しかし遊穂は遊穂で必死だった。

根っからの女好きだと思っていた自分が男に欲情してしまったのだ。

このままでは遊び人のプライドが許さない。

もしこれが本当の恋でないのなら、自分の行動の説明がつかないのだ。

「今日は泊めてよ。俺ホテルに泊まれるような金もってないし」

「金なら持ってるって言ったじゃねえか」

基哉が目も合わさずに言う。

それでも遊穂は引かなかった。

「アレは通帳に、ってこと。おろしてないから無理。野宿なんかしたら野垂れ死ぬ」

「俺は別にそれでもいい」

「基哉さんは困ってる俺を見捨てるわけ?」

遊穂が子犬のような目で見上げると、基哉は一瞬ひるんだ。

その心に入り込む余地あり、と内心ほくそ笑む。

「あーあ、基哉さんって面倒見がいいって思ってたのにガッカリだわ。無一文の俺をこんな夜中にほっぽり出すんだからなぁ」

「・・・・」

遊穂は最後の仕上げとばかりにガバッと床にひれ伏した。

「お願いします!今夜一晩、俺をここに置いてください!」

数々の女を堕としてきた遊穂のテクニックの一つ。

必殺、無邪気な子犬のお願い攻撃。

これで泊まれなかった家はなく、そして基本的に放っておけないタイプの基哉にはまさに効果テキメンだった。

「ね、基哉さん」

うるうるとした瞳でベッドの上の基哉を見上げる。

「・・・・・・・・・・・・・・ベッドに上がってきたらコロスからな」

すると大きな溜息とともにそんな返事が返ってきた。

「マジ!?」

パッと遊穂の顔が明るくなる。

それを見た基哉がしぶしぶといった様子で立ち上がった。

「俺、風呂入る。言っとくが、今お前がいるその場所から一歩でも動いたら問答無用で外に放り出すからな」

「うん、うん!いやぁ〜基哉さんってやっぱりオトコマエだなぁ〜!」

「うるさい。黙れ」

ずり落ちてくるズボンを持ち上げながら風呂場に向かう基哉の背中を見送り、遊穂はガッツポーズをした。

相手の懐に入り込んでしまえばこちらのもの。

後はむこうが堕ちるまで攻撃の手を緩めなければいい。

あまり広いとはいえない床にごろんと長身を横たえ、遊穂は目を閉じる。

本当はさっきの基哉の痴態が目に焼き付いて眠れそうもない。

それでも寝たふりをして基哉の信頼を勝ち取らなければならない。

明日はさっさと引き上げて、これ以上害のない人間だということをアピールしよう。

初めての遊びに目を輝かせる子供のように、遊穂の心の中はウキウキと沸き立っていた。

・・・それが、あんな結末を迎えることになるとも知らずに。



続く。



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