DOG'S LIFE@
※兄弟モノです。苦手な方は避けることをおススメいたします!
ガチャ。
「兄貴ー。あにきーっ」
ダダダダダ。
どしっ。
机に座って勉強中、背後で扉の開く音とその後に背中に感じるずっしりとした熱。
そのあまりの衝撃にノートを走っていたシャーペンの軌道が逸れ、ずりっとマヌケな線が数字の上を走った。
「・・・」
「あ」
突撃したほう、希一(キイチ)の口元が『ヤベ』と無音で呟く。
突撃されたほう、希一の一歳上の兄である零(レイ)は、自分の予想していなかった方へ滑ったシャーペンの先をじっと見つめていた。
「あ・・・あの、兄貴・・・?」
そっと、慎重に、兄の細い背中から大きな身体を離す。
零は握ったシャーペンはそのままで、ゆっくりと首だけを巡らせて弟の方へ振り返った。
「出て行け」
「・・・・・・・・・・・・・・・ハイ」
兄のノンフレームの眼鏡。
その奥でギラリと危険な色を見せた瞳には希一は絶対に逆らわない。
いや、逆らえないのだ。
逆らったら最後。今後一生愛しい兄には指一本触れさせてもらえない。
その大きな身体に似合わずションボリと肩を落とし、希一は兄の部屋から出て行こうとした。
これ以上勉強している兄を刺激しないように静かにドアノブを回したところで。
「ハンバーグ」
ふと後ろから無愛想な声が聞こえた。
慌てて振り返ると、零は机から顔も上げずにノートの文字を消している。
それでも希一は落ち込んでいた顔をぱっと輝かせ、満面の笑みで答えた。
「まかせといて!世界一ウマいの作るから!」
「うるさい」
「・・・・・・・・・・・・・・・ハイ」
手のひらの温度が伝わらないように素早く空気を抜いたハンバーグをフライパンで焼き、残った肉汁をつかってソースを作る。
できあがったハンバーグの隣には付け合わせの人参のグラッセ、緑も鮮やかに茹で上がったブロッコリー。
皿の縁に垂れたソースを拭って、完璧。
「我ながら天才だな。うん」
ちょうど炊き上がったご飯を食卓に並べ冷やした緑茶をグラスに注ぐ頃、2階から零が降りてくる。
「あ、兄貴!できたよー。どうぞどうぞ!」
いそいそとイスを引くと、零はそれが当り前であるかのように顔色一つ変えずに席につく。
それを満足げに見ていた希一も慌てて向かいの席に座り、二人だけの夕食が始まった。
「いただきまーす」
両親が海外出張でよくでかけているため、この広い家には零と希一の二人しかいない。
零は家事を一切しない。そうなると自然と希一が食事を作り、掃除をして、そして戸締りを確認することになる。
それは小さい頃からの当たり前。
希一は物心ついたときから、零に尽くすことを最優先事項として生きてきた。
零がこの世で一番。
零が満足してくれさえすれば、あとは何もいらない。
唯一自分のためにやっていることといえば部活くらいで、たまにある遠征試合のときなどは一時間おきに零に電話をし、無事を確認する。
『零はきれいなお姫さまだから、俺がまもってやらなくちゃ。』
それが希一の小さい頃からの口癖だった。
「あ、兄貴。口のとこソースついてる」
文化系の零と違い逞しく骨ばった指先を伸ばす。
紅い唇の端についたソースを優しく拭うと、零は黙ってされるがまま。
小さな口の奥にそっと覗く真っ赤な舌。
普段から伏し目がちの大きな目が希一の指先を視線だけで見下ろす。
ゾクリ、と希一は背筋が震えるのを止められなかった。
「とれたよ」
ありがとうなんて言わない。それは当然のこと。
零はまた黙々と食事に集中する。
その様子をチラチラと見ながら希一も箸を口に運ぶ。
規則的に動く口元。細い首。箸を持つ長い指。
・・・ああ。抱きたい。
この綺麗な兄を犯したい。
蕩けるような快楽だけを与えて、ココロもカラダも死ぬほど満足させてやりたい。
ピンク色の肉汁を溢れさせるハンバーグを箸で割りながら、希一は頭の中で兄をぐちゃぐちゃになるまで可愛がっていた。
今日は・・・抱かせてくれるかな。
前に兄を抱いたのは2週間前。
それから若い希一にとってはもう地獄のような毎日だった。
兄弟としてではなく、恋愛対象として見ている美しい人が目の前にいて手を出せないという拷問のような日々。
それが兄が触れることを許してくれるまで、いつまで続くのかわからないのだ。
悶々としたまま希一は食事をし、自分の食事を終えてさっさと自室に戻っていく零の背中を見送った。
扉一枚向こうでシャワーの流れる音。
浴室の中には零がいて、外の脱衣所には希一がいた。
表向きは畳んだバスタオルを脱衣所に持っていくため。本当の目的は・・・身体を洗うついでに零に触る口実をつくるため。
その姿はまるで主人がおやつをくれるかをじっと見極めようとする犬そのものだった。
「あの〜・・・兄貴?」
コンコンと控えめに擦りガラスをノックする。
滲んだガラス越しに白に近い肌色が動くのが見えた。
「・・・なんだよ」
少しこもった声。
その一言の返事だけで希一は跳ね上がりたいほど狂喜した。
兄が返事をしてくれた、ということはかなり脈アリということだ。
これは生まれた頃から一緒にいた希一にしかわからない、兄の微妙な表現。
「えっとさ、その、あの・・・背中、流してあげたいなぁ〜・・・なんて」
大きな図体をモジモジと揺すりながらガラスの向こうの兄に伺いを立てる。
するとしばらく沈黙が続く。
希一の胸はまた高鳴った。
なにも言わないのはオーケーの印だ。
「兄貴、入るね!」
内心ガッツポーズをしながら希一は慎重に扉を開けた。
ガラス一枚向こうの世界。
そこは希一にとってのパラダイスだった。
かすかな湯気の向こうに兄の白い裸体。
色素の薄い髪はシャンプーをしたのかしっとりと濡れ、血色もよくなって頬が桜色に染まっていた。
眩暈がするほど妖艶な兄の姿に一瞬我を失いかけたが。
「早く閉めろ。寒い」
批難する声にハッと理性を取り戻した。
「あ、ごめん!・・・じゃあカラダ洗うから座ってくれる?」
あくまで丁寧にお願いすれば、兄はしかめっ面のまま黙ってイスに座る。
いそいそとその背後にまわると、細い髪の毛の張り付いたうなじが視界に入ってあまりの色香にクラクラした。
再度慌てて理性を呼び戻し、ラックにかけてあるタオルを手に取る。
カラダを洗うためのチクチクとするソレに指が触れた瞬間、希一はドクンと心臓がひとつ脈打った。
・・・・・・・・濡れてる。
と、いうことは。
「えっと・・・じゃ、洗うね」
何事もなかったかのようにそのタオルを手に取り、ボディーソープをつける。
ぐしぐしと擦り合わせて泡を立てる間、希一はいますぐ兄を押し倒したい気持ちを必死で我慢していた。
カラダを洗うタオルが濡れていた。
それが意味するのは、零がすでにカラダを洗い終わっていた、ということ。
その零がバスルームに入ることを許してくれたのは、希一の考えをわかった上で、それを受け入れたということだ。
溢れ出る嬉しさと期待に希一の胸はバクバクと暴れまわるが、零のカラダに滑らすタオルの動きはあくまで優しい。
兄の白い肌を傷つけないように慎重に。
足の指の間まですべてを撫でるように洗った後、希一は湧き上がる興奮を胸にそっと兄の耳元で訊ねた。
「ね、今度は手で洗っていい?」
その瞬間、零の肩がぴくりと小さく跳ねた。
返事は、ない。
兄も興奮している。その事実だけが二人の間の一生超えることのできないしがらみを取り払う。
後ろから腕を回し、泡にまみれた兄のカラダをまさぐる。
薄い胸を揉みあげるように撫でながら、熱っぽい声で囁いた。
「・・・零」
ぴく。
今度ははっきりと、零の肩が跳ねた。
調子づいた希一はさらに肌理の細かい肌を指先で楽しむ。
洗っているときから気付いていた。兄の胸の尖りがもう硬く勃ちあがっていることを。
「零・・・俺、もう我慢できないよ」
しこったソレをクリクリと両方同時に苛めると、零の背中が徐々に反って濡れた髪が希一の服に張り付く。
「ぁッ・・・あ、はッ・・・!」
「零のここ、コリコリしててすごい可愛い」
希一の胸のあたりがじわじわと濡れていく。
それもおかまいなしに突起を捏ねたり摘まんだり、そして爪の先でくすぐったりすれば、イヤイヤと首を振った零の髪から飛んだ雫が顔を濡らした。
「ほら、乳首きもちいいね・・・もっとしてほしい?」
「あぁッ・・・あ、き、希一・・・!」
掠れた甘い声に名前を呼ばれゾクッと腰骨が痺れる。
すっかり内股になった零の下半身を見れば、泡にまみれて先端だけを充血させたモノが存在を主張していた。
兄が弟の名前を呼ぶことは滅多にない。
一番たくさん呼んでくれるのはセックスのときだけ。
それがわかっているからこそ、希一もこの行為を心待ちにしているのかもしれない。
兄が、唯一自分だけを見てくれる瞬間を。
意地悪く乳首だけを弄んだまま希一は兄に訊ねる。
「ここで最後までする?それともベッドに行く?」
それは選択という皮を被った宣言。
これでやめるつもりはない。今から貴方を犯すという弟の意思表示。
そんな誘導を知ってか知らずか、兄はなんの疑いもなく熱い息とともに答える。
「・・・ベッド」
「りょーかい」
泡だらけのカラダをさっと流し、支えながら脱衣所で水気を拭き取る。
髪を乾かす余裕なんてお互いない。だから充分にタオルで拭ってやろうとすれば。
「希一」
甘えた声で寄りかかってくる兄に、希一の欲望はさらに燃えあがる。
「だめだよ。風邪ひくから」
いつもは眼鏡越しに向けられる批難の瞳。それはレンズを通さなければ拗ねたような表情になる。
そんな零に苦笑しながら、希一は細いカラダをバスタオルに包んだまま担ぎ上げた。
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