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過去拍手文。
鬼畜失格。
俺は疲れていた。
鹿児島での地獄の一週間が過ぎ、ようやく家に戻ってきたと思ったら今度は今の連載の締切が早まったなどと言われた。
結局帰ってから2日、ほぼ眠らずに連載を書き上げた。
原稿を担当に渡し、一息ついたときにはもう健多が来る時間になっていた。
その日はさすがに疲れていて、健多の家まで出向くことができそうになかったため、あらかじめ俺の家で勉強を見てやることを伝えておいた。
ピンポーン。
夕方になって健多が来た。
着替える暇さえなかったが、とりあえず健多を迎え入れる。
俺が全身ボロボロの姿で目の前に現れて、健多は具合が悪いのかと心配してきた。
疲れてるんならと帰ろうとする健多を引き留める。
勉強時間が終わり、健多に買っておいた土産を渡す。
お揃いのストラップ。
こんなもんを渡して喜ぶようなヤツだとは思っていないが、冗談半分で買ってきたものだ。
だからまったく期待していなかったのに、健多はストラップをしぶしぶといった様子で自分のケータイにつけた。
これにはさすがの俺も驚いた。
コイツはどこまで素直なヤツなんだ、と。

届いたデリバリーのピザを食べ終わると、健多に風呂を勧めた。
いつもの俺なら覗いてやろうなどと考えるが、さすがにその日は体力が限界を迎えていた。
かすかに聞こえるシャワーの水音をBGMに、俺はソファに沈んで仮眠をとる。
しばらくすると健多が風呂から上がったようで、起こされた俺は寝室に先に寝ておくように言った……ような気がする。
そしてその後どのくらい経ったか、硬いソファに体が痛くなって目が覚めたので風呂に入って寝直すことにした。
ほんの二・三時間の睡眠だったが体はだいぶ楽になった。
熱いシャワーを浴びて完全に目を覚まし、リビングで髪を乾かして寝室に入ると、ベッドの上に小さな塊が眠っていた。
子供のように丸まっているその姿が可笑しかった。
毛布から頭だけを出している健多を起こさないようにゆっくりとベッドに上がる。
「………ん」
小さく唸る声がきこえたが、起きてはいないようだ。
情事の後に気絶するように眠っているときとは違う安らかな寝顔。
もう少し覗きたくて、少し向こうをむいて寝ている健多の顔の横に手をつく。
ぎしっ。
その衝撃で目が覚めたのか、健多が小さく身じろいだ。
意識は完全に覚醒していないようだが、体が強ばっている。
きゅ、と結ばれたぷっくりとした唇。
こんな愛らしい唇をした人間を俺はコイツの兄、松森幸多しか知らない。俺はその幸多には感じたことのない衝動に駆られ、風呂上がりでまだ温かい指先をその唇に押し当てた。
健多の肩がぴくりと跳ねる。
柔らかい唇。
その感触を味わうように、ゆっくりと左右に撫でてやる。
次に耳朶へ。
軟骨から下へさがり柔らかい皮膚をくすぐってやると、徐々に気持ちよくなってきたのか、健多の結ばれていた唇が小さく震えて開いた。
…………たまんねえ。
快感を堪えるその顔が、俺を煽る。
一週間もオアズケを食らい、そこへこの顔。
俺は本能のままに健多の唇を奪った。
さすがに驚いたのか、健多が暴れ出す。
そのカラダを押さえつけ何度も何度も口づけてやると、目を開けた健多と視線が合った。
戸惑い、恐怖、そして……快楽。
その三つが健多の目から伝わってくる。
やがて本格的に抵抗を始めた健多に、俺は少し意地悪な言葉を吐いてやる。
「お前とのキスは今日が初めてだな」
今までキスはしなかった。
俺たちは恋人同士ではないから。
少なくとも、向こうは俺をそういう対象として見ていなかったから。
すると俺の言葉が気に障ったのだろう、健多が突然怒り出した。
その理由が、これがファーストキスだったから。
それは好都合。願ったりかなったりだ。
「なら覚えておけ健多。俺がお前の……最初で最後のキスの相手だ」
静かにそう告げ、何か言い返されないうちにまた熱く唇を塞いでやった。
俺は完全に欲情していた。
コイツの最初をすべて奪ってやる。
コイツの最後になってやる。
なぜここまで思うのかわからない。
いくら可愛くてもコイツは男で、それにまだ出会って3ヶ月しか経っていないのに。
でも一週間離れ、こうして腕の中に健多を抱いて思うこと。
この一週間、足りなかった。
いくらまだ体が辛くても、こうして触れてしまえば止まらないほどに俺はコイツに飢えている。
らしくない、と自分でも思う。
きっかけは何だったのかわからない。
今でも俺のしたことは犯罪だと思っている。
でも、欲しい。
こんなふうになった理由なんてあとで思い出せばいい。
今はとりあえず、体中を舐め回されただけで堪らない色香を振りまく健多を味わい尽くすことしか考えられなかった。
その晩俺は初めて、自分でも数え切れないほどの熱を健多の中に吐き出した。

次の日、今度は間違いなくぐっすり眠っている健多にそっと口づけしてやったことは内緒だ。

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あきゅろす。
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