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過去拍手文。
松森健多のドナドナ。
ある晴れた昼下がり。
「お〜い!鳴人〜」
新年度が始まったばかりのキャンパスで、遠くから俺「藍崎鳴人」を呼ぶ声がする。
まあ、振り向かなくても誰かはわかる。
この大学で俺を呼び捨てにするのはアイツだけだ。
「ちょっと!さっきから呼んでるだろ〜」
ぽん、と肩を叩かれた。
こいついつの間に背後に来たんだ。相変わらずムダに足が速い。
「なんだよ」
俺は今日、機嫌が悪い。
徹夜明けで頭が痛いのだ。
「あ、クマ。毎日大変だね〜」
「わかってるなら大声出すな」
松森幸多。
どうもコイツはいつも緊張感が足りてない気がする。
大学に入ってたまたま最初の講義で席が隣になった。
少しずつ喋るようになって、まあこうして四年間つるんできた。
俺はこの大学で浮いてる。しかし幸多だけは俺を遠巻きに見たりしない。
それが今でもつるんでる理由かもしれない。
「つか何の用だ。お前今日は説明会に行くんじゃなかったのか」
幸多は俺と違って就職活動真っ最中だ。
今日の予定も企業説明会だとか言ってたはず。
「それは今から。で、その前に鳴人に頼みたいことがあってさぁ」
「頼み?」
珍しい。俺がコイツに代返などを頼むことはあっても、コイツから何かを頼まれたことはない。
「そう!とっても大切な頼みでね。鳴人以外には頼めないっていうか……」
おい、もじもじするな気色悪い。
お前が陰で女どもに「松森くんは絶対に受」とか大学生のくせにどう見ても高校生にしか見えない美少女顔、とかなんとか言われてるのは知ってるが、そのせいで周囲からますます俺は特異な目で見られてるんだからな。
あいにく俺にはそんな趣味はないぞ。断じてない。
「まあ、話によっちゃ聞いてもいいけど」
「ホントっ!?」
目をキラキラさせて幸多が俺の手を握る。
だから周りの誤解を招くようなことはしないでくれ……
「まさかとんでもないお願いとかじゃないだろうな」
「ううん!大丈夫!だって鳴人なら頭もいいし、時間もあるでしょ?」
「おい、ついさっき俺は毎日忙しくて大変だっていう話をだな」
「だったら時間の空いてるときでいいよ!だからお願い!母さんにどうしてもって頼まれちゃってさぁ。ほら、俺いま大事な時期だし……かといって他の人には任せられないっていうか……もし年上のグラマラスなお姉さんとかだったらもう俺、心配で心配で……!」
「………話が全然よめねえよ」
俺のことは無視でメソメソ泣き出す幸多にため息をつく。
すると、がばっと顔を上げて見上げられた。
「だからお願いね!」
「だから何をだ!」
「だから家庭教師」
「だからいつそんな話になった!?つか誰のだ!?」
「だから〜俺の、お・と・う・と☆」
……………………
……………………
…………ほー、弟。
「断る」
「なんでっ!?」
なんでもなにも。
「何で俺が好き好んでカギの勉強みてやらなきゃなんねえんだ!しかも男!まったく楽しくねえ!」
「男だから鳴人に頼んでんじゃん!もし女の人だったらあの子すぐに誑かされちゃうよ!」
「お前の中の家庭教師のイメージはどんなだ」
世間一般の家庭教師に謝れ。
「ね〜おねが〜い!俺の弟可愛いよ?俺に似て。だからきっと楽しいって!」
「お前……………………いや、もういい」
コイツになに言ったって無駄だ。
「あっ写メ見る?こないだ○ィズニーランドで撮ったヤツ!」
いや、そういう問題でなくて………
幸多はいそいそとカバンからケータイを取り出し、開いてそのまま俺の目の前に差し出した。
「じゃじゃ〜ん。どう?可愛いでしょ?」
つか、弟との写真待ち受けですか。
「可愛いったって所詮は男だろ……しかもお前に似てるなんて……」
しぶしぶ見る。
そこには頭に某ネズミの耳を生やした幸多。ものすごい笑顔だ。とてもいいオトナとは思えない。
そしてその横に。
「………………弟?」
「うん、弟」
いや、待てよ。
「………………妹だろ」
どうみたって、コイツは。
「違うよ、弟。松森健多。17歳のぴっちぴち男子高生で〜す」
幸多の隣には同じくネズミの耳を生やした美少女………いや、少年が立っていた
確かに幸多と似てなくもない。
よく見れば目の大きさや、色の白さ。ぷっくりとした唇が幸多とそっくりだ。
犯罪級の美少年。
しかし幸多と明らかに違うのは、彼がとても恥ずかしそうに口を尖らせているところ。
耳も真っ赤で嫌々写真を撮られてる感じが……
「…………いいな」
………はっ!今俺はなにを………!
「だろっ?可愛いだろっ?こんな子と一緒にお勉強してみたいだろっ?」
「イヤ待て俺。騙されるなこいつは男・男・男・男………」
いくら恥ずかしそうな顔がすっげえソソるなんて思っても!
コイツをぐちゃぐちゃになるまで泣かせてみてえとか思っても!
「……………………
………………………
………………………
…いつから始める?」
「やったー決まりね!いつでもいいよ鳴人がヒマなときで!」
幸多は大喜びだ。
まあ、幸多にはいつも世話なってるし………?
俺は都合よく自分に言い聞かせた。






その後、俺は「松森健多」の調査を開始した。
調べた上でやっぱり無理と思えば、幸多がなんといおうと仕事にかこつけて断ろうと思っていた。
満員電車で押さえつけられてちょっと苦しそうな顔。
登校途中に友人と会って微笑む顔。
………やべえ、かも。
俺の中で松森健多への誘惑はさらに上昇した。






「幸多………もし俺が万一、危険人物になったらどうする?」
ある日の食堂で。
俺たちは向かい合って飯を食っていた。
「危険人物?ああ、健多のこと?」
スパゲティをズルズルすすりながら幸多が首を傾げる。
「いや、そうなんだけど、お前どんだけ弟のこと可愛いと思ってんだよ」
「だって可愛いもん」
「…………まあ、それは」
それは、そうなんだが……
「安心してよ鳴人。俺、お前なら気にしないから」
「お前こないだ誰かに誑かされたら嫌だって…」
「それは信用ならない人の場合。もし健多がいいっていうなら、お前なら許してやるよ。悔しいけどお前なら信用できる」
幸多は兄の顔をしていた。
その目は真剣で、頼れる兄貴の顔に見えた。

そう。たとえその口の周りがミートソースだらけだったとしても。
「じゃあ、もらうわ」
健多の意志なんてとりあえず関係ない。
これから心身ともに俺無しではいられなくしてやればいいだけの話だ。
そんな話をしたら幸多が笑いながら言った。
「ナルヒトって、ナルシストとかに改名すべきだよね。まぁ実際カッコいいから誰も文句言わないけど」





次の日、俺は健多に接触した。
何事も最初はインパクトが大事だ。
案の定、俺の存在は健多にとって忘れられないものとなった。
すべて計算通り。
初めて話す健多は予想以上に見事なM体質で、Sな俺はそりゃもう満足した。


俺の人生は、今のところバラ色だ。

Fin.

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あきゅろす。
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