LIBRARIAN〔長編小説〕
12
まだドキドキと煩い心臓を悟られないように、俺は書き終わったメモ帳を胸のポケットに押し込む。
勢いでぐしゃっと丸まったソレも気にせず、自分の財布を手に取った。
「なにしてるの」
それをみていた衛人さんの手がす、と自然に伸びてきて。
「叶くんは払う必要ないから置いていきなさい」
俺の手を、掴んだ。
自分でも驚くくらい肩が震えて。
「ぁっ」
ぼと、と重たい音がして・・・財布が足元に落ちた。
まだ温かい衛人さんの熱が、手の甲からじんわりと。
「す、すみませッ、」
緊張でボーッとしてしまう頭を叩き起こし慌てて財布拾おうと屈んだとき、目の前に飛び込んできたのは。
「ごめん」
「え・・・?」
衛人さんの、悲しそうな顔だった。
なんで・・・そんな顔・・・
「お腹も空いたし、遅くなる前に行こうか」
そう言って微笑む顔は、やっぱりいつもの衛人さんだったけれど。
どこか、なにか少し、今までと違っていた。
自分のことで精一杯の俺はこのとき、そのささいな変化に気づくことができなかった。
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