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LIBRARIAN〔長編小説〕
10
「ドライヤーどうぞ!ありがとうございました!」

テーブルの上に置いてあったドライヤーを手渡し、俺は部屋の隅っこにさがった。

渡されたドライヤーを持ったまま、衛人さんが目を瞬かせる。

「なにかあった?」

「い、いえ。なにもないです。鍋の材料考えないとですね」

近くにいればいるほど俺の気持ちが衛人さんに伝わってしまう気がして怖かった。鳴人さんとあんな話をしてしまったから余計に。

衛人さんには不思議そうな顔をされてしまったけど、いまこの気持ちがバレるよりは全然マシだ。

とにかく、今はバレちゃいけない。

「衛人さん。どんな鍋がいいですか?」

「そうだなぁ・・・俺はキムチって気分だけど叶くんはどう?」

ドライヤーをコンセントに挿しながら訊いてくる様子はすっかりいつもの衛人さんに戻っていた。

危なかった。なんとか誤魔化せたみたいだ。

「俺もキムチ鍋は好きです」

「よかった。じゃあキムチにしようか。やっぱ暑いときは辛くて熱いのが一番」

すっぱりと断言する彼は、やっぱり見た目と反して趣味が男らしい。

ここまで見た目と性格にギャップのある人ってなかなかいないんじゃないだろうか。

俺は衛人さんが髪を乾かしている間に、近くにあったメモ帳に鍋の材料リストをつくった。

掃除のときに冷蔵庫の中も見たから、この部屋に材料になるようなものはないのはわかってる。

きっと料理を作る時もそのときにいるものしか買ってないんだろう。

その生活力の無さは、いっそあっぱれとしか言いようがない。

これだけ手のかかる人なら世話をしたがる女の人もたくさんいるだろうに、好きになるのが男だなんて世の女性が知ったら絶対悔しがるに違いない。

そしてやっぱりそんな衛人さんを好きになった俺って・・・と、心中は複雑だ。

ドライヤーの音が止まって、手櫛で髪を梳きながら衛人さんが俺の手元を覗き込んできた。

「お。さすが叶くん、気がきくなぁ」

「なに買うか忘れちゃいますから」

なんかこんな会話・・・まるで一緒に住んでるみたいだな。

毎日夕飯を考えて、2人で食べて。

衛人さんはたくさん食べるから多めに作って。

想像して、さっきまで沈みがちだった気持ちが少しずつ温かくなってきた。

いつか本当にこうなればいいなんて図々しいことは思えないけど、今この瞬間を楽しむくらいなら許されるはず。

「できた。衛人さんも早く着替えて買い物行きましょう!」

俄然やる気になった俺を見て、衛人さんは柔らかく微笑んだ。

「そうだね。ちょっと待ってて」

そう言うとおもむろに、着ていたTシャツの裾に手をかけた。

そのままするっと脱・・・脱、いッ!?

「っ!」

瞬間的に上がりそうになった声を俺は唇を噛んで必死に堪えた。

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あきゅろす。
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