LIBRARIAN〔長編小説〕
9
「そうだ、連絡」
昨夜、鳴人さんに衛人さんの様子を連絡する約束をしていたことを思い出し、急いで髪を乾かす。
ケータイの電話帳、グループなしを開いて、一番上にあの名前を見つけた。
『藍崎鳴人』。
こうして見ると実感は湧かないけど、これは俺の大好きな木頭ショウスケの電話番号。
昨日は鳴人さんがいま書いている本の話もしたのに、ほとんど頭に残っていない。
ずっと衛人さんのことばかり考えていたから。
一人になると途端に木頭ショウスケを意識してしまって、自然とケータイを握る手が震える。
鳴人さんとはもう何度も会ったし、話もしたのに。
意を決して通話ボタンを押すと、長い呼び出し音の後にはっきりとした声が聞こえた。
「あ、あの・・・俺です。いまお時間大丈夫ですか」
『全然。その様子じゃアイツも大丈夫みたいだな。部屋の片づけはさせたか?』
「はい、俺も一緒に。ついさっきまでかかったんですけど」
『お前も?あんまり衛人を甘やかすなよ。アイツは尻に敷いてやるくらいがちょうどいいんだ』
「尻に敷く!?」
『付き合うならそれくらいの気持ちでいろってことだ』
「えっ、あ、いや、そんな、別に、俺はッ・・・!」
鳴人さんの言葉がいったいどんな意味なのかわからなくて、俺は目に見えて動揺した。
友人として付き合うならってことか?それとも、もしかして俺の気持ちに気づいてる?でも、俺だって昨日気づいたばかりなのに・・・
『・・・やっぱりそうか。まあ頑張れよ。相談くらいならいつでも乗ってやるから』
カマをかけられた、と認識したときにはもう俺は猛烈な勢いでそれを否定していた。
「違いますからッ!そんなんじゃないですッ!」
でも返ってきた言葉は、俺が予想するよりずっと真剣で、しっかりした答えだった。
『藤宮、お前ならいける。俺が保証してやるよ。お前は、ちゃんと衛人と付き合える』
「・・・なんで、ですか」
そのあまりに自信たっぷりな声に、思わず否定することすら忘れて訊き返してしまう。
「俺はあの人のタイプじゃないし・・・可愛くも美人でもないし・・・」
自分で言いながらどんどん自信がなくなって、最後はボソボソと尻すぼみになってしまった。
『人間なんの拍子で誰かを好きになるかわからない。それが今まで考えられなかった相手でもな。それにたぶんアイツはお前のこと、』
カチャ。
「あーさっぱりしたー」
「!」
突然開いたバスルームの扉と、耳に届いた声に思わず俺はビクリと肩を震わせた。
「あ、あのッ、また電話させてください!さよなら!」
『?・・・ああ、そうか。またな』
話を切った俺にこの状況を察したのか、鳴人さんはちょっと可笑しそうに答えた。
急いで電話を切り、カバンの中にケータイを放り込む。
髪を拭きながら衛人さんが不思議そうな顔をしていた。
「ごめん、電話中だった?よかったの?」
「は、はいっ!全然大丈夫ですっ!」
へへへ、と不気味な笑いしか出てこないが、衛人さんは特に気にした様子はなかった。
良かった・・・こんな状況でバレるなんてイタ過ぎる。
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