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LIBRARIAN〔長編小説〕
7
夕方、すべての片づけが終わり、部屋がピカピカになった頃。

汗だくになった俺は衛人さんにシャワーを勧められた。

最初は悪い気がして断ったが、衛人さんが使ってない下着やシャツを出してくれるとまで言うので、お言葉に甘えることにする。

脱衣所でシャツのボタンを外しながら想う。

好きだと認めたのは昨日のことだけど、やっぱりそういう目で見ている人の家のシャワーを使うのはかなり恥ずかしい。

プライベートな空間だし、毎晩そこで彼がシャワーを浴びてるのだと思うと・・・

「俺、なに考えて・・・」

脳裏に浮かんだよからぬ想像を振り払うように、シャワーのバーを思いっきり捻る。

身も凍るほどの冷たい水がカラダを叩き首を竦めるが、そのうちじんわりと熱いお湯が降ってきた。

自由に使っていいと言われたシャンプーやボディーソープで全身を清潔にし、バスタオルで髪を拭う。

ふわ、と香る衛人さんの匂い。

甘くて、透き通って、なんだか気持がザワザワする香り。

「っ、だ、だめだ」

自覚した途端に、今までそんなに気にならなかったことがどんどん頭を占めていく。

こんなんじゃいつか怪しまれても仕方がない。

衛人さんはつらい想いをしたばかりなのに。俺がこんな気持ちで見ていたって仕方がない人なのに。

いくら彼がハルさんへの気持ちを断ち切ったって、いくら時間が経ったって、俺はあの人の好みの人間にはなれないんだから。

・・・そういえば衛人さんの好みのタイプってどんな人なんだろう。

あの夜は暗くてハルさんの顔は見えなかったし、わかってることといえば衛人さんより年上で、気が強くて、いい人、ってことか?

「全然・・・だめじゃん」

バスタオルを被ったまま、俺はガックリと項垂れた。

衛人さんより年下だし、気が強いったって彼の前では全然オドオドしてるし、心のどこかでハルさんと別れた今なら少しは俺のこと見てくれるかもなんて、汚いことを考えるような人間だし。

そんなヤツを好きになってくれるわけない。

それに、顔だって普通で・・・ハルさんってカッコよかったのかな。あの衛人さんが好きになるくらいだから、衛人さんと同じくらい?もしかして、それ以上?

考えれば考えるほどネガティブなイメージしか出てこない。

このままでは風呂を上がる頃に気分が沈んでしまいそうで、俺は溢れ出る思考を強制的にストップした。

何も考えないように心の中で『うあー』『くー』とか意味のない叫びを上げながら、ガシガシと身体を拭いて服を身につける。

衛人さんが渡してくれた新しい下着とTシャツ、そしてジーンズ。

想像通りジーンズは足先がかなり余ってしまって、自分の足の短さを憂いながらロールアップした。いや、きっと衛人さんの脚が長すぎるんだ。そう思いたい。

「お風呂ありがとうございました」

意識して明るい表情でバスルームの扉を開ける。

掃除後で開け放たれたままの窓から、すっと爽やかな夕方の風が走ってきた。

まだ雫を滴らせる髪が揺れて、火照った首筋が涼しくなる。

衛人さんはテーブルで何かを書いていたが、俺の声に振り返って微笑んだ。





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あきゅろす。
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