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LIBRARIAN〔長編小説〕
6
目が覚めて最初に感じたのは、温かな手の感触だった。

重たい瞼をこじ開け、顔を巡らせると。

「あ、起きた」

すぐ目の前に、衛人さんの綺麗な顔があった。

「ぇっ・・・!」

昨日までの酔った姿がウソみたいにすっきりとした微笑みを浮かべていて、朝日が背中から射して。

まるで・・・本物の王子様みたいだ。

そんな人の手が俺の頭を優しく撫でてるもんだから、赤面するなってほうがおかしい。

しかも、昨夜自分の気持ちを自覚したばかりの俺には特に。

「あ、あのッ、これ」

いつの間にか俺は衛人さんの布団の中に入っていて、だからこんなに密着することになっていたんだろう。

「勝手に、スミマセンでしたッ!」

確か自分はカーペットの上に寝ていたはずなのに。

軽くパニックになりながら慌てて布団から飛び出ようとすると、長い指が俺の腕を掴んだ。

「違う。俺が中に入れたんだ。叶くんって一度寝たら全然起きないんだね」

すごく面白かったよ、と意地悪に笑う。

あまりに距離が近いせいか、衛人さんの極上のウィスキーのような声が耳元で囁く。

まるでそれは愛を確かめ合った後の睦言のようで、俺はさっきよりも顔を真っ赤にして俯いた。

前から思ってたけど、この人って天然のタラシだ。俺じゃなくたってこんなことされたら好きになってしまうに違いない。

腕に絡みつく優しい指を意識しないようにしながら聞いた。

「体は大丈夫、ですか。俺、その、具合が悪くなったときのためにこの部屋に残ってて・・・鳴人さんに無理言ってここにいさせてもらってたんです、けど」

緊張と恥ずかしさでボソボソと喋る俺に、彼はまた微笑んだ。

「ありがとう。でも酒は次の日に残らないタイプなんだ。もう全然大丈夫」

「そうですか。それなら、よかった」

あれだけ飲んで頭痛の一つもないことにも驚くが、とにかく迷惑な様子もないことに安心した。

「あの、じゃあ俺帰ります!お邪魔しました!」

俺の腕を掴んだままの手をそっと引き剥がそうとすると、思ったよりあっさり手が離れて行く。

心臓が破裂する前に解放されたことに安堵するけど、それと同時に奪われた熱に寂しさも感じた。

後ずさるように布団から飛び起き、カバンを掴む。

「もう帰るの?せっかくだしゆっくりしていけばいいのに・・・って、こんな汚い部屋じゃくつろげないか」

一応汚いという認識はあったのか、衛人さんは深い溜息をついて身体を起こした。

「参ったな。ここまで汚くするつもりはなかったんだけど・・・今日一日片付けで潰れるか」

掃除苦手なんだよなぁ、と少しわざとらしくも聞こえる声で言い、俺の方をチラッと見る。

そんな顔されたら・・・言わずにはいられない。

「俺、今日ヒマですから手伝いましょうか。その、衛人さんがよければ、ですけど・・・」

「ホント?すごい助かる」

間髪入れずそう返され、一瞬焦った。

もしかしたらこの人、俺の気持ちに気づいてるんじゃないかと。

だとしたらもの凄くタチの悪い人なんじゃ・・・。




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