LIBRARIAN〔長編小説〕
5
衛人さんの面倒を看ると言ってみたはいいものの、とりあえず彼が目を覚まさないことにはなにもすることがない。
ほとんど無断で家に上がっているようなものだからそこら辺のものは触れないし、ヒマ潰しの道具といえばケータイくらいしかなかった。
いつもは持ち歩いている鳴人さんの本を今日に限って家に置いていているのは運がなかった。
「どうしようかなぁ」
この散らかっている部屋を片付ければ一番のヒマ潰しになるけど、さすがに本人の希望がない限りは始められない。
仕方がないので寝ている衛人さんの横に座った。
白いシャツをパリッと着こなして、自分の城のように図書館を歩いている、まるで王子様のような衛人さん。
今だってシワシワの服で、髪もぐちゃぐちゃで、ちょっと口を開けて寝ているけど、やっぱりカッコいい。
こうやって他人の寝顔をじっくり見るなんてこと、あまり経験がない。
規則的に動く胸。無造作に投げ出された長い指。しっかりと閉じられた瞼の向こうで、彼は今、どんな夢をみているんだろう。
ハルさんの夢かもしれない。そう思うとなんとなく面白くない気がする。
いくら頑固な俺でも、さすがにここまでくれば自分の気持ちを認めるしかない。
俺は・・・衛人さんが好きなんだと思う。
そういえば、男を好きになったのはこれで二度目だ。
一度目は、気持ちさえ伝えられずに終わったけど。
「・・・・ん、ぅ」
ピクリ、と衛人さんの長い睫毛が震えた。
起こしたかもしれないと一瞬焦ったが、また深い寝息が続く。
目が覚めて、朝一番に俺の顔を見たら彼はどう思うだろう。
隣にいるのが、ハルさんじゃないことにがっかりするだろうか。
そうじゃなければいいと思う。
喜んでくれればいい。
それはとても叶いそうもない夢だったけれど、俺はそんな素敵な想像を巡らせた。
楽しくも、少し虚しい気分で立ち上がり、部屋の明かりを落とす。
衛人さんの顔が見えないのはいい。
その少し開いた唇に、キスしたいと思わなくて済むから。
隣で吐息だけを聞いて、恋人のように眠れるから。
「危ないのは・・・俺の方です、鳴人さん」
思わず垣間見てしまった自分の大胆さに苦笑しながら、俺は衛人さんの隣に寝転がって目を閉じた。
床に直接置かれた毛足の短いカーペットも、彼の存在を感じれば、俺にとっては最高のベッドだった。
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