LIBRARIAN〔長編小説〕
3
それからは普段のこととか鳴人さんの今書いている原稿の話をして、俺たちは店を出た。
「あー・・・飲み過ぎた」
自動ドアを出てすぐ、店の幟に掴まって衛人さんが座り込む。
「あんなハイペースで飲めば当たり前だろ。ほら」
呆れたような顔で鳴人さんが手を伸ばし、肩を支えた。
こういうところはやっぱり仲が良いと思う。
きっと鳴人さんなら彼を支えることもできるし、こんなにハメを外しても許されるってことなんだろう。
だとしたら、いまここにいる俺はいったいなんなんだろう。
・・・衛人さんといると、ずっと同じようなことばかり考えてしまう。
頼られているのか、そうでもないのか。
いったい、彼にとって俺の存在価値はどこにあるんだろう。
「車回してくる。藤宮、コイツ支えとけ」
「あ、ハイ」
鳴人さんからぐったりした衛人さんを受け取って、壁に寄りかかるようにして彼を支えた。
顔色は悪くない。たぶん、ただの飲み過ぎだ。
いかにもスマートな酒の飲み方をしそうな衛人さんが、やっぱりちょっとヌけてるところがあるのが可笑しい。
「衛人さん、大丈夫ですか?」
「えー?だいじょぶ、だいじょぶ。酔いやすい、けど、抜けるのは、早い、から」
呂律が回っていない口でそんなことを言われても全然説得力がない。
俺は苦笑して背中をさすった。
「気分悪かったら言ってください。水でも買ってきましょうか?」
「いいよー。気にしないで」
そう言ったきり、俯いて顔も上げなくなった。
その横顔は、まるで話しかけられるのを拒んでるようにも見えた。
やっぱり、本当は傷ついてるんだ。
傷つかないはずがないんだ。
それを隠すのが、この人はあまりにも下手だというだけで。
以前、衛人さんに言われたこと。その一言が俺の脳裏に蘇る。
『俺は、泣けないから』。
きっと本当のことなんだと思う。
彼はつらいことがあっても泣けない代わりに、自分の感情を誤魔化すのも苦手なんだろう。
本当に、不器用な人。
「・・・・」
肺のあたりが引き絞られるように痛む。
俺は、この人を助けたい。
いつも笑っていられるようにしてあげたい。
俺だったら・・・もし、ハルさんじゃなくて俺だったら・・・
この人を、こんなに悲しませな、
「藤宮、乗れ」
突然耳に飛び込んできた声に、俺はハッと顔を上げた。
目の前にはいつの間にか黒いスポーツカーが停まっている。
運転席から鳴人さんが後部座席を指差した。
「どうした?」
「い、いえ。なんでもないです!」
狭い道路だからあまり長く駐車できない。
俺はぐったりしている衛人さんを抱えて、ヨタヨタと車に乗り込んだ。
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