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LIBRARIAN〔長編小説〕
2
あの・・・と、何度話を切り出そうとして思いとどまっただろう。

まさか失恋した人に直接「失恋したんですか?」なんて聞けるほど俺は図太くもないし、かといって衛人さんが自分で「フラレた」と宣言したからには、なにか気の効いたコメントのひとつも言わなければいけないんだろうかとも思ってしまう。

嘘臭い甘さのオレンジジュースにちびちびと口をつけながら、俺はどうすることもできずにテーブルの上の料理を見ていた。

その間にも俺以外の2人はものすごいスピードで皿を片づけていく。

2つの良く似た顔に遠慮なんてものはないし、そもそも衛人さんすらいつもの朗らかな表情だった。

そういえば、あることが気になっていた。

鳴人さんは衛人さんの恋人のことを知ってるんだろうか。

俺は他人だからカミングアウトしても別に問題はない。でも鳴人さんは家族だ。

もし家族に衛人さんのプライベートなことが隠されているのなら、俺がうかつなことを喋るとマズイことになるかもしれない。

やっぱりここは黙ってよう。変に気を使うのも衛人さんにとっては迷惑かもしれないし・・・

「で、向こうはやっぱり見合いするって言ったのか?」

・・・・あ、全部知ってるんですね。

唐揚げを烏龍茶で流しこんだ鳴人さんの何気ない一言に、俺の顔は引き攣った。

しかし動揺したのは俺だけみたいだ。

「もうしたってさ」

こちらは皿に残った最後の唐揚げを箸で摘みながら言う。

「あの人、お前とそんなに歳変わらないだろ。見合いする必要なんて、」

「そのくらいの気合いがないと別れられなかったんだと。結局今回の見合いはダメになったみたいだけど」

・・・ダメ、だったんだ。

っていうことはまだハルさんはフリーっていうことになるんだろうか。

「だったらお前は。もう戻るつもりはないのか」

それは鳴人さんにとっては何気ない一言だったのかもしれない。

でも俺にとって、なぜかわからないけど、その質問はとても胸が痛むものだった。

衛人さんの答えが気になる。

もし、もう一度ハルさんを説得したとしたら・・・可能性がないとは言い切れない。

アルコールが入ってるわけでもないのに俺の心臓はドキドキと強く脈打っていた。

しかし衛人さんはあっさり言った。

「だから、フラレたんだって」

それからその日あったことを話してくれた。

ハルさんの実家に行って、彼を呼び出したこと。

今まで振り回してしまったことへの謝罪。

本当は、まだ好きだということ。

衛人さんがすべてを話しても、やっぱりハルさんは受け入れなかったそうだ。

確かに恋愛感情は残ってる気がする。でもそれは以前のような幸せな感情じゃなくて、終わりが見えてるから辛いだけだと。

その言葉を口にした一瞬だけ、衛人さんの顔が歪んだ。

これが、行き場をなくした想いを抱えた人の顔なんだと思った。




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あきゅろす。
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