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LIBRARIAN〔長編小説〕
1
「俺の奢りだからいっぱい食べてね」

BGMがかき消されるくらい客の声が騒がしい店内でも、衛人さんの陽気な声はよく響いた。

「・・・」

「・・・」

ビールジョッキ片手に枝豆を摘んでいる彼の目の前で、俺たちはお互いに顔を見合わせる。

俺達、というのは鳴人さんと俺。

なぜこの3人が集まっているのかというと、理由は衛人さんからの一通のメール。

『食事でもどう?』

実は衛人さんと会うのは久しぶりだった。

ハルさんの話をしたあの日、彼は俺を家まで送る車中で言った。

「ハルさんとちゃんと話してみようと思う」

俺もそれがいいと答えた。

だって、部外者の俺から見ても今の彼はとてもつらそうだったから。

そしてできるなら、そんな衛人さんはもう見たくなかった。

うまくいけばいい。

心の底では違う感情が渦巻いているくせに、俺は自分がそう願ってるんだと思いこもうとした。

そして今日、衛人さんと待ち合わせの場所で顔を合わせたとき、あの日ハルさんとどんな会話があったのか想像できた。

お互いの気持ちの擦れ違いがなくなって、きっと衛人さんの気持ちが伝わって。

そう思ってしまうくらい明るい顔だったのに。

連れてこられた店は衛人さんのなじみの居酒屋で、なぜかそこには鳴人さんが待っていて。

衛人さんはビール、鳴人さんは烏龍茶、そして俺は「未成年だから」と衛人さんに勝手にオレンジジュースを注文されて。

到着したグラスをそれぞれが手に取ったとき、彼は言った。

「フラレた記念に」

一瞬聞き間違いかと思った。それくらい彼の表情と言葉は矛盾していた。

鳴人さんも隣で驚いた顔をしていて、今日のことについてなにも聞かされていなかったんだとわかる。

結局、俺も鳴人さんも言葉が出なくて、グラスはカチンと儚い音をたててぶつかった。



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あきゅろす。
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