LIBRARIAN〔長編小説〕
5
「俺、謝らなくちゃいけないことがあって」
「・・・なに?俺なにかされた?」
「いえ。そうじゃないんですけど・・・」
俺はすべてを彼に話した。
あの夜の会話を聞いたこと、衛人さんの恋人が男だと知ってしまったこと。
すべてを話してしまえばすっきりするかと思ったのに、俺の心に残ったのは何とも言えない後味の悪さで、話し終わった後も顔を上げることができなかった。
それなのに衛人さんは。
「なーんだ。そんなこと」
俺の悩みなんてどうってことないとでも言うように笑った。
そのあまりに安心した顔に、俺は目が点になった。
「よかった。俺てっきり叶くんに嫌われたのかと思って。もう友達やめようって言われたらどうしようかって焦ってた」
「いえ、違うんです!」
そんなことないって言ってるのに、なんでこの人は信じてくれないんだろう・・・
「それよりも、大事な話勝手に聞いちゃってすみませんでした」
俺の濁った気持ちは衛人さんの一言で消えうせた。不思議だ。
「いいよ。それ叶くんが悪いわけじゃないし。むしろ俺達だよ悪いのは。ごめん、痴話喧嘩なんて聞かせて。不愉快だったろ」
しかも男同士、と苦笑いする。
「不愉快とかじゃないです!ただ、ちょっとびっくりしただけで・・・」
まさか衛人さんが男の人と付き合っているとは思ってもみなかったし、俺なんかが口出すようなことじゃないのもわかってる。
だけど、どうしても気になってしまう。
それはたぶん、衛人さんが俺の前で明るくふるまっても、その裏になにか強い想いを感じるからだ。
以前の俺だったらそんなささいなことには気づかなかったかもしれない。
でも今の俺にはわかる。
衛人さんはきっと、あの人のことを考えてるんだと。
「別に隠してたわけじゃないんだけど、わざわざ自分から言うことでもないしね。それに・・・怖かったのもあるかな」
「怖い?」
「そう。俺が男を恋愛対象として見てるって知ったら、叶くんは警戒しただろ」
「あ・・・」
たしかに、最初に知らされたらいやでも意識してしまうことだ。
現に衛人さんはすごく親切だし、俺だってちょっと勘違いしてしまうほどだった。
「ね?それが嫌だった。俺は叶くんとはいい関係を続けていきたかったから」
返す言葉も見つからない俺を衛人さんは責めない。
「・・・衛人さんは、どうしてそこまで俺に親切にしてくれるんですか」
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