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LIBRARIAN〔長編小説〕
4
「あー・・・風がきもちいいなぁ」

ちょうど後ろから吹く風が夏の暑さを和らげてくれる。

衛人さんのサラサラした髪が風になびいて、それがとても綺麗だと思った。俺なんかがいま隣に座っているのがおかしいんじゃないかと思うほどに。

足元の草がそよそよと風に揺れる。俺は何もかける言葉が見つからなくて、ただ黙ってソフトクリームを齧りながら草を眺めていた。

そのまましばらく、時間が止まったような空気が僕たちを包む。

「叶くん」

「はいっ」

突然、衛人さんが口を開いた。

いったい何を言われるんだろうと身構えて顔を上げると、目が合った衛人さんの表情は柔らかかった。

「俺の勘違いだったらごめん。でもなにか、俺に言いたいことがあるんじゃないの?」

「・・・・え?」

一瞬、彼がすべてを知っているのかと思った。

まさかあのとき俺の姿が見えていたのかもしれないと。

でも俺は街灯の近くにはいなかったし、駐車場のほうが明るかった。見えていたはずはない。

それでも衛人さんの声はなにか確信めいたものがあった。

「俺の気のせいかもしれないけど。この間の電話から様子がおかしかったから」

ごく、と自分の喉が鳴る音が響いた気がした。

俺、馬鹿だ。やっぱり全然隠し切れてなかった。

「えと・・・・や、何もないですけど」

そんな震えた声で言ったところで衛人さんにはバレバレだろう。なにか隠していると言っているようなものだ。

「そう」

案の定、彼は少し寂しそうに眉をひそめた。

その顔があまりにも・・・痛そうで。

そんな顔をさせてしまったことへの動揺と、あの夜から突然俺にも見えはじめた衛人さんの生身の心が胸を強く打った。

この人にこんな顔をさせたくない。

誰だって、きっと、自分になにか隠しごとをされていると思っていたらこんな傷ついた顔をするだろう。

「・・・・衛人さん」

とうとう、俺は口を開いてしまった。

このまま衛人さんに寂しそうな顔をさせることのほうが、大事な話を立ち聞きしてしまった罪を告白ことよりずっとずっと嫌だった。




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