LIBRARIAN〔長編小説〕
3
「・・・広いね」
「・・・・・・・・・そうですね」
目の前には果てなく続く草原、草原、草原。
ときどきむこうのほうに小さく見える白い塊は羊。
それより大きな茶色い塊は牛。
つまりは・・・・・牧場だ。
「こういうのもいいよ。普段こんな大自然に触れることもないし」
俺の隣で車に背を預けていた衛人さんが大きく伸びをした。
まさかあのときとっさに思いついたのが、大学に入ってすぐ、できたばかりの友達とフラッとでかけた牧場の名前だったなんて。
あのときも、普段は街に住んでいるぶんたまには自然もいいだろう、と車で4時間かけて県外れの牧場を目指し、いざ着いてみるとあまりの何も無さに呆れ、3人で茫然としたのに。
「・・・スミマセン」
こういうときの機転の利かなさに自分を呪いたくなる。
それでも衛人さんは、なに言ってんのと笑ってくれた。
「ちょうどいろいろ溜まってたからさ。こういうところのほうが逆に落ち着く」
「あ・・・そう、なんですか」
遠くの方を見つめながら言うその横顔が、微笑んでいるのに切なく見えるのは俺の色眼鏡のせいだろうか。
なんだかよくわからないモヤモヤとしたものが心の底にわだかまって、俺は黙りこんでしまった。
「そうだ。あっちの方でソフトクリーム売ってたね。こういう場所のアイスっておいしいイメージあるし、食べてみる?」
「はい」
売店、というか小屋のような場所まで歩き、そこにいたおばちゃんにソフトクリームをもらう。
色の濃い白でつるんとした滑らかなアイスは、見た目も味も予想以上に素晴らしかった。
「うまい」
甘いもの大好きな俺は今までいろんなアイスを食べてきたけど、これほど濃厚でクリーミーなソフトクリームを食べたのは初めてだ。
それは衛人さんも同じだったようで、一口食べると少年のように目を輝かせた。
「お〜うまい!」
にっこりと俺の方を振り向いたので、俺もつられて笑ってしまう。
「おいしいですね」
なんて衛人さんがおばちゃんに素敵スマイルを送ると、おばちゃんはうっとりと頬を染めて『そう?』と嬉しそうだ。
「あっちにベンチがあるから、そこで食べたら?」
「あ、そうしようか叶くん」
「はい。ありがとうございます」
親切なおばちゃんにお礼を言って俺たちは売店から少し離れたベンチに移動した。
そこはちょっと小高い丘になっていて、広い牧場のかなり先まで見渡せる場所になっている。
といっても目の入ってくるのはやっぱり草原だけど。
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