LIBRARIAN〔長編小説〕
1
それは突然の電話だった。
珍しく平日にバイトが休みになり、たまには家でゆっくりしようとしているとき、ふとケータイが鳴った。
大学の友達にはバイトが休みになったと話した記憶があるから、もしかしたら遊びの誘いかも。
そんな軽い気持ちでディスプレイに表示された名前を見て、俺は一瞬固まった。
・・・衛人さんだ。
実は衛人さんたちの会話を立ち聞きしてしまった夜、俺はそのまま家に帰っていた。
向こうは知らないこととはいえ、あんな話を聞いてとてもじゃないが衛人さんに普通の顔をして会える気がしなかったからだ。
きっと俺はすぐに顔に出てしまうし、衛人さんだって好んで聞かれたくはない話だろう。
とても気まずくて、また連絡するのを先延ばしにしてしまっていたけど。
いつまでも鳴りやまないケータイを見ているのもつらくて、俺は思い切って電話をとった。
「・・・・・はい」
『うわっ・・・あ、ごめんもう出ないかと思ったから。叶くん、いま時間大丈夫?』
ちょうど電話を切ろうとしていたところだったのか、衛人さんはちょっと焦ったようだ。
彼が慌てて電話を耳に当てる姿を想像するとおかしくて、さっきまでの緊張がウソのようにほぐれていく。
思わず笑いそうになるのをこらえ、慌てて答えた。
「今日はバイトが休みだったんです。すみません、ずっと連絡できなくて・・・」
俺の言葉に衛人さんが安心したような声を上げる。
『ホントだよ。もしかしたら嫌われちゃったのかと思って』
「そんなことないです!」
もちろんそれは本当。
たしかに衛人さんに対してはいろいろ戸惑うこともたくさんあるけど、あんな今まで見たこともない気性の激しい一面を知っても嫌いになることはなかった。
ただ、恥ずかしさと申し訳なさで今日まで連絡する勇気がでなかっただけだ。
『そうかな。疑わしいね』
俺の言葉を信じているのかいないのか、衛人さんは笑いながら言う。
『俺、叶くんに嫌われたらすごく傷つく』
「だから、嫌いじゃないです」
嫌われたら。
その一言が俺にあの夜のことを思い出させた。
絶対に俺なんかが口を出してはいけないあの出来事。
絶対に聞いてはいけない。でも、間違いなくいま俺が一番気になっていること。
・・・衛人さん。あのハルさんって人に嫌われたら?もっと傷ついてるんじゃないですか?
そんな言葉がフッと浮かんできて、思わず胸が絞めつけられた。
慌ててその考えを追い払う。
間違っても、部外者の俺なんかが口にしていい言葉じゃないから。
何か話をそらすうまい口実はないかと考えて、何故いま彼が俺に電話をかけてきたのかを思い出した。
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