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健多くんシリーズ。(短編)
届かない。
説明:※性描写なし、ある意味切なめ(笑)




僕のカラダは少しずつ、アイツから与えられる快楽に慣れてきている……


―――――届かない。





「鹿児島?」

「ああ。一週間くらいな」

今日は水曜。

いつものようにテストの成績が悪く、たっぷりといやらしい苛めを受けた後。

椅子に座ってぐったりとしていた僕に藍崎は突然、明日から鹿児島に行くと言った。

「旅行かなにか?」

「いや、観光しに行くわけじゃないけどな。だから明日から一週間、コレで自習してろ」

そう言ってカバンから取り出したのはテストの束。

「なんだよその量……」

僕はウンザリした。

軽く5センチはある。

机に放るとドサッと音がした。

「帰ってきたら採点するからな。一枚も残すなよ」

「うえー」

吐き気がした。

でも待てよ。

一週間自習ってことは………

「………一週間、自由?」

久しぶりの完全なる自由。

これはむしろ喜ぶべきことだ!

「行ってらっしゃーい!」

帰り支度を始めた藍崎に、僕はウキウキで言った。

こんなことを言ったら「俺がいなくて寂しいだろ?」とか「いない間、自分でやらしいことするんだろ?」とか嫌がらせの一つや二つ言われると思ったが、

「ああ。真面目にやっとけよ」

と、藍崎はそそくさと帰っていった………





そして次の日から一週間、僕は自由を満喫した。

友人たちと外食をしたり、カラオケに行ったり。

二日にいっぺん藍崎が来るいつもならなかなかできないことをしまくった。

ずっと帰ってこなければいいのに。

楽しい時間の後、僕は毎日そう思って眠りについた。

そして瞬く間に一週間が過ぎ、さすがにサボりがちだったテストの山を片づけようと机に向かったとき。

チャララララチャラララ〜♪

着信。

「あ〜嫌な予感……」

嫌々ケータイを見ると、案の定、藍崎から。

僕は出るべきか迷った。

今かかってくるということは、近々戻ってくるのかもしれない。

かなり嫌だ。

でも今この電話を無視したら、帰ってきたときになにをされるか………

「………もしもし」

自分の身が可愛いので、僕はしぶしぶ電話に出た。

『コンバンワ!』

「…………え?」

てっきり藍崎のあの不気味な低い声が聞こえてくるものと思ってたのに、耳に届いたのは若い女性のものだった。

「あの、どちら様ですか?」

間違い電話?でも、かかってきてるのはアイツのケータイからだし……

『あ、はじめましてよね?私、』

『おいこら、カホ!何やってんだ!』

電話の向こうから藍崎の怒鳴り声が聞こえた。

「あ、藍崎?」

謎の女性と言い争いが始まったようだ。

勝手になにしてんだとか、別にいいじゃないとか。

かなり激しい戦いが続いた。

そしてしばらくして、女性の不満そうな声が聞こえ、ケータイが藍崎の手に戻ったようだった。

『おい!健多!』

「え、うん」

なんだか焦ったような声。

藍崎のこんな声、初めて聞いた。

「なんか、いいの?そっち取り込んでるんじゃ……」

『いや全然!悪かったな急に!』

ハハハ、とこれまた初めて聞く乾いた笑い。

いったいどうしたんだコイツ。

「あのさ」

『ん?なんだ?』

「せっかく彼女さんとの旅行なんだろ?もっと優しくしてやりなよ」

『へっ?』

好きな人には優しくしろ、というのが死んだ父さんの口癖だった。

僕だっていつか好きな人ができたら、めちゃくちゃ大切にしたいと思うし。

「アンタみたいな人と付き合ってくれてる優しい人なんだからさ。大切にしろよ。じゃ」

『はっ!?ちょ、ちょっと待て健多!コイツはそんなんじゃ………!』

プツッ。

「はぁ、あんな最低野郎の彼女って大変だなぁ」

まぁ藍崎だって好きな人くらいはアイツなりに大切に扱うんだろうけど。

「さ、テストテスト」

僕はケータイをベッドに置き、テストの束に向き直った。

「………そういや彼女さん………僕に何の用だったんだ?」





届かない想い。
届かない声。
届かない、弁解。

Fin.


続く。

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